プルルルル。
プルルルル。
めずらしい。ゴンからの着信だ。
子供
今日は久しぶりの休日。
しかしレオリオは朝から仕事。一応一緒に住んでいるのだが、やはり会える時間は少ない。
今日も彼は疲れて帰ってくるだろうから、たまには自分がはりきって料理でも作ってあげようと思い立ち、
クラピカは休日を利用して朝から『誰でもカンタン!大切な人に作ってあげたいまごごろ料理』なる雑誌を手に、
ひとり修行(?)に励んでいた。
いつもいつも、レオリオにはおいしい料理を作ってもらっているから、せめてもの感謝の気持ちを形にしたかった。
と、ケータイが鳴る。
着信のようだ。
(・・・ゴン?)
ゴンから着信がくることはめったいにない。
クラピカは不思議に思いながらも、読みかけの雑誌にしおりを挟んですぐに電話に出る。
「もしもし、どうした?」
「あ、ごめんねクラピカ。今仕事?大丈夫?」
なつかしい元気な声。
電話の向こうのゴンの遠慮がちな笑顔が目に浮かぶ。
「今日は休みだから、大丈夫だ」
「そっかー、よかった。それでね、クラピカ、あした・・・誕生日だよね?」
「――・・・そうか、そういえば、そうだな」
毎度のことだが、忘れていた。
レオリオの誕生日ならちゃんと覚えているのだが、自分のこととなると、どうも忘れてしまう。
「忘れてたの?もー、だめだよ!1年に1回しかない大事な日なんだから!!」
「すまない。そうだな、誕生日はおめでたい日だな」
「そうだよ!クラピカ、おめでただよ!あっ、あとでプレゼント送るからね!!じゃあ、キルアが待ってるから切るね!」
「ちょ、ゴン!おめでたって・・・」
略すな!
変な意味になるではないか!!
そう言う前にせっかちなゴンからの電話は切れてしまった。
なんだか・・・
なんだか嫌な予感がする・・・。
本に挟んだはずのしおりは、何故か床に落ちていた。
「よぉゴンか。どうした?」
「えへへ、久しぶりレオリオー。いま大丈夫?」
「おう、いまちょうど帰るとこだよ。それにしてもめずらしいじゃねえか、おまえから電話かけてくるなんて。なんかあったのか?」
「うん、あのね、あしたはクラピカがおめでただね!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「だーかーら!クラピカはおめでたなの!知らなかったの?レオリオ!」
「・・・・・・・・いや・・・・オレ・・・そんなことクラピカから聞いてないぞ・・・?」
「だって今朝そのことで電話したらクラピカ言ってたよ?おめでたな日だなって」
「なにぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!??」
(いいいいいいやだってオレは・・・きちんと・・・避妊してたぞ・・・!?
まま、まさかまさかクラピカ、別の男と・・・・・・・・・・・?!!)
「ちょっとどうしたのレオリオ?ぶつぶつ小声で・・・聞いてるーレオリオー?」
ブツ。
ピー。ピー。
ケータイを落としたのも気にせず
靴のかかとを踏んだまま
レオリオは猛ダッシュで(ほんとに全力疾走)クラピカの待っているだろう家へ急いだ。
一方こちらは。
「なあゴンー。朝クラピカに電話してただろ?あれなんの用だったんだ?」
「えっ、キルアまで忘れてる。クラピカかわいそー」
「だからなんだよ?」
「あしたはクラピカのおめでたでしょ!!」
「・・・ああ、誕生日か」
「そうそう!思い出した?で、さっきレオリオにも電話したらさー、なんか様子がおかしくって・・・」
「――・・・おまえやっぱ、今みたいにクラピカのおめでたって言っただろ?」
「うん、そうだよ?」
「だよなぁ・・・ま、勘違いして当たり前だよな・・・かわいそーオッサン」
「え?なにが?」
「ゴンおまえさ、もうちょっと言葉の使い方知ってた方がいいぞ」
気付けばもう日は暮れていた。
レオリオが帰ってくるのは・・・あと3時間くらい先になりそうだ。
それまでに、今日得た知識を実践に移してみよう。
おいしい料理ができればいいのだが。
ピンポンピンポンピンポーンピンポンピンポンピンポーン
(な、なんだっ!?)
突然尋常ではない鳴らし方のベルがけたたましく部屋中に響いた。
もちろん警戒した。
慎重にドアに近づくと、荒い息が聞こえる。
それはよく聞くと、レオリオのようだった。
(・・・レオリオ?なぜこんな時間に・・・)
「おーい開けてくれ!!」
その声でレオリオ本人だと分かり、ゆっくりドアを開ける。
「っううぅーーー、ぐらぴかぁああーーーーっっ」
「な!?!??」
これまでに見たこともないぐしゃぐしゃの顔で子供のように大粒の涙を流しながらレオリオは泣き叫んでいた。
「なんでだよぉーー、なんでだよくらぴかぁ・・・」
立っているのもままならないのだろうか、ぺたん、と力なくクラピカの前にひざをついてしまった。
「ど、どうしたというんだレオリオ!?なにがあったんだ、答えろ!」
「っうぅう、おまえ、おまえ・・・おめでたなんだろ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・なに?」
「ゴンから電話があって・・・クラピカはおめでただって・・・
なんでオレに言わないで先にゴンなんだ・・・?
なあ、オレ、おまえのこと信じていいんだよなぁ・・・?」
嫌な予感は
当たった。
「・・・レオリオ、よく聞いてくれ」
「・・・」
「ゴンはあしたは私の誕生日で、それがおめでただと言っていたのだよ」
「・・・・・・・・・・えっ」
その夜レオリオは
泣き疲れて走り疲れて、もしかしたらクラピカが浮気をしたかもしれないなんて不安に押しつぶされ、さらにそれが勘違いだったという精神的ダメージで
クラピカのひざの上で寝てしまった。
その姿はまるで子供のようで。
翌日――4月4日、レオリオはクラピカのそばをひとときも離れなかった。
もうあんな思いをするのはごめんだと言って、ずっとクラピカの手を握っていた。
レオリオはのちに語る。
アレは人生で一番心臓が止まりかけた出来事だったと。
2008/04/04 Happy birthday Curarpikt.
せっかくの恋人の誕生日、大変な思いをしたレオリオでした。
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