今日みたいな日があってもいいと思うんだ。
たまには思いっきり笑おう。

4人で。




流れ星




「ああ、わかった。クラピカには言っとくから。じゃあ、日曜な」
5月。夏のような天気が続いている。
そして今日も、いい天気。

レオリオはケータイをテーブルの上において、ソファで雑誌を読んでいるクラピカの隣に座る。
「ゴンか?」
「ああ」
「クラピカには言っとくから、と言っていたな」
「よく聞いてたな」
「聞こえてしまうのだよ。で、なんなのだ?」

ちゅっ

クラピカの声を遮るように、小さな肩を抱き寄せて、頬にキスをする。
「い、いきなりなんだ」
「スキンシップ」
「話をはぐらかすな」
「そんなこと言ってーほんとは嬉しいくせに」
「レオリオ!」

当たっているから悔しい。

「んー・・・だってさー、言ったらおまえ、絶対来ないだろ?」
「どういうことだ?」





・・・・・



5月。夏のような天気が続いている。
そして日曜日。
今日もいい天気。


「結局今日なにがあるのか言わなかったな」

珍しくクラピカは朝早く起きていた。レオリオを問い詰める為に。
今日が例の、ゴンとの「日曜日」。いったいなにがあるっていうんだ。なにが。
いちいち気にするようなことでもなかったが、隠されるとなぜか気になって仕方がない。

「だってあのあとクラピカ寝ちゃったんだもん」
「おまえのせいだろうが!」

いったいなぜこんなにもレオリオには弱いのか。
いつもいつもいいようにされている気がする。・・・悔しい。


「と、とにかく今日が例の日曜だぞ。さっさと白状しろ」

ふと、流しっぱなしにしているラジオから天気予報が聞こえる。
今日は流れ星が見られるかもしれない。・・・だそうだ。
「流れ星だってー、よかったな」
「はぐらかすな」
「はいはい。・・・んー」
「・・・なんだ?」
「ダメだ」
「は?」

レオリオは腕を組みながら難しい顔でクラピカを眺める。
人の顔を見て「ダメだ」とはなんだ。失敬な。

「ちょっと来い」
いきなり肩を抱かれて、服を脱がされ始めた。
「ちょ、おい、コラ!なにをする!」
「わーっ、違うって!おとなしくしろ!」



数分後。
「よーし、オレの目に狂いはなかった」

手際よくレオリオに(無理矢理)着させられた服。
白いワンピース。

「・・・なんでおまえが女のものの服を持っているんだ」
「おまえに似合うかなーって思って。こっそり買っといた」

こうやって
不意打ちで嬉しいことを言ってくれる。
いつでもどこでも自分の事を思ってくれている。
それほど嬉しいことは、ない。


「じゃ、行くか」
「こ、この格好で行くのか」
「こんなかわいいのに、ウチの中だけじゃもったいないだろ」

そうやって
さりげない言葉で
抵抗できなくさせられる。

レオリオに口説かれて、落ちない女なんていないんじゃないか?
なんてバカなことを、クラピカは本気でよく思う。

現に私はそんなレオリオに口説かれてしまった。
・・・不覚。
それでも、今が幸せなのは、確かだからよしとしよう。



今日という日が、クラピカにとって仕事よりもハードな日になることを、彼女はまだ知るよしもなかった。




・・・・・・




たくさんの人。・・・カップルと家族連れが多いのはなぜだ?
漂ってくる甘い香り。・・・スナックワゴンがそこら中に広がっている。
大小さまざまな遊具。
ここは
どこだろう。

ああ
そうだ。
来たことも見たこともないけれど
「遊園地」・・・だろうか?


「レオリオ・・・ここはどこだ?」
「"私は誰?"」
「ふざけるな」

「そんなかわいいカッコで怒ってもかわいいだけですよ」
「・・・」
「遊園地知らないの?」
「・・・知識としては知っている」


遊園地の入り口の前で珍しそうにきょろきょろするクラピカを、レオリオは微笑ましく見つめる。
そして、突然聞こえてきた元気な声。
・・・まさか。


「レオリオー、クラピカー!!」
走ってくる小さな影。その向こうにはゆっくり歩いてくる銀髪の少年。
ずいぶんと懐かしい面々だった。


「はぁーつかれたー。早く会いたくって駅から走ってきちゃったよ!」
”つかれた”と言うには汗もかいていないし息も乱れていない。・・・さすがゴンだ。

「ったくバスが出てるっつーのに。いきなり走り出すんだもん、コイツ。意味わかんねー」

走っているゴンに、歩きながらも遅れをとることなくついてきたキルア。
二人とも相変わらずだった。


「早かったじゃねーか。ホラ、ちゃんとクラピカも引っ張ってきたぜ」
突然の二人の登場にきょとんとしているクラピカの肩を抱いて、レオリオは自慢げに言う。

「うわー、クラピカかわいい!」

久しぶり、よりも、見たままの率直な感想を先に述べるゴン。忙しい少年である。
ゴンの言葉に、クラピカは我に返って自分の服装を改めて認識して、急に恥かしくなる。
「こ、これは、レオリオが勝手に・・・」

こうやって赤くなって照れるのが余計かわいく見えるなんて、クラピカは全く気付かない。
だって本当に恥かしいのだ。
自分にこんな格好が似合うのか。
人からおかしく思われないか。

どうしてもこういう格好は慣れない。



クラピカは思った。
どうして遊園地で、なぜ4人揃っているんだ?

