「もしもし?クラピカ?うん、オレ」
月
レオリオは電話をしてくる。
よっぽど電話が好きなのだろうか。
「オレが好きなのはおまえだよ」
そういってはぐらかす。
電話が来るのは彼の帰宅の約10分前。
「・・・今日はいったいなんの用だ」
「なんだよ、機嫌悪いじゃん」
「うるさい。――今日はちゃんと風呂も沸いているぞ」
何の用事があるわけでもないのに
今日の夕飯はなんだとか
風呂はちゃんと沸いてるかとか
そんな、帰ってくればすぐに分かることを
――きっと、夜道を足早に歩きながら
きっと、微笑みながら。ケータイ電話を耳にあてている。
最近では、この電話がかかってくるころに食卓の準備を始めるのが日課になってきた。
「・・・・レオリオ」
「ん?」
電話越しの、聞きなれた声。なんだかんだいっても、やっぱり声を聞けて嬉しいのだ。
「帰ってくるまで待てないのか?」
「待てねえよ」
即答。少し呆れてしまった。きっぱり物事を言うところも、好きではあるのだけれど。子供じゃあるまいし。
「あ、誤解すんなよ?待てねぇのはおまえだから」
「・・・・・え?」
「だーから、おまえのことがまんできないの。一分でも早く会いたいの。それが無理な間は電話で我慢してんの。わかったか?――声だけでも聞ければ、少しは楽になるし」
楽になる。私はおまえの精神安定剤か?
そう言ってやった。
結婚して、もう何年たつだろう。まるで新婚ほやほやの若いカップルのような、レオリオの大胆で甘い言葉。
会いたいだの
愛してるだの
いくつになってもそうやって
私を安心させてくれるに違いない。
「なぁ」
「なんだ?」
「空、見てみ」
「え?」
「月が綺麗だな」
「・・・・・・ああ」
「はやく帰って一緒に見ような」
「・・・ああ」
そういって電話は切れた。
最後の一言を
――一緒に、という言葉を
ほんとうに嬉しそうに言ったから
私まで嬉しくなってきた。
なんでも共有したがる。子供のようだ。
でも、そんなところも大好きだから
今日くらいは素直に笑って
一緒に毛布に包まって、月を眺めようか。
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