手を繋いで散歩をしよう。年に一度の誕生日だから。
今日くらいは、心も体も休めてほしい。
プレゼント
玄関の前の桜も
裏庭の桃の花も
そろそろつぼみをつけ始めて。レオリオと過ごす春はとても好きだった。
訳もなく心が温まるから。――年に一回の、大切な日があるから。
だから春は、特別だった。
「せんせー、お外寒い」
「なー、まだちょっと寒いなー。だから夜はあったかくして寝るんだぞ」
「はーい」
すっかり見慣れた玄関前のこの光景。子供に接するレオリオの笑顔は、とても優しかった。
「もう治りそうか?あの子の風邪は」
「ああ、もうだいぶよくなったぜ。
・・・でもさ、可愛いよな、オレがもうすぐ治るぞって言ったら本当に嬉しそうに笑うんだもんなー」
「おまえは子供に好かれるからな」
「それが自分の子供だったら尚更・・・だろ?」
――だからさ、オレたちも頑張ろうな。
そんなことを耳元で囁かれては
赤い顔で相槌を打つしかないだろう?
「戻るか」
「・・・ああ」
幸せな日常。明日――3月3日は、彼に精一杯の私の気持ちを。
・・・・・
トーストの焦げかけた匂いで、クラピカは目を覚ました。
「おう、おはよ」
「・・・・おはよう」
他愛ない会話を交わして
向かい合って朝食を食べて
クラピカはふと手を止めて、レオリオの顔をじっと覗き込む。
「・・・疲れてるんじゃないのか?」
元気そうに振舞っていても、すぐに分かる。
伊達に一緒に暮らしてきたわけじゃない。
「ん?ああ、大丈夫だよ」
ただでさえ重い仕事。いくら小さな街の診療所だって、医者であることに変わりはない。
「本当に?」
「ほんとーに」
なんだか無理をして笑う彼を見るのは、痛かった。
「今日一日・・・休診にしないか?」
初めてだった。彼の仕事に口を出すのは。
別にこの診療所はレオリオ一人で経営している訳ではない。
妻であるクラピカも同等の立場。
それでも、これは彼の夢だったから。大切な生き甲斐だから。
あえて口を出さないように。そう、思い続けてきた。
「だって・・・毎日毎日休みもしないで・・・」
だから今日くらいは。――誕生日くらいは。
「悪い。それは無理」
別に彼を独占したかったわけでもない。
ただ、「医者の不養生」という言葉がピッタリの彼だから。
疲れきった身も心も、1日かけて癒してあげたかった。
――ただ、それだけ。
「自惚れかもしんねーけど、オレが・・・オレたちがここにいなきゃ、みんな困るだろ?
それは事実なんだし。確かに最近疲れてるけどさ、それを癒してくれるのが、おまえだろ?」
いつもと変わらない笑顔で
力強く抱きしめてくれて
「じゃあ・・・じゃあ、久しぶりに往診に行こう?散歩しながら・・・」
広い胸に顔を埋めて、大きな背中に必死に腕を回して。愛しくて仕方なかった。
「・・・そうだな。手繋いでさ」
「べ、別に手は繋がなくても・・・」
「だってオレ、今日誕生日v」
「・・・///」
・・・・・
やはりどこの桜も咲いていなかった。
「あら、レオリオ先生!こんな遠いところまで来てくださったんですか?」
「今日もキレイね、奥さん」
「丁度よかったよ、先生に野菜あげようと思ってたんだよ!今日誕生日だろ?ほれ、持ってきな」
咲いていたのは
温かい心。
1日かけて街中を回った。街といっても本当に小さなものだけれど。
――手を繋ぎ合って。
「・・・ありがとな、クラピカ」
「何がだ?」
「いや・・・いろいろとさ」
「いろいろじゃ分からない」
「オレのこと、心配してくれたり・・・こうしてオレのそばにいてくれてさ」
――イヤでもそばにいるさ。これからもずっと。
そう呟いて
繋いだ手を強く握り返した。
高価なものは何もいらない。
その声が 笑顔が 温もりが
――存在が。
最高のプレゼント。
来月の4日はきっと玄関の前の桜も裏庭の桃の花も
きっと満開だから。
春真っ盛りの4月4日に、同じように手を繋いで散歩をしよう。
2005/03/03 Happy birthday Leorio.
お誕生日おめでとうレオリオvv私まで嬉しい。
今年は具体的に「もの」をあげませんでした。
あげたのは気持ち。なんだかクサイですね(苦笑)
最近好きな夫婦設定。こんなに幸せそうでいいのかな、うちのレオクラ(^^;)
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