「いいんじゃない?細かいこと気にしなくても」
キルアはクラピカの横でこう言って、走り出すゴンを追いかけ始めた。

あとで聞いた。
クラピカの仕事、ひと段落着いたって聞いたから、どうしても会いたくて、と。



とりあえず飲み物を買いに行った。
すると前に並んでいた老夫婦が、微笑みながらこう言った。
「ふふ、家族でお出かけですか?綺麗なお母さんですね」
・・・と。

「な、ち、ちが・・・」
必死に否定するクラピカ。
「わーいクラピカお母さんっvv」
便乗するゴン。
「そーでしょそーでしょ?なんたってオレの自慢の・・・、いてッ」
「〜〜レオリオ!」
満面の笑みでクラピカに寄り添うレオリオだが、容赦無しの鉄拳をくらってしまう。
「自慢のなんだよ?オッサン」
「お母さんだよねっ!」

つまり私がレオリオと夫婦で、ゴンとキルアは私たちの子供か?

4人揃うとどうもややこしいことになってしまう。
それでもやっぱり
この空気が心地良かった。




こうやって、遊園地という(クラピカにとって)未知の世界を歩き回るのは、それなりに楽しかった。
「あー、オレあれ乗りたい」
と、キルアが指差したのは絶えず雄叫びが聞こえる巨大なジェットコースター。
「わー、すごーい、乗る乗るー」
と、ゴンは笑って走り出す。

二人にとって、ジェットコースターになど微塵の恐怖も感じないのだろうが、
やはり乗ったことのない乗り物には興味がわくらしい。

「ふたりはどうする?」
「ああ、そうだな、行くよ」
「いっ!?ま、マジで?」


なんの抵抗もなく了解したクラピカの横で、レオリオは一瞬顔を青くする。
それをキルアが見逃すはずがない。
「あれー?もしかしてレオリオ、絶叫系乗れないの?」
「う、うるせー!おい、クラピカも考え直せ!あんなの乗ったら死んじゃうぞ?すっげー早いんだぞ?!」
「いいや、別に問題ないぞ」

もはや乗らない、という選択肢は残っていなかった。


列に並んでいる最中、レオリオは憂鬱な気分の中、こうも思った。
もしかしたらクラピカが「きゃー」とか言ってオレに抱きついてくるかも・・・だったらなんとか平気かも・・・

しかし。
そんなレオリオの願いも虚しく、2人乗りのジェットコースターの相席になったのはキルアだった。

ゴンとクラピカは仲良く前の席に・・・

「おい!なんでおまえがオレの隣なんだよ!」
「知るか!オレだってゴンの隣がよかったよ。・・・もしかしてクラピカといちゃこくつもりだったんじゃないの?」

ぎくっ。

「・・・ちっ、しょーがねー。いいか、いくら怖くてもオレに抱きつくなよ」


数分後。


「おい、ちょっと、離せ!くっつくなよ!」
「ううううううるへー!うわ、落ちる!降ろしてーーーーー!!!!」



搭乗中、レオリオはずっとキルアにしがみついていた。
強く抱きしめられ、呼吸もままならなかったキルアはもう、怒る気力もなかった。


憔悴しきってベンチに倒れこんでいる二人を尻目に、ゴンとクラピカはいたって楽しそうだ。
「楽しかったねークラピカ!」
「そうだな、なかなか楽しいな」


こんなはずじゃなかった。
キルアもレオリオも元気な二人を見て、そう思った。




あっという間に午後になった。
キルアはもともとジェットコースターに弱かったわけではないので、すぐに回復して、ゴンと一緒に走り回っていた。
しかしレオリオは。

「大丈夫か?」
「うー・・・まだ目が回る」

こんな調子だった。



「キルアー、キルアー!」
「なんだよ」
「あれなに!?」
ゴンが指差したのはお化け屋敷。
「入る?」
「うん!あ、クラピカたちはどうする?」
「無理だろーあれじゃあ」

レオリオはクラピカにのしかかるようにして歩いている。
「私たちはいいよ。二人でいっておいで」
レオリオを一人にしておけないのか、そう言ってレオリオと共にベンチに腰を下ろす。

