「は?おまえバカか?ここまでバカだとは思わなかった」
「なんだよ!キルアだってさっき同じこと言ってたじゃん!」
「いつオレがそんなこと言ったよ?まったく付き合ってらんねぇよ」
「もういいよ!オレ帰るから!」
「けっ。とっととどっか行っちまえ!」
この大喧嘩の末
二人が行き着いた相談相手は――
三角
(・・・キルア?)
仕事が終わり、レオリオの待つ家へ帰ろうとしたときだった。
携帯電話に留守電が入っている。
相手はキルアで、どうしても話したいことがあるという。
あのキルアが・・・私に?
めずらしいこともあるものだ。
そう思いながら、クラピカはキルアへ連絡する。
「もしもし、私だが」
「あっクラピカー!?留守電聞いた?オレもうマジでムカついててさー!
今からそっち行ってもいい?話聞いてよ!」
「・・・・あ、ああ、構わないが・・・」
いつもとは様子の違うキルアに、クラピカはいささか驚く。
それにしてもなぜゴンではなく、わざわざ私なのだろう。
それだけが疑問だったが、足早にキルアとの待ち合わせ場所に向かった。
「ん〜・・・クラピカおせぇなあー。確か今日は早く帰れるって言ってたのになあ・・・」
一方こちらはレオリオの自室である。
恋人であるクラピカが帰ってくるのを、今か今かと待ちわびていた。
もし外せない用事があるのなら、連絡が来るはずだが。
しかし正確な時間は告げられていない。
もう少しだけおとなしく待ってみよう。
ピンポーン・・・
おっ噂をすれば・・・
レオリオは胸を弾ませて玄関のドアを開ける。
「おかえりクラピカー、遅かった・・・・な・・・?」
そこにいたのは愛しい恋人ではなく。
「ゴ・・・ゴン?」
「・・・・・・っううぇええん、レオリオぉ!!」
目に涙をためて、肩を震わせている友人、ゴンであった。
彼はレオリオを見るなり腰に抱きつき、泣きじゃくっていた。
・・・
キルアが指定した駅前のカフェ。
近所だが来たことはない。
なるほど、キルアが好きそうな店である。
メニューにはいかにも甘そうなものばかりが名を連ねていた。
そのような甘党メニューは避け、とりあえずホットコーヒーを注文する。
丁度そのとき。
キルアが待ち合わせ時間に10分遅れてやってきた。
クラピカを見つけるなり、キルアの第一声はこうだった。
「あっクラピカ!あーもう聞いてよ!ふざけんなよゴンのやつ!」
この一言で、大体の察しがついた。
ゴンとケンカし、いてもたってもいられなくなったキルアは、友人である私に相談(もとい愚痴)をしにきたのだろう。
「そうか。では話を聞こう」
・・・
「・・・・とまあ・・・いろいろこういうわけだよ」
「なるほど。キルアが意地をはってゴンを怒らせてしまったわけか」
「最初は頭に血が上ってムカついてばっかりだったけど、よく考えればオレ・・・ちょっと言い過ぎたかも」
さっきまでの勢いはどこへやら、キルアは力なく床を眺めている。
「・・・オレ、ゴンに嫌われたかな」
ジュースのストローを噛みながらそう呟くキルアに、いつもの余裕の笑みと自信はなかった。
いつもは生意気なキルアだが、こうして見ると年相応の少年である。
そんな彼を、どうしたら慰められるだろう。
クラピカはハッと思い立ち、立ち上がる。
「キルア、行こう」
「・・・どこに?」
「ドライブだ」
・・・
キキーッ
「ちょ、クラピカ!信号!」
「平気だ」
「速度!150kmって!!」
「大丈夫だ」
「ぶっ、ぶつかる!」
「心配ない」
(・・・このままクラッシュして天国行くかも)
夕方のドライブ。
キルアは助手席でこう思った。
もはやゴンとのケンカのことなど忘れていた。
クラピカの運転技術をもっと早くに知っていればよかった。
・・・
「・・・で?なにがあったんだよ。言ってみろ」
レオリオの部屋を訪れたゴンはようやく落ち着いたようで、ホットミルクを飲みながらソファに力なく埋もれている。
「それにしてもおまえが一人って珍しいな。キルアはどうしたんだよ?」
