何度目だろう。
こうやって口喧嘩をするのは。




喧嘩




「おまえさぁ・・・もうちっと素直になれねぇのかよ?」
レオリオはイラついたように頭を掻き毟る。
「そんなの私の勝手だ」

思えば、初対面で乱闘沙汰になった。
それでも彼は、素直に謝ってきてくれたけど――
私たちの出会いは最悪といってもいいだろう。
まだ出会って一週間も経っていないというのに、 この他愛の無い口喧嘩は、二人にとってもはや日常茶飯事。

「勝手にしろ!」
「おまえこそ!」

私はレオリオを睨みつけて、足早にその場を立ち去った。
最終試験目前の、飛行船の中でのことだった。

・・・

「あーあ、なんかおもしれーことないかな〜」
「もう飛行船探検も飽きちゃったしね・・・あ!クラピカだ!」
廊下を並んで歩いていた俺たちは、窓に寄りかかって外を見ているクラピカを見つけた。
ゴンは顔をぱっと明るくして、俺を置いてクラピカのもとへ走っていった。

「どうしたの?こんなところで。――・・・・あれ?レオリオは?」
ゴンがレオリオの名前を口にした途端、クラピカは一瞬肩をすくませた。

やっぱ分かりやすいなぁこの人・・・レオリオのことに関しては。

「知るかあんな奴」
うつむいていた顔が、更に下を向いて影を作る。

「ケンカしたんだろ?」

俺がぶっきらぼうにそう呟くと、クラピカは少し驚いたように俺を見る。

「そんなの見てて分かるよ。
・・・なんかまどろっこしいんだよね、アンタたち。見ててホント腹たってくるよ。
おっさんってさ、いつもクラピカのことばっか見てんじゃん。
もしかして気付かなかったの?アンタも相当鈍いよね。
でもま、ケンカするほど仲がいいっていうし・・・」

ゴンは「え?そうなの?」という素っ頓狂な顔をしている。
もう一度クラピカを真っ直ぐに見据えて、

「謝ってくれば?」

”どっちが悪いとかナシね。そんなんじゃいつまでたってもキリないだろ?”
その言葉を言う前に、クラピカは「ありがとう」と小さく言って、足早に立ち去ってしまった。


「全く世話が焼けるねぇ・・・」
「?キルア、なんなの?」
「よし、ゴン!今から面白いもん見れるぜ♪」
「なになに?」

――あの二人に決まってんだろ?

・・・

本当に――
心からレオリオが嫌いな訳ではない。
むしろ、彼に嫌われたくない自分がいる。

いったい何故だろう?
仲間だから?
それとも――





飛行船のカフェに彼はいた。
姿を見た途端、足が止まってしまって、無意識に拳を握り締める。

そして、顔を上げて再び歩きだす。

「レオ――・・・」

止まるしかなかった。
彼の隣には見たことも無い女性。きっと――この飛行船のスタッフ。

二人は楽しげに笑いあっている。

”おっさんってさ、いつもクラピカのことばっか見てんじゃん。”

キルアの言っていたことは、本当なのだろうか・・・?
今の状況を見れば、そんな風には到底思えない。


迷った。
声をかけるか否か――。

私は謝りに来ただけだ。誰がいようと関係あるまい。

こんなつまらないことで、ミゾをつくるのは嫌だから
だからこうしてここにいるのだ。


ぐだぐだ考えているうちに、足が椅子に当たってしまい、
音に反応したレオリオが、私に気付いてしまった。
不覚――・・・・。

一瞬、目が合う。
私は一目散にその場から逃げ去った。

何で私は逃げているんだろう?


「待てって、クラピカ!」

後ろからレオリオが追ってくるのが分かった。
だがすぐに腕を強く掴まれ、逃げることはもう出来ない。

”・・・なんで逃げんだよ”
それがレオリオの第一声に違いない。そして私はまた憎まれ口を叩くのだろうか。
振り出しに戻るようなマネだけはしたくない。





「・・・ゴメン」

背後から聞こえた確かな声。掴んだ腕をまだ離してはくれない。
「その・・・俺が悪かった」
私がゆっくり振り返ると、そこには、バツが悪そうに笑っている、いつもの顔。

そして、自然に流れ出た言葉――
「私も・・・悪かった」
張り詰めていた緊張も解けて、不器用な笑みがこぼれる。


私たちはお互いを見て、小さく笑った――。




「・・・ねえキルア、あの二人、ほんとにケンカなんてしてたのかな?」
「さぁね〜♪」






きにこさまからの4000hitリクで「ケンカをするレオクラ」です。
ハンター試験中かキルア奪還までのお話、ということでした。リクエストありがとうございました!
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