防げることは防ぐ。
無理をするなんて頭のいい奴がすることじゃない。
でもクラピカは無理をするんだ。
休むことを知らない。
それをオレが止めなくちゃならない。
クラピカはいまだにオレの気持ちをわかってくれちゃいない。
特別
クラピカは疲れている。
体がだるくて、頭もくらくらする。
毎晩毎晩、なかなか寝かせてくれない誰かさんのせいでもあるのだけれど―――
8割は、連日の激務。
特にハードだったここ3日間。
それに加えて、風邪をひいてしまったようで。
時刻は夜7時。
クラピカは頬を上気させながら、レオリオの待つ家までふらつく足取りで帰ってきた。
「ただいま・・・」
そして彼と顔をあわせると同時に、ひょいっと抱き上げられ、寝室へと運ばれた。
それが何を意味するのかわからないほど、今のクラピカは鈍感ではない。
何度も何度も、それを経験したから。
「レ、レオリオ!ちょっと待・・・っ」
抵抗もむなしく、静かにベッドに横たえられる。
そして―――
「風邪だな」
「え・・・・・?」
「風邪だよ。熱がある。今、氷嚢もってきてやるから。その間に着替えとけ」
慣れた手つきでクラピカに毛布をかけて、その小さな手を握り締める。
クラピカは驚く間も、返事をする間もなく、ただただ彼を見つめるしかなかった。
一目見ただけで、わかったのだろうか。
私がいつもと違うことを。
(もう・・・一人前の、立派な医者なのだな・・・)
今思うと自分の早とちりも恥ずべきものだが、それだって、
わざわざあんな紛らわしい行動を取ったレオリオのせいだ。
無理矢理にでもそう思わないと、まるで私が期待していたようで、いてもたってもいられない。
「コラ、ちゃんと着替えとけって言っただろ」
いつのまにかレオリオは新しいタオルと氷嚢を持ってドアの前に立っていた。
気配も感じられなかった。
それだけ今の私は弱っているのだろうか。
仕事が
あるのに――。
「ほら、早く着替えろ。で、熱も測れよ」
明日も変わらず仕事に行くといったら
レオリオは怒るだろうか。
こんな状態で行ってどうするんだと。
無理するなと。
「・・・今おまえ、仕事のことで頭いっぱいだろ」
・・・ほら
いつだって見透かされっぱなしなのだ。私の心は。
「なぜわかる」
「見てりゃわかるっつーの。いいか?オレの言うことよーく聞けよ。
いくら風邪――・・・」
「”いくら風邪だからって油断してたら大変なことになる。
こじらせて肺炎にでもなったらおまえ、オレを殺す気か?”――だろう?」
「・・・・・わかってんじゃねぇか」
「あたりまえだ」
「そこまでわかってんなら平気だな。治るまで無理すんなよ」
「ああ。・・・明日はちゃんと休むよ」
「”明日は”じゃねぇよ、”治るまで”だよ!ったく、やっぱわかってねぇじゃねーかよ」
「はいはい、ちゃんとわかってるのだよ」
口に手を当てて小さく笑った途端、優しく抱きしめられた。
こういうタイミングで
こんなに優しくされたら
泣いてしまうかもしれない。
「・・・安心した。やっとオレの気持ちが通じたな」
「・・・なんのことだ?」
「前はオレが何言っても聞かなかったのに、ようやくいい子になったなってさ」
「・・・主治医の言うことはちゃんと聞くことにした」
レオリオは目を丸くして驚いた後、照れ臭そうに笑って、私の額にそっとキスをした。
「早く治るように、特別な薬だよ」
確かに
どんな特効薬よりも
私には一番効く治療法かもしれない。
2006/07/24
BACK