自分を気遣ってくれるクラピカに、レオリオは声に出さないながらも感激していた。

しかしキルアは。
「えーオレ、クラピカも一緒じゃなきゃやだ」
そう言って、クラピカの手を取って館の入り口へ走る。

キルアはレオリオの方を振り向いて、目を細めてほくそえむ。
さっきの仕返しだよ、といわんばかりに。


(あ・・あの野郎〜!!)
立ち上がる気力もなく、レオリオは三人が屋敷の中に消えていくのを見届けるしかなかった。




そしてこちらは。
「レオリオは大丈夫だろうか」
「知るかあんなの。オレを殺そうとした罰だよ」
「だってキルア、あのくらい息止めててもキルアなら死なないでしょ?」
「そりゃそーだけどさ、ありゃ不意打ちだよ」


そうやってのんびり会話をしながら真っ暗な中を歩いていると、最初の仕掛けが。
――上から生首が降りてきた。

しかし3人はまったく動じない。
それどころかゴンとキルアは笑いだして、わざと声をあげながら走っていってしまった。

「お、おい!ゴン・・・」

目の前にぶら下がる生首に行く手を阻まれ、クラピカは二人とはぐれてしまった。

「・・・まったく」

さっきまでは喋りながら進んでいたから気付かなかったが、こうして一人になるとあたりは静かで、物音一つしない。


クラピカは仕方なく、出口に向かって歩き出した。
といっても、さっき入ったばかり。
きっと出口はまだまだ先だろう。

小さく溜息をついたその瞬間。
大きな何かに、後ろから羽交い絞めにされた。

あまりに突然の出来事に、クラピカはその場に力なく座り込んでしまう。
そして聞こえた笑い声。
「へへー、びっくりした?」

意気消沈していたはずのレオリオだった。

「・・・貴様・・・ッ殺す気か!」
クラピカは怒った。
ものすごく怒ったつもりだった。
けれど声にも力が入らない。

「なんだよー、人がせっかく心配してきてやったのによー」
「なんの心配だ」
「おまえ、怖がってんじゃないかなーって」
「・・・おまえじゃあるまいし・・・そんなことあるわけなかろう。こんな子供騙しな・・・」

「ちぇー。・・・どうでもいいけどさ、早く立てば?」
「・・・・・・・」

「もしかして、さっきので腰抜かした?」
レオリオは笑みを浮かべてクラピカの顔を上から覗き込む。

「・・・うるさい!おまえのせいだ。馬鹿者」
レオリオから離れるようにしてそっぽを向く。
しかし。
「バカってなんだよー。しょーがねーな、怒った顔もかわいいから連れてってやるよ」
「な、ちょっと、離せ!」

そのままふわっと抱き上げられる。
クラピカは抵抗した。
本気で抵抗すれば離れることが出来た。
でもそれをしなかった。

触れられて、きっと心の奥では嬉しかったのだ。




「へーきへーき。オレがついてればもう何も心配イラナイ」
「・・・おまえに言われたくない」


出口の向こうは外の光がとても眩しかった。
外に出てから、クラピカはふと思った。
なぜかみんな、こちらを見ている。

先に出ていたゴンとキルアも、不思議そうに私たちを見ている。

「・・・・、・・・・!!!お、降ろせレオリオー!!」
気が付けば、レオリオに抱き上げられたまま。

つい
手が出てしまう。

悪い癖だ。



・・・・・・・・





楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
遊園地は閉園時間となり、まだ遊びたい、と言うゴンをキルアが引っ張っりながら、二人は帰っていった。

「また会おうね」の言葉を残して。



そしてレオリオとクラピカ、二人きりの帰り道。
もう空は真っ暗で、無数の星が散らばっている。
「・・・今日はハードな日だった」
「まあな・・・」
「・・・けど楽しかったのだよ」
「そうだな」

隣を歩くクラピカの顔をふと覗くと、嬉しそうに微笑んでいた。

「オレさー、こうやって手繋いで歩くの好きなんだよ」
繋いだ手をぎゅっと握りなおして、レオリオは言う。
「・・・まあ、私もだ」
「なんか微妙な返事」
「そうか?」



今日は流れ星が見られるかもしれない。
ふと今朝の天気予報を思い出して、クラピカは目の前に広がる夜空を見上げる。

すると。
「・・・!レオリオ、今、流れ星――・・・」

せっかく見つけたのに
教えたかったのに


いきなり目の前が真っ暗になってしまった。
いつもいつもそうなのだ。
突然、キスをしてくるのだ。


「・・・今、なに?」
唇を離すと、レオリオが優しい顔でクラピカに問いかける。
ああもう、ほんとうに。
この表情に
弱い。


「・・・・流れ星」
「見えたの?」
「ああ」
「オレにはおまえしか見えなかったな」


再びクラピカの手を取って、レオリオは歩き出した。



2008/06/28
ゴンキルレオピカIN夢の国、をやりたかったのです。
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