こんなに寒いのに、温かい。
心地いい。






ミルク






レオリオの声と、肌の冷たさで目を覚ました。
体がだるくて、何だか頭がよく働かない。

しかしそんな自分の状況を理解するのに、そう時間はかからなかった。

「おはよ。もう朝メシの時間だぞー。
んでもって早く服着ろ。風邪ひいちまうからな」

耳元で優しく囁くようなレオリオの声と、毛布をかけただけの裸同然の自分。

「風邪をひかせるような格好にしたのはどこの誰だ・・・」
急に恥かしくなって、枕に顔を埋めながら、クラピカは顔を赤くして口ごもる。

「はいオレでーす。何だよ、今更」
レオリオは嬉しそうに笑うと、機嫌を取るようにクラピカに擦り寄って、小さな頭を優しく撫でる。

それがとても心地良い。
「レオリオ、何か・・・飲み物を持ってきてほしい」
「了解。あ、でもその間にまた寝るなよ?」
「大丈夫だ。ちゃんと起きてるから」

言葉とは裏腹に虚ろな目のクラピカを見て、レオリオは小さく笑ってベッドを降りた。

眠れるわけないだろう?
近くにいるだけで
こんなに胸がドキドキするのだから。



横になったまま、キッチンに立つレオリオを後ろから眺めながら、クラピカは軽く微笑む。

早く戻ってきて、また隣で添い寝してほしい
・・・なんて、口には出さないけれど。

「ほら。ミルクでいいか?」
「ああ、ありがとう」

彼が持ってきてくれたのは、薄いクリーム色のマグカップに入ったホットミルク。
クラピカは毛布に包まったまま上半身だけを起こして、カップを受け取った。

不思議なもので、レオリオがいれてくれたミルクは特別美味しい。
そんなの誰がいれても同じ味なはずなのに、紅茶も、コーヒーも、そしてこのミルクも。

きっとそう感じることが出来るのは、私だけ。
それが何だか嬉しくて、無意識に笑みがこぼれる。



ふと、自分に向けられている視線に気が付いた。
その視線の先には、じっとクラピカを見つめる、茶色い瞳。

「・・・なんだ?」
マグカップを口から離して、レオリオの顔を怪訝そうに覗き込む。

「何って・・・おまえ見てんの」
レオリオは真顔でそう答える。

いつもそうだ。この瞳に見つめられただけで
胸が痛くなる。

「かーわいいなって思って」
「用もないのに・・・・じろじろ見るな」
歯切れの悪い口調で、そう呟く。
そうは言っても、やっぱりレオリオのいれたミルクは美味しくて。
本当はとてもとても嬉しくて、カップに口をつけたまま、思わず微笑んでしまう。

行動と言動が――全く矛盾している。
我ながら可愛くないことを言っておきながら、顔は笑っている。
こんな自分は、あまり好きではないのだけれど、
レオリオは「照れ隠しが下手だな」と笑ってくれる。
そう言われるのは、何だか嬉しかった。



「クラピカ、こっち向いて」
顔をあげると、感じるのは温かい唇の感触。

両手にあったはずのまだ熱いマグカップも、いつの間にかベッドサイドに置かれている。

「おまえがあんまり可愛い顔して笑うから・・・・・」
クラピカの体に体重をかけて、静かにベッドへ押し倒す。

朝っぱらから、どうしてくれんだよ、と。レオリオは不敵な笑みを浮かべる。
「そんなの・・・私のせいじゃない」

毛布ごと彼女の細い体を力いっぱい抱きしめて、
桜色に染まった柔らかい頬に軽く口付ける。
レオリオが毛布に手をかけると、クラピカは肩をすくませ、赤い顔で一言。

「やだ・・・・寒い」

冬の朝は寒い。
外は雪が降り積もっている。

裸同然のクラピカの華奢な肩は、一晩ですっかり冷え切ってしまった。

でも、そんなのはただの口実。
本当は、シャワーも浴びていない自分の体を、見られたくはないだけ。

「平気だよ。オレがすぐにあたためてやるから」

そんなクラピカの気持ちとは裏腹に
レオリオは優しく笑いながら、クラピカの額にキスをした。



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