暑い。とにかく暑い。
まだ朝食の時間帯だというのに、既に日は高く昇っている。

「あ〜ち〜い〜」
オレは未だにベッドから出れずにいた。
でも、こんな何の得にもならない暑さも
オレにとってはかなりの嬉しい出来事が待っていたりする。




手を繋ごう




何なんだこの暑さは。この世の全てを溶かしてしまいそうな勢いだ。
動物園のペンギンも、北極辺りの白熊や氷も、みんな溶けかかっているに違いない。
・・・待てよ、白熊は南極だっけか?まあ、そんなことはどうでもいい。
とにかく、朝も早くからそんな暑さだった。

「レオリオ!いつまで寝ているんだ、早く起きろ!」
寝返りを打って窓の方を向いたオレの背後から、聞き慣れた声が迫ってくる。

「ダメだ〜あぢいよ〜クラピカ〜」
「暑いのは当たり前だ!」

そう言ってクラピカはオレに覆いかぶさるようにして強引にこちらへ向かせようと、
ベッドに飛び乗って馬鹿力で引っ張った。
そんなにくっついたら暑いだろ・・・と言いたいところだが。
横を向いたオレの肩の上には、丁度クラピカの柔らかい胸が・・・・

・・・ん?コイツこんなに胸でかかったか・・・?
腕に重なる肩も、何だかひんやりと冷たい。
オレは勢いよく飛び起きた。

「うわっ!?」
急に起き上がったせいで、クラピカはバランスを崩して危うくベッドから落ちそうになった。

「――・・・・」
そして、オレが見たのは。
「・・っ危ないではないか!全く・・・」

細い肩紐の、薄いキャミソールに、七分丈のハーフパンツのクラピカ。
「おまえ、そのカッコ・・・・」

別にひらひらのドレスを着ているわけでも
スカートをはいているわけでもないのだけれど。

それはそれはもう、ほんとうに天使のようで。
背中に羽根まで見えた気がする。

オレはすぐに目が覚めた。暑さなんてくそくらえだ。
・・・いや、暑いからこそクラピカはこんな装いなのだから、この暑さには感謝すべきだろう。

――頭まで冴えた。
今ならどんな難解な試験問題だってスラスラだ。

可愛いだけならまだいいのだが。

横から覗き込めば、浅い谷間が見えそうなほどギリギリまで開いた胸。
形がよくてしなやかなふくらみがはっきり見えて、
いつもは全く目立たない貧相な胸がやけに色っぽく見えて――

少し短めのハーフパンツからのぞく白く細い足。
オレとしてはもう少し出してもいいと思うのだが。


初めて見る、クラピカのこんな薄着は。
今までどんなに暑くても、絶対にキャミソールなんか着てはくれなかったし、
暑いなんて一言も言わずに暇なときは本ばっかり読んでいた。

分厚い民族衣装を――普段でも人より厚着が多い――着ているクラピカは、なかなか体の線を見せてはくれない。


いきなり何の断りも無くこんなに激しく露出をされては正直困るのだが――


そんなこと関係ない。これは自己実現に向けて日々鍛錬しているオレへの、神様からのプレゼントだ。
ちょっと大げさか?


しかし。一つ問題がある。
こんな格好で外に出てみろ・・・
よからぬ考えを持った男どもで溢れ返っている「外」にこんな薄着で出したら
そりゃあもう危なっかしくてしょうがねぇ!!
そうなれば、オレがちょっと目を話した隙に・・・


そんなことがあってたまるか!!




ベッドの上で胡坐を掻きながらそんなバカなことをもわもわと考えているうちに、
クラピカは何やら買い物用のバスケットを持って、出かける準備をしていた。

「レオリオ!野菜が切れたから買ってくる。おまえは掃除をしていてくれないか?」



ま・・・マジすか?

「クラピカ〜〜〜!!待て!!表行くんならちゃんと上着てけ!ほら〜!!」
オレは慌ててクラピカのもとへ駆け寄って、
薄い長袖のカーディガンを、丸みを帯びた白い肩にかけてやる。

「なっ、なんだいきなり?外はこんなに暑いんだ。こんなもの着ていけるか!」
「ああっ!なにすんだ!」
クラピカそんなオレの気持ちも知らずにカーディガンを脱ぎ捨てる。

「だから・・・っおまえがそんな薄着で出て行ったら、他の男がおまえに寄ってきちまうだろ!」

たまらなくなって、思わずクラピカを抱きしめた。
当の本人は目を丸くして、
「おまえ・・・まさかそんな心配をしていたのか?」
「・・ああ」
歯切れの悪いオレの返事を聞くと、クラピカはオレの胸に頬をこすり寄せて、可笑しそうにクスクス笑う。

「なっ・・・何が可笑しいんだよ」
「いや、私はそんなつもりでこんな格好をしているわけではないし、
それに私はレオリオ以外の男に興味は無いから。
まったく・・・子供じゃあるまいし、そんなに取り乱すな」
さらりと嬉しいことを言って、笑いながらオレに腕を回すクラピカ。



「・・・たとえゴンやキルアでも?」
――おまえは妬いてくれるか?
「あいつらももう15だろ。立派な男じゃねぇか。ぜーってぇ見せない。」
「私は別にかまわないが?」
「〜!!」
「冗談だ。おまえだけだよ」

全く、オレのお姫様はどうしてこうも可愛いのかね。






その髪も肌も心も
全て自分のものにしたくて
他の男になんか見せたくなくて

異常なまでの独占欲。
自分でもつくづく心配のしすぎだと
充分承知している。

束縛はしたくない。
でも。

「なぁ。そういうカッコは・・・オレの前だけで見せてくれよ?」

いつでも隣に居て
ギュッと手を繋いでいないと

こういう心配は尽きないのだ。



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