誰よりも二人の幸せを願ってる。
少しだけ、大人になれた気がした――




硝子




最近クラピカがすごいきれいになった。
もちろん前々から美人っていうか・・・まぁ、かわいいっていうか。

「恋をすると女は綺麗になる」っていうのはミトさんの教え。
俺とゴンに、耳にタコができるくらい言い聞かされた。
もちろん、そんなの男である俺たちには理解できない。
女って不思議だ。でも、本当に綺麗になったんだ。

5年前・・・初めて逢ったとき俺が思ったこと。
「無愛想な奴」。これが第一印象。

だって、いつも張り詰めたような顔してさ。
少しだけ、似ていた。あの頃の、俺に。

そりゃあ、俺が言えるようなことじゃないけどさ?
せっかくの綺麗な顔が台無しじゃん?それに、男か女かも分からなかった。
でも、どっちにしたって笑えばぜってー可愛いよ。
そんなことを思ったんだ。

いつだったろう・・・あいつが初めて笑ったんだ。
やっぱりスゴイ可愛くて。思わずドキッとした。
でも、今思えば、あいつが笑うときはいつだって隣にレオリオがいたんだ。
あいつが笑うときはレオリオもつられて嬉しそうに笑ってた。

なんか
そういうの見てると・・・フクザツ。イライラするっつーか。
でもさ、クラピカの笑顔見てると何かこっちも・・・嬉しくなってくる。
安心するっていうか。こんなの不可抗力だからさ、何でかは分かんない。嬉しいものは嬉しいんだよ。

オレじゃあクラピカを幸せに出来ないのかな?
ふとそう思ったんだ。・・・オレなりに。
でも、やっぱおっさんにはかなわねえや。
だって態度で分かるんだ。俺やゴンに向ける笑顔とは違う、レオリオにだけ向ける特別な笑顔。
それには、そういうことに鈍いゴンだって気付いてる。

「ねえキルア、クラピカってレオリオと居るとき、すごく嬉しそうだよね」
ホント、嬉しそうだ。




明日は二人の結婚式。
そして、レオリオの誕生日。

タイミングがいいんだか悪いんだか。
・・・ちゃんと「おめでとう」って言えるかな。
あー・・・無理かも。俺はまだガキだから。レオリオみたいな”大人”じゃないから。

そんな時ゴンが俺に言ったんだ。
「二人とも幸せになれるよね」

そうだよ
俺が望んでるのはクラピカの幸せ。・・・二人の幸せ。
嫉妬してる自分が恥ずかしい。・・・変だよな。なんで他人のことで俺がこんなに思い詰めてるのか。

あの二人に
幸せになって欲しい、・・・と、思うなんて。
心から、おめでとう、と言いたくなるなんて。

「おめでとう」なんて口にしたことは一度も無い。
そんな機会は無かったし、言う相手もいなかったから。

それでも、明日は
「おめでとう」
二人に、たった一言、その言葉だけ
幸せになってくれることを望んで。


今日は快晴。絶好の結婚式日和ってヤツだ。
昨日ゴンが作った、てるてる坊主のおかげだな。

「神様雷様仏様、どうか明日は晴れにしてください!俺の大切な友達の、お祝いの日なんです!」

なんて言いながら、いくつものてるてる坊主と一緒にずっと夜空に祈ってた。
俺がいくら早く寝ろって言っても、寝付こうとはしなかった。
・・・でも、何時間もしないうちに窓際でぐっすり寝てたり。ゴンらしいな。

「キルア、レオリオのケーキ食べちゃダメだよ」
昨日、ビスケとゴンと、3人で作った大きなケーキ。
やっぱり俺たちだけじゃ全然出来なくて、途中でオーブンが爆発したり、ビスケが妙なトッピングしたりで結局徹夜になってしまった。

