そういえばクラピカと酒を飲んだことなんてなかった。
どうなるかなんて
考えたこともなかった。
時計
夕食後の団欒。時刻は夜10時を回ったところ。
クラピカはいつものように、ソファに座って本を読んだり、テレビを見たりしている。
レオリオはその隣で、これまたいつもしているようにワインを飲んでいた。
いつもの光景だが、今日に限ってレオリオの飲んでいるものが気になった。やたらと美味しそうに飲んでいる。
「レオリオ」
「ん?」
「きみは・・・酒が好きなのか」
テレビを切って、本を閉じて、クラピカはレオリオの方に向き直る。
「オレが好きなのはおまえだけ〜」
ワイングラスを片手に持ったまま、レオリオはにんまり笑ってそう言う。
「質問に答えろ」
「相変わらず手厳しいわー・・・まあ、好きってかタバコと一緒だよ。とりあえず寝る前に飲むかなって感じ」
「・・・飲むとよく眠れるのか?」
興味津々なクラピカに、レオリオは苦笑する。
「なんだよ、飲みたいのか?ほら」
おもむろに差し出された、さらりとした液体の入ったグラス。
傾けると、なみなみと揺れる。きれいな宝石のような色だ、と思った。
ぎこちなく受け取りながら、クラピカはふと思う。
そういえば
酒など飲む機会なんてなかったな・・・。
これが生まれて初めてだ。
「では・・・」
コクン。
「どーだ?」
「・・・うん、おいしいな」
「甘くて飲みやすいだろ?」
クラピカの反応は意外と良かった。
レオリオは、”こんなもの飲めるか!”とワイングラスを投げつけられるかと思っていたのだが。
5分後。
「おークラピカ、いい飲みっぷりだな」
ゴクゴク。
10分後。
「ちょっと・・・飲みすぎじゃないか?」
ゴクゴクゴク。
20分後。
「そ、そろそろやめとけって!何本空けるつもりだよ!」
黙々と飲み続けるクラピカを、レオリオはついに止めに入る。
しかしクラピカは騒ぐわけでもなく、レオリオを赤い顔でじっと見つめる。
そして。
ギュッ・・・
「・・・・え?」
ワイン一式を片付けようと立ち上がったレオリオの腰に、クラピカは腕を巻きつけて擦り寄る。
「どこへ行く?」
「・・・どこって、キッチンに」
「私を置いてか・・・?」
普段の口調とは全く違っていた。
いつもはきびきびとはっきり喋るのに
呂律が回らないのか
まるで甘える仔猫のような・・・
「好きなのだよレオリオ・・・」
完全に酔っ払っているのか
それとも少々の酔いに任せて素直に告白をしているのか
どっちだか全く分からなかった。
いきなり豹変したクラピカを見て、レオリオは持っていたグラスを落としそうになる。
それほど、違っていた。
まず表情が違う。大きな目はうるうると潤っている。
いつも固く閉ざされた口元も薄く開いていて、ピンク色の舌が垣間見える。
それこそ誘っているかのような
そんな表情だった。
そんな事実に興奮しながらも、レオリオは冷静に対処する。
酔っ払っている恋人を襲うわけにはいかない。早く寝かせなければ。
「・・・う、嬉しいけどよ。ちょっと飲みすぎだろ。大丈夫か?めまいとかするか?」
いったんソファに座りなおし、クラピカの肩に優しく手を置いて顔をのぞきこむ。
短い沈黙。
するとクラピカはにっこり笑って、
「レオリオは・・・そうやって私をいつも心配してくれているのだな。
そんなところも大好きなのだよ。私はもう・・・おまえにメロメロなのだよv」
クラピカはそう言って、レオリオの大きな胸にぴっとりくっついた。
あ・・・
あの、あのクラピカが・・・
メロメロなんて死語を口にして
語尾にハートマークまでつけて
抱きついてくるなんて
し・・・信じらんねぇ・・・
積極的になって嬉しい、とか、そういう気持ちを通り越して、レオリオは逆に戸惑い心配だった。
普段のクラピカとの、あまりのギャップの凄さに。・・・しかし。
「今日はつれないなレオリオ・・・」
「私が嫌いになったのか?」
大胆にも自分からレオリオの膝の上に乗って、
気のせいだろうか・・・胸や腰をやたらと密着させている。
そうやって
あんまりクラピカが甘えた声で擦り寄ってくるから
嬉しくなって、ちょっとだけ調子に乗ってみた。(←おい)
普段だったら、ぶん殴られて怒鳴られそうなことをしてみた。
「えいっvv」
柔らかい胸に、パフっと顔を埋めてみる。
「もう、レオリオのエッチ」
あ・・・っあのクラピカが・・・!
オレのセクハラを素直に喜んでいる・・・・!!
こ、こうなったらもっと違うことを・・
はっ
こ、これじゃあキャバクラと一緒じゃねえか!!!!
