この日からオレはクラピカを意識するようになった。
夢
(今・・・何時だ?)
レオリオは目を覚ました。
窓の外はまだ真っ暗。月が綺麗に光っている。
隣のベッドにはゴンとキルアが眠っている。
二人とも、寝相が悪い。
キルアなど枕に足を乗せている。
(・・・ったく、やっぱりまだお子様だな・・・)
ふと枕もとの時計を見る。午前2時。
明日も、過酷な試験だ。
なにしろこれはハンター試験。体力勝負である。
早く寝付かなければ。
再び布団にもぐろうとしたそのときだった。
(あれ・・・?)
ゴンとキルアの向こうの、クラピカのベッドが空だ。
(・・・トイレか)
別に何も不思議がることはない。
レオリオはそのまま、すぐに再び眠りについた。
そしてまた目が覚めてしまった。外はやっぱりまだ暗い。
(・・・だめだ。なかなか寝付けねえな・・・)
寝不足は大敵だというのに。眠らなくてはと、あせればあせるほど眠れないのだ。
(・・・ん?)
なんだか
わきの下が温かい。
寝ぼけてはいたが、その違和感には気が付いた。
(なんだ・・・?)
掛け布団を、めくってみる。
と、そこには。
(・・・ク、ククククラピカ!?)
なんとそこにいたのは、3つ先のベッドに寝ているはずのクラピカだった。
「スー・・・スー」
あどけない顔で静かに寝息を立てている。
・・・もちろんだが、レオリオは混乱する。
(な、なんでクラピカがオレのベッドに・・・・
夜這いか・・・?いやオレじゃないんだから・・・
ええと、オレ、さっき起きたよな、そのとき・・・)
そのとき、確かクラピカは自分のベッドにいなかった。
(――そうか・・・)
レオリオはまだ覚めていない頭で必死に考える。
つまりこういうことだろう。
クラピカは目を覚ましてトイレに行き、帰ってきたはいいが、寝ぼけて間違えてレオリオのベッドに入りこんだのだろう。
(おいおい・・・)
クラピカはぴったりとレオリオの脇腹と腕の間に入り込んで、気持ち良さそうに眠っていた。
あまりに密着しているので、いやでも目がさめてしまった。
どうしよう
起こそうか。
でも、こんなに深く寝入っているし・・・なんだか起こしたらかわいそうだ。
「・・ん」
クラピカが小さく身じろぎをした。
ふと香る良いにおい。
レオリオの顔のすぐそばにクラピカの頭がある。
クラピカの髪は、甘くていい香りだった。
落ち着いて、改めてクラピカを見る。
起きているときは、口を開けばどうにも生意気なことばかり言って、正直口じゃ敵わなかった。
かわいげのかけらもないクラピカだが、こうやって寝顔だけ見ていると、なんだかかわいい。
もともとクラピカは顔立ちが綺麗で、美人だ。
思えばこうやって・・・間近で顔を見たり、触れたりするのは
当たり前だが、初めてだ。
肌もこんなに白くてきめ細かい。
透けるようだ。
睫毛も長くて・・・桃色の唇はふっくらしている。
なんだよコイツ
かわいいじゃねえか。
いっつも仏頂面だから、ぜんぜんわかんなかったけど
こんなにかわいかったのか。
思わずレオリオがクラピカの顔に見とれていると、クラピカがもぞもぞと動き出した。
(やべ・・・起きる?)
ベッドに入ってきたのはクラピカなのだから、
別にレオリオが慌てる必要はないのだが、なぜか自分が悪いことをしている気になる。
事実クラピカが起きたら、まず殴られるだろう。
その前に歯を食いしばっておこう。
あと目もつぶっておこう。
殴られる準備は万端だった。
――しかし。
クラピカは起きるどころか
眠ったままオレの上に乗ってきた。
一気に心臓が跳ね上がる。
こ、これは寝相が悪いとかどうこう言うレベルじゃないぞ。
コイツは一体なにがしたいんだ。
(・・・ん?だぁ―――っっクラピカぁ―?!)
クラピカはそのまま、オレの首に腕を巻きつける。
なんと
自分から抱きついてきたのだ。
腰も
足も
ついでに顔も
横になったまま密着状態になってしまった。
(・・・コイツ・・・ほんとに寝てんのかよ・・・!?)