見た目は悪くても、俺たちの気持ちはいっぱい詰まってる。
「分かってるって。俺はお前のほうが心配」
「そ、そんなことないよ!」

ってゆーかさ、この年になって誕生日ケーキなんか、普通無い。
でもま、クラピカとのお祝いも兼ねてって事で。

「ぶっは!お前やっぱそれ似合わねー!」
本当にゴンは正装というものが似合わない。どこか違和感があるというか。
ぴょんぴょん森を駆け巡ってた野生児だからなぁ。

「ひ、酷いよキルアー!」
「ゴメンゴメン。さてと、じゃ行くか。あれ?ビスケは?」
「あれ?さっきまで一緒に・・・・、っ!!!」
「・・・お前、気合入りすぎ」
「そうかしら?思いっきりお洒落してみたかったんだわさvv」

よく言うよ、57歳のババアが・・・あ、もう62歳か。
・・・っと、これは禁句。

「あ!ほら早く行こ!時間無いよ!ケーキ持った?」
「持った持った!おっしゃ教会まで全速力だ!」
「よーし!じゃあ競争ね、行くぞー!」
「あ!ちょっと!こんなか弱い女のコを置いてそんな早く行くんじゃないわよー!」


ビスケは教会につくなり、新婦であるクラピカのいる控え室に目を輝かせながら直行した。
ビスケは、ずっと前からこの結婚式を楽しみにしていた。何
でおまえがそんなに期待してんだよ?

「だって素敵じゃない!若いカップルの、永遠の愛の誓いの儀式なんてvそれにね、花嫁のブーケは私が取るのvv」

結婚式なんかそこらじゅうでやってるじゃん。

「あの二人だから嬉しいの!」
・・・・なるほど、納得。

「レオリオー!」
ゴンが嬉しそうに声をあげながら、新郎控え室のドアを勢いよく開けた。
子供のようにはしゃぐゴンの姿に少し呆れながら、苦笑して俺もゴンのあとに続く。

「何だよ、ノックぐらいしろよ、驚くじゃねーか」
扉の向こうにあったのは、いつもと変わらないレオリオの笑顔。
でも、いつものレオリオとはちょっと違う。
長身にビシッとタキシードが決まってて、悔しいけど・・・・まぁ、カッコいい。
こんなこと本人の前じゃ絶対言わないけど。

「うわー!レオリオ、カッコいいよ!」
ゴンは素直に今の気持ちを言葉にした。レオリオは恥ずかしそうに笑って、
俺たちの肩を軽く叩いて部屋を出た。・・・そうか、もう式が始まる時間だ。

「・・・・クラピカ泣かせんなよ」
先を歩くレオリオを捕まえて、俺はそっと耳打ちをした。
「おまえにいわれなくたって、あいつは俺が絶対幸せにしてやるよ」

自信満々のレオリオの明るい笑顔。本当に幸せそうな顔してる。
なんか、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ。

「・・・・・・・あと、誕生日おめでと」
「お、おまえも素直になったなぁ。サンキュ」

レオリオは俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「子供扱いすんなよ!」
「俺にとっちゃおまえらはまだまだ子供だよ」

レオリオは勝ち誇った少年のような顔で笑う。
「そのうち追い越してやるよ!また一つ年取ったおっさんに言われたくないね」
「言ってろ!」

レオリオはクラピカのいる部屋のドアを静かに開けた。
「・・・ミトさん、クラピカは?」
ゴンが目を輝かせて花嫁の様子を伺う。

「完璧よ〜vvもともと綺麗だから、無地の真っ白なドレスだけで充分よ。本人は恥ずかしがってたけどね」

この日の為に、くじら島からわざわざ来てくれたミトさん。
満足そうに笑って、俺たちを部屋の奥へ通してくれた。
目の前に現れたのは、真っ白な天使。
薄いカーテンの間から差し込む柔らかい光が金色の細い髪に反射して、より輝いて見える。
そんなクラピカの美しさに、俺たち3人はしばらく身動きが取れなかった。
ミトさんは後ろで、「文句ある?」とでも言いたげに自信満々に笑っている。

「クラピカ、すっごい綺麗だよ!」
ゴンがようやく口を開いて、とても嬉しそうな、そしてどこか照れたような笑顔を見せた。
今日のクラピカは驚くほど綺麗で、可愛くて・・・そう、思わず見とれてしまった。
・・・ホント、おっさんにはもったいないくらいだよ。

