「・・・何してんだ?」
寝室のドアを開けたレオリオが見たのは、
部屋の真ん中に突っ立って、ブラジャーのホックに悪戦苦闘しているクラピカだった。




ウソツキ




どこに目を向けたらいいのやら。いや、一箇所にしか意識がいかない。それはそれでしょうがないと思う。
「ノックをしろ!ノックを!」
クラピカはぱっと背を向けて、猫のように丸くなりながらしゃがみこんでしまった。

「しょ、しょーがねぇだろ!」
そこまで恥かしがられると、こっちまで赤面してしまう。
下はあいにくいつものズボン姿。彼としては少々残念。
しかし、綺麗にくびれた細い腰や華奢な肩は、どうも眩しい。

先ほどクラピカが悪戦苦闘していたホックは未だに止まっていなく、肩紐も白い肩からぶら下がってずり落ちてきている。

(おいおいおい・・・困るぜこんな真っ昼間から・・・)
そんなことをふと思った自分が可笑しかった。芽生えているのは逆の感情。

後ろからでも、それはずいぶんと官能的な眺めで。
のどを鳴らして大きく足を一歩前へ踏み出した自分を、レオリオはすぐさま戒めた。
そんなレオリオの苦悩を知らずに、クラピカは背を向けたまま淡々と呟く。

「だって・・・おまえがした方がいいというから・・・、だからわざわざ買ってきたのだよ。
ちゃんと下着を着けないと、形が崩れるとか大きくならないとか・・・
「だからオレが毎晩、揉んでやって・・・」
「だ、黙れ馬鹿者――っっ!!」

クラピカが投げたクッションは見事に顔面命中。
「いってー、なんだよ、手伝ってやろうと思ったのに」
「結構だ!出て行け!」
「でもここオレの寝室でもあるし」
「・・・う・・・」
「いつまでもそんなカッコしてると風邪ひくぜ。安心しろよ別にやましいことはしない」
「・・・・・本当か?」

無意識の上目遣いほど攻撃力の高いものはない。
こんな一言を本気にして、すぐにオレを信じる。そんな綺麗な瞳で見つめてくる。
クラピカが信じてる人間は、オレだけであってほしいと――そんなことをいつも思う。
その思い込みが妄想ではなくて真実ならば、独占欲が疼く。

ふとクラピカの背後の壁にかかったカレンダーを見て思い出す。
そうだ
今日は・・・

「やっぱさっきの嘘」
「なっ」
「だーってさ、今日はエイプリルフールだから、嘘ついてもいいんだよな?」
「・・・!!」
驚いたような顔がとても可愛い。してやったり。
不敵な笑みを浮かべて、狼のような声と顔でクラピカにずいっとせまる。
あわせるように、クラピカは大きく退いた。しかし、あいにくすぐ後ろはベッド。

「よーしクラピカ。今日オレはおまえの嫌がることは絶対しない。手ぇ出さない」
「・・・う、嘘だ!」

だから嘘だって。・・・かわいいなあ、こいつ。
クラピカはホックをあきらめて、ベッドに脱ぎ捨ててあったシャツを慌てて羽織った。
ああ、もったいない。でも乱れた着衣は、それはそれで良い。

「だから嘘だって言ってんじゃん。でも本当は期待してないか?」
「・・・っっ」
熱でほてった耳元でささやいてみる。反応は過剰なくらいだった。
「かっわいいなー、ほんと」

「・・・・・それも嘘だ」
流れで行けば、その言葉は自然だった。
しかし、そうポツリと漏らした瞬間、ベッドに押し倒されてしまった。
目に入るのは真剣な表情。細い手首を掴まれて、動けない。

「さあ、どうでしょう」
卑怯だ。そんな顔をするのは。

「愛してるよ」
そうやって無防備な私にストレートな愛の言葉。ずるい。

「・・・・・私も・・・・好き、かもしれない」
「・・・ホントか?」
「私は嘘は嫌いだ」
”私は”を強調した。こういうところが、クラピカらしくひねくれている。

「確かにな。それは知ってる。にしても、”かもしれない”とはずいぶん曖昧だな」
「・・・・・。・・・すまない、嘘だ。・・・・・私も、・・・愛してる」
「嘘は嫌いなんじゃなかったのか?」
「今日くらい許せ」

低レベルなやりとりかもしれない。しかしそれがとても愛しい。
彼の笑顔を見て、心おきなく抱きしめ返した。


・・・・・


「・・・・つーかさ・・・そんな格好で抱きつかれると、オレもうヤバイんだけど・・・」
レオリオの大きな手が、よからぬところに移動している。もう上半身は裸同然。
・・・裸よりも彼にとってはこの姿の方がそそるのかもしれない。
もちろん顔を真っ赤にして抗議した。

「ちょっ・・・やだ、こんな所で、それに、抱きついてなんか・・・」
「こんな所って・・・このベッド以外にどこでやるんだよ?風呂とか?」
「そういうことではなくて・・・っ!」
「それにさ、その”やだ”も・・・嘘だろ?」

嬉しそうなレオリオの笑顔に、クラピカは返す言葉もなかった。



BACK