ただ好きだと言いたいだけなのに。




告白




レオリオと私はいちおう一緒に住んでいる。
仲がいい・・・というか
とりあえず恋人同士なのだ。
・・・なんだか恥かしいが。

あんまりレオリオが一日に何回も愛の言葉を囁くので、「しつこい」と言ってやった。
ほんとうは、嬉しいのだが。

するとレオリオはこう言った。

「だってー、クラピカはめったに言ってくれないからさ」

彼はなにげなく言ったつもりだったのだろうけど
どうにもその言葉が頭から離れなかった。
1週間たった今も。


レオリオは今朝から自室・・・勉強部屋兼二人の寝室にこもりっぱなしだ。
きっと勉強をしているのだろう。

医者になれたとはいえまだまだ新米。
頭に叩き込むことは山ほどあるのだろう。

私はそんな彼の邪魔にならないように、隣のリビングで静かに読書をしていた。

今日はめずらしくオフの日だ。
レオリオがいないと――暇だ。

私一人では読書しかできない。
まあ、読書は好きだが。


ふと、レオリオの言葉を思い出した。


クラピカはめったに言ってくれないからさ、の一言。
(・・・そうだ)


・・・


床に転がっているクッションに向かってきっちり正座をする。
・・・なんだか妙な光景だ。
「・・・あのなレオリオ」
「・・・・」
「いつもは言えないが・・・・私はちゃんと・・・・おまえが好・・・」
「・・・・」


繰り返される一方的な会話。
もちろん目の前のクッションは返事をしてくれない。

なんだか
バカバカしくなってきてしまった・・・。


どうせ暇だし
やることはないし
しかしレオリオは勉強中だし

レオリオが喜ぶならと、レオリオへの愛の言葉の練習をしていた。
しかしどうもうまく言えば言おうとするほど、言葉に出来ない。

どうだろうか。やはり、率直に「好き」とただ一言だけの方が良いのだろうか?
いや、それもストレートで恥ずかしすぎる。

うすい壁の向こうで本とにらみ合っているレオリオに
果たしてこの低レベルな会話(?)を聞かれてはいないだろうか。

そう思うと
なんだか(いろんな意味で)ドキドキしてきた。
今からこんな調子では実際に本人の前に立った時、果たしてどうなってしまうのか。



思えば、面と向かって「好きだ」なんて言った試しはない。
レオリオが不安に思うのも無理はないだろうか。
それをゴンの叔母、ミトに会う機会があったので話したところ、厳しい忠告を受けた。

”自分の気持ちを素直に言葉で伝えなさい。
男の人はね、言葉が無いと不安になるの”と。


それは正論だった。
男に限ってではないと思うが、事実、レオリオはいつも私を言葉で安心させてくれる。
起きたときも、寝るときも。いつでもどこでも私への好意を言葉にしてくれている。

私はそれが嬉しかった。でも自分はしなかった。
彼をこんなにも、愛しているのに。

レオリオの気持ちになってみると、確かに寂しい。
そんなことにも気付けない。私は愚かだった。

だから今、こうして必死に練習している。
バカバカしかろうと、虚しかろうと。
どういう言葉なら、レオリオは喜んでくれるだろうか。
どうしたら上手く気持ちが伝わるのだろうか?

恋愛経験なんてまるでない自分に。
今、私の手元に「恋愛の教科書」なんてものがあったら是非熟読したい、とつくづく思ってしまうのだ。


悩みに悩んで、先ほどのように思いついた言葉を何度も何度も口にしてみる。
「だから、その、あの」
「・・・いつも、おまえの・・・」

ああ、違う。こんな遠回しの言葉を考えていたら日が暮れてしまう。

こうなったらぶっつけ本番だ。
それしかない。

「・・・好き、か」


その一言だけで充分なのだから。


・・・



クラピカは意を決する。
しかし重要なことに気が付いた。

レオリオは勉強中だ。
自分のわけの分からない呼び出しで、レオリオの集中力を損ねたくはない。

でも、もしかしたら、もう終わって、寝ているかもしれない。
もうずいぶん時間はたっている。夕方である。
いくらなんでも休憩くらいはとるだろう。

とりあえず様子を見るだけでも、と思い、クラピカは寝室へ向かおうと立ち上がる。


「・・・!!!」
後ろには、レオリオが立っていた。
心臓に悪い。本当に。

「な、おまえ、びっくりするじゃないか。終わったんなら声くらいかけて――・・・、?」

なんだかレオリオの様子がおかしい。
必死に笑いをこらえるかのように肩を微かに震わせて、手で顔を覆い隠している。

「?なんだ、なにがおかしい」
「・・・いや、今からおまえに告白しようかなって」


クラピカはギクッと肩をすくめる。
今から私がしようとしていたことなのに。


「おまえが必死で練習してんの聞いててなんか嬉しくなっちゃってさ」
レオリオは苦しそうに腹に片手を当てて笑いながら言う。

「・・・き、聞こえてたのか!?」
「当たり前だろ?あんな大声で何度も言ってたら。ここの壁、薄いんだぜ」

大声で、何回も。
言ったつもりはなかったのだが。

・・・不覚だ。本当に間抜けだ。
恥ずかしさと情けなさで、クラピカは顔を隠すようにしてうつむいた。
こんなはずじゃなかったのに。

「かわいいな、おまえ」

レオリオが優しい声でそう呟く。
真っ赤な頬を押さえながら、泣きたくなるのを必死に抑えて顔をあげる。
そこにはレオリオの大好きな笑顔。

「滅多に自分から好きだなんて言ってくれないクラピカが、俺の為にこんな一生懸命になってくれるなんてさ」

「お、おまえがしつこく催促をするから」
「気にしちゃったの?」
「・・・」
「ごめんな」

しかしその顔に反省の色はない。
逆になんだか嬉しそうだ。


「で、練習の成果を見せてくれんの?」
「・・・、汚いぞレオリオ。私は今恥かしすぎてボロボロなのに」
「早く聞きたいな、クラピカの、オレへの愛の言葉vv」


ほんとうに
ずるい。
こういうタイミングで
抱きしめるか?ふつう。

「・・・オレに何か言いたいことがあるんだろ?」

もう完敗である。
この男には一生かなわない。

恥ずかしくて、照れ臭くて、今まで何度もチャンスを失ったけど。
優しい黒い瞳を真っ直ぐに見つめて、たった一言を言えばいい。

それだけで、張り裂けそうな気持ちはちゃんと伝わる。



実は初めて書いた108お題がこの「告白」。
あまりに稚拙な文章だったのでお蔵入りでしたが、リメイクして(こっそり)復活させました。

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