手を繋ぎそこねたとか
キスの回数が減ったとか
そんな些細なすれ違いで、すぐ不安になる。
それは、あなたが大好きだから。
氷
さみしい。・・・悲しい。こんな気持ちになるのは、久しぶりかもしれない。
心も――体も。
最近レオリオが触れてくれない。頬にも。手にも。唇にも・・・。
冷たいわけじゃない。いつもと変わらない。笑顔も。声も。態度も。
でも、触れてくれない。
それに加えて、仕事が忙しいのか、病院に泊まることが多くなった。
一人で眠るのがこんなにさみしいなんて思わなかった。
ずっと、レオリオがそばにいてくれたから。
今は、それが当たり前になっていた。
――ただ、それだけのこと。
そんな当たり前の幸せは――
いつまでも続くのだろうか。そう思うことが、多くなった。
・・・・・
家に帰ってくるのは2日ぶり。忙しくて電話も出来なかった。
べつに疚しいことをしているわけではないけれど
、なんだか家に入るのは、うしろめたい気がした。
もう、12時過ぎ。クラピカはもう寝てしまっただろうか。
あいつだって、以前のようにハードじゃないとはいえ、仕事だってあるんだ。
それでも、いつものように、まぶたを重くして待っていてくれるだろうか。
鍵を開けて中へ入ると、明かりがついている様子はなかった。
「怒ってるかな・・・あいつ」
ろくに一緒にいれない
電話も出来ない
ずっと一緒にいてやると言った自分がこんなことでは、本当にどうしようもない。
もっとしっかりしたい。不安にさせたくない。人一倍寂しがりやの彼女だから。
そんなささやかな願いが叶うのは、
こんなあわただしい毎日を送っている今のようでは、少なくとも数年先かもしれない。
そんな男に、彼女は愛想を尽かさないだろうか。
キッチンにもリビングにも――クラピカの姿は見当たらない。いつものように、待っていてはくれなかった。
(・・・まぁ、しょうがねぇよな・・・)
もう、寝よう。
きっと明日の朝も、クラピカと顔をあわせることは出来ないけれど。
せめて、彼女の隣で、疲れた体を休ませたい。
――それさえも、贅沢かもしれない。
寝室のドアを静かに開けるると、ほのかな花の香りが鼻腔をくすぐる。
クラピカの誕生日に、オレが贈った花束。
花瓶の中で、まだ元気に咲いている。
手入れを欠かしていない証拠。
隣で寝ているだろうクラピカを起こさないように、
出来るだけ静かに大きなダブルベッドに入ると、やけに冷たいことに気が付いた。
いない。
家中探し回った。確か以前もこんなことがあったような気がする。
喧嘩をして
一方的にオレが悪くて
その日一日中クラピカは――
「クラピカ!」
ベランダにいたんだ。
4月といっても深夜は凍えるような寒さ。
そんな中クラピカは、白いスリップ。
オレの声に、その寒さに――クラピカは肩をビクっと震わせた。
でも、振り向きはしない。
オレは考えるよりも手が先に出ちまうような男だから
何も考えずに、ただ後ろから抱きしめた。それでいいと思った。
「・・・どうしたんだよ」
出来るだけ優しく。冷え切った身体を温めるように強く。
「・・・レオリオか・・・?」
「オレ以外に誰がいるんだよ」
クラピカは恐る恐るオレの腕に触れる。
やっぱり、冷たい。
もう何も言わなかった。ただずっと抱きしめた。
そうすれば、必ず口を開いてくれると、思っていたから。
ふと思った。
こうしてクラピカに触れるのは
何日ぶりだ?
「だって・・・おまえが私に触れてくれないから・・・」
”だって”という言葉を使うのを、クラピカはひどく嫌った。
言い訳をしたくないのだという。
そのときのクラピカはそんな自分の信条も忘れていたのだろうか。
「悪いところがあったら・・・・全部直すから・・・」
私を嫌いにならないで
クラピカは抱きしめ返そうとはしなかった。
それすらも恐れていたのだとしたら
その原因がオレだったとしたなら
クラピカにそう思わせてしまったなら
オレは最低だ。
そりゃあお互い悪いところならいくつだってある。
しかしそれを非難しようとは思わない。
認め合わなければ、一緒に生活するなんて無謀だ。
今更触れる資格なんてないと思ったけれど
これ以上傷つけたくはないから。
凍った氷を溶かすように
出来るだけそっと、キスをした。
2005/10/30
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