「3人とも、そんなにじろじろ見るな、恥ずかしい・・・」
クラピカは顔を赤らめて、伏し目がちにそう呟いた。俺は部屋の真ん中に突っ立って、そんなクラピカをじっと見つめていた。

「よっしゃ、行くか!」
レオリオが目の前のクラピカを軽やかに抱き上げて、
教会へと続く緑が生い茂る春真っ盛りのあぜ道を駆けていった。

普通に歩いていけってば。そんな連れ去るようなことしなくったって、クラピカは逃げていかないよ。

「丁度時間だわさ。・・・・・・あ!指輪!忘れてったわよ!」
ビスケは花嫁が忘れていった、光る指輪を持って、慌てて二人のあとを追いかけた。

途中二人は、派手に野原で転んだ。
クラピカの輝くような真っ白なドレスは草まみれで、
長いスカートもくしゃくしゃだった。
伊達男を気取るレオリオのタキシードもしわくちゃで。
でも、それだけ派手に転んでおいて怪我一つしなかったのは、レオリオが抱き合う形で下敷きになったから。

「へへ・・・ちょっと急ぎすぎたな。クラピカ、平気か?」
レオリオはなんとも情けない姿で、腕の中の花嫁を守りぬいた。
俺たちが追いついた頃には、二人は転んだ体制のまま、抱き合って笑っていた。

・・・まったくさ、いい加減にしてくれよ。どこまで仲がいいんだか。
その場にいた人たち皆、そんな幸せそうな二人を見て
「幸せのおすそ分け、どうもありがとう」と言いたげに笑ってた。

正午過ぎ、無事に式は挙げられた。
式といっても、本当にわずかな人数の、ささやかな挙式。
こんな二人で、正直この先やっていけるのかと不安に思う。

でも、大丈夫だ。おちゃらけてるけど、結構頼りになるレオリオと、
しっかりしているようで、本当は不器用なクラピカ。
大丈夫、この二人なら。

指輪交換のときに、二人が小さな声で交わした会話。
地獄耳で、二人の最も近くにいた俺には聞こえた。
・・・センリツにも聞こえてたかな。

「・・・・レオリオ、誕生日おめでとう。プレゼントは・・・何がいい?」
「もうとっくにもらったよ。お釣りが来るくらい大きいプレゼント」
「・・・なんだ?」
「おまえとの幸せな日々を一生分」
「・・・じゃあ、私の誕生日には、同じものをくれるか?」
「当然」
花嫁は顔を赤く染めて微笑んで、大きな瞳を静かに閉じた。



本当に綺麗な
真っ白な天使。
それでも
どこか儚げに見えた。
少し触れただけで
壊れてしまいそうなほど繊細で傷つきやすい
ガラスのような天使の心。
この天使を守れるのは
あんただけだよ。
そうやって、優しく抱きしめて、笑ってやって。

クラピカの笑顔を守れるのは
レオリオだけなんだから。



ハンター試験で出会ってから5年。レオリオはちっとも変わらない。
レオリオだけじゃない。俺もゴンもクラピカも。みんな変わらない。

クラピカに10cm近く届かなかった俺の身長も、今ではクラピカを追い越せるほどになった。
そう、変わったのは背くらいかな。

「二人とも大きくなったな」
「クラピカ、お母さんみたいだよ?」
ひょっこりとゴンが話に入ってくる。
「もうすぐお母さんになるかもな」

冗談に聞こえないクラピカの一言が胸にチクリと突き刺さる。
「二人とも、今日は本当にありがとう。・・・・レオリオと幸せになるからな」
クラピカは改まって俺たちにそう言った。誰よりも幸せそうな、綺麗な笑顔で。

やっぱりレオリオにはかなわない。俺じゃクラピカを幸せに出来ない。
・・・こんなに好きでも。だから、俺は俺に出来ることをしよう。二人の為に。俺自身の為に。
心から祝おう。

「おめでとう」

2004/03/03 Happybirthday Leorio.



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