レオリオの何気ないその一言に、ゴンはピクッと肩を震わせる。
「・・・っ」
「・・・さてはキルアとケンカでもしたか」
「・・・うん」
「そっか」
「・・・いつもはケンカしてもすぐ仲直りできるんだけど・・・
今日はだめだった。そのまま飛び出してきちゃったから・・・。
オレ・・・キルアに嫌われちゃったかもしれない」
「んなことねーよ。おまえら親友だろ?キルアを信じて、もう一回話してこいよ」
レオリオに相談してよかったと、ゴンはつくづく思う。
短いアドバイスだが、レオリオらしく、なにより不思議と自信を持たせてくれる。
一緒にいると張り詰めた心もいつしかほどけて、昂っていた感情も次第におさまってきた。
なんだか仲直りできそうな気までしてきた。
ゴンにとってレオリオは、信頼できる兄のような存在である。
「・・・ありがとレオリオ!オレ、キルアのとこに行ってくるね!」
「おう、気をつけろよ。今度は二人で遊びに来いや」
さっきまでとは打って変わったゴンの表情に苦笑しながら、レオリオはゴンを見送った。
・・・
「どうだキルア。少しはすっきりしたか?」
「・・・うぅ・・・」
「どうした?顔色が悪いが」
「・・・なんでもない」
クラピカとの恐怖のドライブの果てに着いたのは、夕日が見える高台だった。
「ゴンもきっと、おまえと同じ気持ちだ」
「・・・え?」
酔いとめまいでうずくまっていたキルアは、ふとクラピカを見上げる。
「謝れば、きっと許してくれるさ」
クラピカはにっこり笑って、キルアに手を差し伸べた。
「もう帰った方がいい。ゴンが心配してる」
クラピカに相談してよかったと、キルアはつくづく思う。
レオリオにはきっとバカにされる。かっこ悪いところを見せたくない。
でも、クラピカなら、なにを言っても聞いてくれて、立ち直る勇気をくれそうな、そんな感じがしたのだ。
「・・・サンキュ、クラピカ」
キルアはすくっと立ち上がり、背伸びをしてクラピカの頬にキスをした。
「・・・!!」
「クラピカの言うとおりだよ。ゴンに謝ってみる」
「・・・あ、ああ」
キルアにとってはささやかなお礼のつもりだったのだろうが。
(・・・これは・・・レオリオには言えないな)
・・・
キルアを駅まで送り届け、クラピカが家についたのは10時過ぎ。
あのあとキルアからメールがきた。
どうやら無事にゴンと仲直りできたようだ。
(・・・やれやれ、一件落着だ)
こんな形だったが、久しぶりの友人との再会とはいいものだ。
なんだか心が和む。
しかしだいぶ遅くなってしまった。
今日は早く帰ると言ってしまっていたから、レオリオは心配しているだろうか。
「・・・ただいま」
できるだけ静かにドアを開ける。
明かりはついている。起きているだろうか。
「おいコラ。遅かったじゃねーか」
いつもどおりのレオリオの姿。少し安心した。
「すまない。・・・ちょっと急用で」
「まあいいけどさ、遅くなるんだったら連絡してくれよ。心配するから」
「ああ、心配かけてすまない」
その夜、会話の中で自然と今日のことを話した。
ケンカののち、ゴンはレオリオに相談しに、キルアはクラピカに相談しにきたこと。
「それにしてもゴンとキルアが一人ずつ来てよかったよな」
「え?」
「だってさ、ゴンとキルア、二人ともクラピカのとこに泣きついてきたら、オレの立場がねーじゃねぇか」
「たしかに、そうだな」
「おまえ、笑い事じゃねーぞ。三角関係の中にオレが入れないなんてよ」
「大丈夫だ。私はおまえが好きだから、四角関係になる」
「・・・・まあ、そうだな」
私はおまえが好きだから。
さらっと聞き流したが、じわじわ嬉しくなる。
たまにこういうこと言って、俺をどぎまぎさせやがる。
今度は4人揃って会いたいと、笑って話した。
2008/08/31
お題が少なくなってくると、当てはめるのがものすごく難しいです。
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