こうやって抱き合って、いっぱいキスしよう。





キス





「じゃ、行ってくる」
レオリオは玄関先で、もう一度ネクタイを締めなおす。
このときの手つきを見ているのが好きなのだと、クラピカは言う。
レオリオは手が大きくて指も長くて、そんな彼がネクタイを締めるという行為は、
意味も無く男らしくて、見とれてしまうのだそうだ。
以前酔った勢いで話してくれた。彼女は一生の不覚だと落ち込んだ。



そして今日も、やっぱりかわいい。オレの奥さんは。
親バカならぬ、妻バカか。思わず顔がにやける。
「なんだ」
「べつに?」
「・・・気になる」
「今日もおまえは綺麗だなって」
「・・・聞かなければよかった」
「なんで」
「・・・・・・・べつに」

20センチも下にある小さな顔はプイと横を向いてしまった。
大きな目を伏して、頬を桃色に染めている。
まったく、ほんとにかわいいなあ。



「・・・気を付けるのだよ」
「おまえに言われたくねーな」
「なに?」
「こないだキッチン爆破事件を起こしたのは誰だっけか?」
「・・・」
「ったく、家中に監視カメラつけて仕事中も見張ってないと心配でしょうがねえ」
「それは大げさなのだよ」

目を細めてクラピカはおかしそうに笑った。
ころころ変わる表情を、ずっと見ていたい。
だから今日もずっとそばにいたいんだけどなあ。


ふとクラピカがレオリオの胸元に手を伸ばした。
キスされるのかと驚いた。そんな期待は虚しかった。

「まったく、ネクタイくらいちゃんと締めろ」
キッチリしめたはずのネクタイは微妙に曲がっていた。
クラピカは細い指でそれに手をかける。


玄関の段差のおかげで、二人の身長差は少しだけ縮まった。
それでもまだ、大きく首を反らせないとレオリオの顔は見えない。
でも、自分はこの激しい身長差が好きなのだ。
この大きな体で抱きしめられるのはとても嬉しい。
レオリオのネクタイを見ながら、クラピカはつくづくそう思う。

好きな人の事を考えていると、自然に笑みがこぼれてくる。
これは不可抗力だと、いつも、自分にそう言い聞かせることにしている。

「・・・?何笑ってんだよ」
「何でもな――」

頬に柔らかい唇の感触。
レオリオのキスはいつも突然で、不意打ちをくらったみたいで悔しい。
本を読んでいるときも
疲れて眠っているときも
喧嘩して気まずいときも
泣いている時も
笑っているときも
振り向いた瞬間も
まったく、この・・・キス魔め。


「ありがとな。・・・じゃ、行ってくっから、戸締りはきちんとしろよ?」
日頃から用心深い彼女には無用の言葉だったが、口癖になってしまった。



こういうときいつも思う。
こいつは本当にほんとうにずるい。
「・・・レオリオ」
「ん?」
「もう一回」

今度は唇に、という意味で震える指で自分の唇を指した。
「・・・ダメか?」
ああ、何でこんなことを言っているのだろう。
わからない。けれどこれは自分の意思。


こうしてキスされる瞬間は恥かしくて、それでも嬉しかった。
朝の束の間のこの時間。
レオリオは革のバッグを持ったままクラピカをすっぽり抱きしめる。
「・・・なぁ知ってるか?いってきますのキスで平均5年は寿命が延びるんだってよ」
「・・・知ってる」
「免疫力も高まるんだって」
「それも知ってる」

「だから毎朝オレにキスしてくれる?」
「そのつもりだ」


溢れそうなこの気持ちを、このキスに込めて。



いってきますのキスで寿命が延びる・・・というのは本当のようです。
いつだったか「奇跡体験ア●ビリバボー」で”簡単に出来る健康法”という形で紹介していました。
キスって大切です。

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