まるで起きているような動きなのだが。
抱きつかれて身動き取れない状況の中で、必死に頭を動かしてクラピカの顔を見る。
相変わらず寝てる。
・・・タヌキ寝入り・・・なわけないか。
試しに手を伸ばして、クラピカのわきの下をくすぐってみる。
・・・起きない。
すぐそこにあるのは相変わらずのかわいい寝顔。
ちくしょう
かわいい。
ちょっと角度を変えればキスだってできる。
あたかも誘っているようなクラピカの薄く開いた唇。
なにも考えていなかった。
自然に引き寄せられていく。
そして――
「・・・おっさん」
あと5センチのところだった。
聞こえたのはキルアの小さな声。
驚いて横を見る。
「なにしてんの」
キルアはあたかも眠たそうに目をこすってむくっと起き上がった。
(な・・・なんでこんなタイミングで起きるんだよ・・・!)
キルアの目には
オレたちはどう映っているのか。
クラピカがオレに覆いかぶさるように抱きついていて
オレもそんなクラピカをきつく抱きしめている。
短い沈黙。
目が醒めていなかったキルアも
次第に状況がわかってきたようで
目を見開いてオレたちを見ていた。
「な・・・・なにしてんの・・・?」
キルアは信じられないという目でオレたちを指差した。
ここで騒がれてゴンとクラピカまで起きてしまったらたまらない。
キルアの口を閉じたくても、上にクラピカが乗っているから動けない。
オレは顔をあげて、必死にぶんぶんと顔を横に振る。
騒ぐな!殺すぞ!
そういう意味を込めて。
しかしキルアは。
そんなオレの顔だけのジェスチャーを見て、しばらく顎に手を当てて考えていたが、やがて顔をあげて笑顔でうなづいた。
(よ・・・よし。わかってくれたか。おまえを男と見込んだ甲斐が・・・)
レオリオが安心したのも束の間。
キルアはベッドから下り、部屋の隅へ走っていった。
(・・・ん?なんだ、アイツなにして・・・・
だあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!なにしてんだバカ〜〜!!!!)
なんとキルアは
満面の笑みで部屋の電気のスイッチをオンにした。
たちまち部屋は明るくなる。
ま、まぶしい・・・。
「・・・ん〜・・・なに?もう朝〜?」
案の定ゴンが起きてしまった。
やばい
クラピカも
起きる・・・っっ(涙
「ん・・・」
クラピカはだるそうに目を開ける。
オレに抱きついたまま。
そして。
「・・・レオリオ・・・」
オレの人生
今日で終わりかもしれない。
クラピカに殴られて
そのまま死んでいくのか・・・
覚悟したときだった。
ちゅっ。
頬に、やわらかい唇の感触。
なにが起こったか分からなかった。
クラピカはそのまま、再び眠ってしまった。
おそらくキルアは
電気をつけて全員起こして、オレが慌てふためく姿を見たかったのだろうが・・・
オレもキルアも
呆然としていた。
一方ゴンはまだ寝ぼけているのか、
「ん〜まだ夜じゃん〜オレ寝るよっ」
と言って布団にもぐってしまった。
クラピカはずっと起きていたのか
それとも無意識だったのか
全く持って分からない。
ただその後もクラピカはオレから離れることなく、気持ち良さそうに眠っていた。
オレもそんな状況に慣れてきて、いつしか眠ってしまった。
そして翌朝。
「・・・ん〜・・・・」
部屋にまぶしい太陽の光が差し込んでくる。
やっと朝か。
気が付くとクラピカはいない。
あわててクラピカのベッドを見る。
・・・いた。
クラピカは自分のベッドで寝ていた。
じゃあ
昨夜の事件(?)は全部夢か?
ゴンもキルアも
何事もなかったように寝ている。
悪い寝相も相変わらずだ。
しかしやっぱり夢ではなかった。
布団には、甘い甘い香りが残っていた。
クラピカの残り香が、ちゃんと残っていた。
2008/07/24
一歩間違えたらアニメでこんな話がありそうですね。(ないって)
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