あんなにあんなに欲しかったのに。
手に入れた途端、人のもののほうがよく見える。




アイスクリーム




「ママぁ」
「なあに?」
「やっぱりあっちがいい・・・」
「なにいってんの、あんなにこっちがいいって言ってたじゃない」
「あっちのほうがおいしそう・・・」
「ダメよ!同じものは2度も買わないの」
「え〜」


家族連れ、カップルで大賑わいの休日のショッピングモール。
あちらこちらに子供が走り回っている。
そんな中、白いアイスクリームを片手に、栗色の髪をした男の子が母親のスカートの裾をひっぱる。
どうやら「バニラ」のアイスクリームよりも、「チョコレート」味のほうが食べたいらしい。
手に入れた瞬間、違うものが欲しくなる。

「あー、オレも気持ちわかるなあ」
「なんのことだ?」

「いや、あの子のこと。あんなに欲しかったのに、いざ手に入ると、違うものが欲しくなるんだよなあ」
「・・・」


米10キロ。ペットボトル飲料3本。その他食料品もろもろ。
全てレオリオが両手に下げている。
今日は2人でデートを兼ねた買出しの日。

ベンチに座り、一休みしているときのことだった。
「まあ・・・人間は欲深いからな」

クラピカは苦笑してそう答えた。

と、そのとき。
「あっレオリオ!偶然ー」

後ろから二人に声をかけてきた若いカップル。
クラピカは見覚えがなかった。おそらくレオリオの職場仲間だろう。


「買い物?オレらも。見ろよこれ、すっかり荷物持ちだぜ、オレ」
レオリオと同じように、彼はずっしり重そうな買い物袋を両手に下げている。
隣にいる彼女はハンドバッグ1つ。
「なによ、力仕事は男の仕事でしょー」

二人の身長はさほど変わらない。
男の方はレオリオに比べ華奢で、それでも綺麗な顔立ちだった。
こげ茶色の短い髪と小麦色の肌が印象的だった。
彼はレオリオの隣のクラピカに気付き、にこやかに会釈をした。とても友好的で、嫌な感じはなかった。
「初めまして。えーと、レオリオからよく聞いてます、話。・・・きれいな奥さんだって」
きれいな奥さん。そう言われて、嬉しいような恥ずかしいような、なんともいえない気持ちになった。

対する彼女は、ポニーテールにボーイッシュなスタイルが似合うサバサバした感じの女性だった。
「ちょっと!なによでれでれしちゃって・・・もう行くわよ!」
「あっおい!」

二人はばたばたと去っていった。
「な?やっぱそうだな」
「なにがだ?」
「さっきの話。アイツも人の彼女が羨ましかったんだろ」

人のものがよく見える。
確かにそれは仕方のないことなのかもしれない。

「まっそうじゃなくてもこんなかわいい子が彼女なら、誰でも羨ましがるだろうけどな」
「お世辞だ」
「んなことねーよ」

レオリオはニカっと笑ってクラピカの肩をぐっと引き寄せる。
以前は恥かしくて、すぐに離れて文句を言っていた。しかし今となってはもう当たり前のこと。
必要以上に人前でいちゃつきたくはないが、これくらいなら、と妥協できるようになっていた。

「あー、でも・・・そうなると、心配だなぁ」
「なにが?」
「アイツ、結構イケメンだったろ。モテるんだよ、アイツ。
だからクラピカもオレよりアイツの方がよく見えたり・・・」


あのレオリオがこんな弱気なことを言うのは珍しい。らしくなく、言いよどんでいる。
たまに見せるこういう一面も、とても好きだ。

「なあー、やっぱりオレより・・・」
何も言わないクラピカの顔を覗き込んで問い詰める。
すると。

チュッ。
「・・・///!!!」
「そんなわけないだろう。私にはレオリオしか見えないからな」

不意打ちのキス。
いつもレオリオにされていること。
いつもいつもそれで驚かされているから、仕返しがしたくなった。
どうだ、びっくりするだろう。それ以前に恥かしいだろう。
された方は周りの目が気になって仕方ないのだ。
レオリオはいつもする側だから分からないのだ。

・・・しかし。
「・・・・ちょちょっちょ、レオリオ!離せ!!」
「なんでー」
「場をわきまえろ!」

レオリオにその理屈は通用しなかった。


人のものがよく見える。
恋人だって例外ではない。
しかしレオリオ以外は考えられないのだ。
他の男を見て、「いいなあ」と思ったことなど一度もない。

レオリオが一番素敵だと思っているから。
そしてそんなレオリオの恋人であることに、不満などあるわけがない。

しかしそんな事を言ったらお調子者の彼が増長するだけ。
私の胸の中に大事にしまっておこう。

あなたと結ばれて本当によかった。



隣の芝生は青く見える。
2008/10/16
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