惚れた女を守ってやりたい
そう思うのは
当然である。

しかし彼女は強すぎた。





浴衣







確かにクラピカは綺麗だけれど
ぱっと見、正直、男か女か区別はつかない。

それはクラピカの服装と髪型、振る舞いのせいだった。
しかし女は化粧と衣装でいくらでも変わる。
これがいい例だ。




事の始まりは1週間前。
毎日が戦場だった生活が嘘のように、オレの故郷でふたりのんびりくらしている。
・・・まあ、お互い仕事はあるが。
なにげなく街を歩いていて見つけたのが浴衣だった。

「あー、そういえばもうすぐ祭りだな」
「・・・そうなのか」
「コレ、”浴衣”っていうんだって」
「知っているのだよ。確かハンゾーの国の民族衣装だ」

これをクラピカに着せてみたかった。
それだけだった。
クラピカの制止を振り切って、値切りに値切って手に入れた。

そして祭り当日。
日が沈む頃にクラピカをそばに呼んだ。
「・・・やっぱり着るのか」
「あったりまえじゃん買ったのに」
「私に似合う色ではない」

鮮やかな薄い桃色の、かわいらしい柄の浴衣だった。
確かにクラピカのイメージではない。

そこでオレが呼んだのは。
「お邪魔しますー」
「おっ来た来たー遅えよ」

モデルかと見紛うほどの長身。
元気な笑顔。
クラピカにとっては苦手なタイプだったように思う。


「・・・・」
「あらーかわいい子。化粧栄えしそうね」
「・・・はあ」


オレが呼んだのは友人のメイクアップアーティスト。
女の子をかわいくするプロだ。

「じゃあよろしくな」
「任せといてーやる気出てきたわ」
「・・・は!?おいちょっとレオリオ!」



彼女に任せること30分。
別室にいたオレは彼女の元気な声で呼び戻された。
「どうだ?」
「んー最高。あたしが男じゃなくて残念だわ」

女は
いくらでも変われる。
それをオレは思い知った。






「・・・やっぱり帰る」
「なんで」
「こんな格好・・・歩きづらいし顔がむずがゆい」
「我慢しろよ」

きっと「いつもの」クラピカしか知らないゴンやキルアが見たら大変な騒ぎだ。
ゴンは賞賛の笑顔で大喜びし、キルアは照れ臭そうにそっけなく褒めるのだろう。
クラピカの白い肌に淡い色の浴衣はとてもよく似合っているし、
儚げな化粧で美しさがより一層増した。
なにより
色気がある。

この姿を見て、性別がわからない、なんていう奴はいないだろう。


しかしここまでかわいいといろいろと心配が多くなる。
案の定それはあたった。


オレがトイレに行く間クラピカは一人だった。
その一瞬の隙に暇な野郎共が集まってくる。

それを遠くから見て思わず舌打ちをする。
多分その時のオレの形相はとんでもないものだったと思う。
一人残らずぶん殴る気でクラピカに駆け寄ろうとした。


しかし。


「ねえねえーひとりでしょ」
「連れがいる」
「どこにー?いないじゃん」
「しつこい」
「こわいなー」
「しつこいと言っている」
「まあまあ話はオレらの車でゆっくり聞――」

そんな会話が聞こえたと思うと、クラピカの周りの男達が次々と倒れていった。
ぶん殴ったのは
クラピカのほうだった。
オレの怒りの拳はどこへ向かえばいいのだ。



クラピカは何事も無かったかのように再びベンチに座った。
怪我一つしていない。


そうだ
忘れてた。
クラピカは
強かった。


今はもうほとんど念能力も使えず、十分な戦闘もできないが、それでも素人男以上にクラピカは強かった。


守るまでもない
確かにそうなのだが。
男として頼ってもらいたいなんて思ったり思わなかったりな複雑な心境。
オレはひきつった笑顔でクラピカに歩み寄る。

「よお、ごめんな遅くなった」
「いいや平気だ」

クラピカは微笑んで歩き出した。
その数十メートル手前には先ほどの哀れな男達がうずくまっている。
下手したらオレもああなりかねないことを
ちょっとだけ感じてしまった。


「レオリオ、やはり、これは動きづらいのだよ」
確かに、殴るのには向いてません、浴衣は。


うちに帰ったらオレが脱がしてやるよ
そう言ったら赤い顔で睨まれた。
殴られることはなかった。



2009/04/02
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