咄嗟にくっついているクラピカを引き剥がし、ソファから立ち上がり自分を戒める。
あ・・・あぶねえ。
このままクラピカをキャバクラ嬢にさせるところだった。
しかし安心したのも束の間。
「・・・おわっ!?なにして・・・」
腕を引っ張られ、そのまま抱きつかれる。容赦なく続くクラピカの攻撃。
今度は不器用ながらにレオリオのシャツをぎこちなく脱がせていく。
ボタンをひとつひとつ外す細い指。レオリオはその指に見とれていた。
レオリオの大きな体からワイシャツを引き剥がすのは大変なようで、
クラピカは彼の左肩だけを露出させた。
そして。
カプッ
小さな口を開けて、レオリオの肩に噛み付くというか、なんというか。
やっぱり完全に酔っている。
なにがしたいのかまったくわからなかったが、とりあえず。
めちゃくちゃかわいいことに変わりはない。オレはなんて・・・幸せ者なんだ・・・。
(・・・仔猫に噛み付かれちまったぜ)
積極的なのはもちろん嬉しいのだが、やっぱり違和感がある。
――やっぱり、こういうのはクラピカらしくない。
そう思い、レオリオは気を取り直す。
「クラピカ、そろそろ顔洗って寝る・・・」
振り向きざまのその言葉、最後まで言えなかった。
レオリオとじゃれあったせいで、大きく開いた胸元と、露になった白い太腿。
あまりに刺激的な格好。
「一緒に寝るのか?」
クラピカはにっこりと笑う。
「――・・・ハイ」
アルコール
万歳。
・・・
ふと気付くとレオリオは、大きなダブルベッドにクラピカを組み敷いていた。
オ、オレはいつのまに。
はっと我に帰る。
腕の中のクラピカは、抵抗する様子もなくおとなしくしている。
しかし次第に、子供のようにぐずりだした。
「ん〜・・・レオリオぉ」
「なんだ、どうした?(ああああ、ちくしょう、かわいいww)」
「・・・あつい・・」
クラピカはそう呟く。
少し汗ばんだ、高価な陶磁器のような白い肌。
熱い吐息。
ああ、やっぱり
クラピカは、世界一のイイ女だ。
いつも思っていることだが、改めて実感する。
男の脳髄まで溶かしてしまいそうな甘い甘い色気。
メロメロなのは、オレの方だぜまったく・・・
「あんなに飲めばあついのは当たり前だって」
「・・・だから」
「だから?」
「脱がせて・・・」
「なっ」
ついに、クラピカの口から行為開始を助長するような言葉まで出てくるとは・・・
なにもしないレオリオを怪訝そうに見つめて、クラピカはこう続ける。
「いつもなら、頼まなくても脱がすじゃないか」
確かに
その通りだが。
的を付いたクラピカの言葉に、レオリオは何も言えない。
「昨日みたいに・・・優しく抱いてくれないのか・・・?」
その一言に、ついに理性がもたなくなった。
別になにを躊躇することもないのだが、
やはり酔っているクラピカ相手にいつものように行為に及ぶのは、なんだか気が引ける。
「・・・っ、だあ〜〜っだめだ!やめろ!このままじゃほんとに襲って・・・」
レオリオは頭を抱えながら飛び起きた。
「いいのだよ」
「へ?」
クラピカも少し間をおいて体を起こし、レオリオの腕に触れながらそう呟いた。
そして突然涙ぐみながら、こう続けた。
「私はいつもおまえとこうしていたいのに・・・
でもそんな恥かしいこと、自分から言えないだけで、
ほんとうは、いつも・・・
レオリオと・・・したいのだよ」
「・・・クラピカ」
いくら酔っていても
きっとこれはクラピカの本心。
ふだん言葉で聞くことはなくてもその本心を察していたレオリオに不満はなかった。
しかしやっぱりこうしてクラピカの口から直接その言葉を聞くと
嬉しく、同時に感動さえおぼえた。
「・・・レオ――ん・・・っ」
まだなにか言いたげなクラピカの口をキスで塞ぐ。
「・・・好きだぜ、クラピカ」
それだけ言えば、もう充分だった。
クラピカは嬉しそうに笑って、今度は自分から口付けた。
そうして二人の長い夜が始まっていく。
枕もとの時計の針は12時を指していた。
・・・
そして2時間後の午前2時。
「・・・クラピカ、頼む、もう勘弁してくれ」
「なに言ってる。今日は寝かさないと言ったのはレオリオじゃないか」
「だっておまえ、4回も・・・・ほら、時計見ろ、もう2時だぞ」
「まだ2時じゃないか。私はまだ体があつい」
「・・・オレの精子がなくなっちまう」
「多分大丈夫だ。さあ!」
そうして時間は過ぎていく。
枕もとのめざまし時計。
針が朝6時を示すまで、レオリオは寝かせてもらえなかった。
2008/07/26
ただ酔っ払いクラピカを書きたかっただけです。か、かわいいんだろうなあ(;´Д`)ハァハァ
BACK