クラピカはなんでも似合うと思うんだ。でも、ちょっとセンスが外れてる。
そんな彼女に、彼女専属のスタイリストから、ささやかなプレゼント。
色とりどり
「ねえ、ちょっと!」
「あ?」
「ちょっと、ぼーっとしてないでよ!このスカート、赤と青、どっちがいいかって聞いてるじゃない!あと、このブーツも!」
「どっちも似合うってば!さっきから言ってんだろ!?つーか、何時間ここにいる気だよ〜」
日曜日。
中心街の洒落たショップ。こんな男女のやりとりをよく目にする。
男の方からすれば、何軒も同じような店を歩き回り、意見を求められ、ろくに食べずに、
さらにケンカにまでなり、疲れ果てる。
かくいう女は、なぜあそこまで「買い物」に熱心なのか。
どこにあんな体力があるのか。
しかし、私たち二人の場合は
―――全く逆である。
「おい、クラピカ!」
「〜なんだ!」
「ぼーっとしてんなって!ほら、これ着てみろって!さっきのよりぜーったいかわいい!それにこの・・・」
「どっちも一緒だろうが!それにしても・・・これで試着室に入るのは10回目だぞ・・・・・・?」
「そーだっけ?まあいいから!」
とても楽しそうに私に似合う服を探してくれるレオリオ。
まるで私は着せ替え人形だ。いったい何時間ここにいればいいのか。
考えただけで気が遠くなる。自分の買い物ではないのに、
なぜ連れのレオリオがこんなに熱心なのか。まったくわからない。
だいいち今日はショッピングをする予定ではなかった。
街中を歩いていて、レオリオの目に留まったこの店のマネキン人形が着ていたワンピースのせいなのだ。
「なぁなぁ、これ、おまえに似合いそうじゃねぇ?」
「・・・そうか?私はスカートはあまり・・・」
「一回着てみようぜ」
”一回”じゃなかったのか?・・・まったく。
「どうでもいいが・・・その腕にかかっている服、まさか全部買う気か?」
「そうだけど?」
「・・・・・・」
本当にあきれ返る。服なんて2、3着あれば充分だろうに。
溜息をつきながら、本音をつい言ってしまった。
するとレオリオは、笑顔でこう言った。
「せっかく女の子に生まれてきたんだから、オシャレを楽しまないと損だぞ。まったく、こんなに可愛いのに」
女の子に生まれてきたんだから。
そういう考え方は好きではないが、言いたいことはわかるので文句は何も言わないでおいた。
しかし幸いなのは、彼のセンスがいいということ。
地味でもなく派手でもなく、とても印象のいい選び方だった。
これだったら着ても嫌な気はしない。そう、私だって、まんざらでもなかった。
「・・・いくらだ?」
「10万5000ジェニーになります」
女性店員の真っ赤な口元から出た真っ青になりそうな金額。
私は動揺してレオリオに耳打ちした。
こんなことでハンターライセンスを使いたくない。
「おいレオリオ、私にそんな手持ちはないぞ」
「何言ってんだよ、オレが全部払うに決まってんだろ」
本当にわからない。自分の時間を削ってまで私の為に服を選んで
悩んで悩んで結局気に入ったものはすべて買って
自分が着るわけではないのに金まで払って
・・・なにを考えているんだろう。
「バカをいうな。そんなわけにはいかない」
「なんで」
「とにかく私の金で買え。そうじゃないと着られない」
「なにわがまま言ってんだよ」
わがままなのはどっちだ。ほら、店員が困っているじゃないか。
後ろに会計待ちの行列までできているぞ。
「勘違いすんな、これはオレが買うんだよ。おまえ、いっつも同じ服だし、つまんないだろ?
そう思ったらオレんとこに借りにこい。いつでも貸してやる」
だったら私がそう思うことなんて一生ないなんて言ってやろうかと思ったが、
そこまで私は素直じゃない訳ではないのでおとなしく、
彼の隣でたくさんの色とりどりの服が紙袋に詰め込まれていくのを見ていた。
今日買った服を着て
また彼の隣を歩くと思うと
なんだか照れ臭い。
2006/07/21
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