めまぐるしく過ぎる毎日。
どんどん成長していく君をこの目で見ることが出来て、こう思う。
――心底愛している。

オレは思う。
「家族」という第1の社会。
なんてすばらしいんだろう。


愛すべき妻と息子。
さあ今日はクリスマス。3人で祝おう。




ひざまくら





息子のリンが初めて発した言葉は「パパ」だった。

「ぱぁぱ」
「うん、パパだよvv」
「ぱぱーぁ」
「そうそうvパパだよvv」

父親であるレオリオはそれはもう嬉しくて嬉しくて、リンが疲れて寝てしまうまで、何度も言わせていた。
クラピカはそんなレオリオの舞い上がりように呆れながらも笑顔で見守っていた。

レオリオがこんなに子煩悩になるなんて思わなかった。
最近自分に構ってくれなくてさみしい、なんて言わない。
かっこ悪すぎる。そう思った。



「ああぁ〜〜〜っっ!!」
ある日の朝、朝食を作っているとリビングからレオリオの叫び声が聞こえた。
クラピカはびっくりしてリビングにダッシュする。
そこで見たものは。

「ど、どうしたレオリオ!?」
「リンが・・・・っっ」

よく見ると、レオリオと遊んでいたはずのリンの姿が見当たらない。
「リンがどうした?!答えろ!」
「立った・・・・・!!!!」


レオリオが震えながら指差す方に目をやると、ソファの裏側にリンがいた。
そしてレオリオの言うとおり、立ち上がっていた。

「・・・・・」
「立った!立ったぞ!?なあ見たか!?」
「・・・レオリオ・・・私の寿命が縮むから・・・大声を出さないでくれ・・・」




・・・




この前喋れるようになったと思ったら
今度はちょこまかと動き回るようになった。
追いかけているうちに、どの服も小さくなっていった。


「ママー、パパは?」
「パパはお仕事なのだよ。もうすぐ帰ってくるよ」

レオリオが帰ってくる時間になるといつも玄関先に座り込んで待っている。
それがリンの日課。
ひとりじゃさみしいから、たくさんのおもちゃを持参して。

もう眠いだろう?とクラピカが声をかけてもリンはそこを動かなかった。
しかし実際に玄関先でレオリオを出迎えられるのは週に1回程度。
いつも帰ってくる前にくたっと眠ってしまう。


そして今日は。
「ただいまー」
夢中になって本を読んでいたら、あっという間に時間が過ぎていた。
ぼくは本を読むのが好きなのかもしれない。

「パパ!」
レオリオがドアを開けると同時に冷たい風と冷気が吹き込んでくる。
「あー寒かった。ただいまリンー。いい子にしてたか?」
靴を脱ぐよりもバッグを置くよりも先に
駆け寄ってきたリンを抱き上げて、頬にキスをする。
こうしていつも優しいパパが大好きなのだ。

「ママは?」
「おりょうりしてる」

リンを連れてキッチンへ。
「ただいまクラピカー」
「おかえり」

エプロン姿がサマになってきたなあ。
レオリオはつくづく思う。

きっといくつになっても、リンの前でも、「ただいまとおかえりのキス」は続くのではないだろうか。
それを続けられるって、案外すごいことではないだろうか。



「パパー」
「ん?」
「くりすますだよ」
「えっ?」
「よーちえんでくりすますやるんだよ」

クリスマス。
すっかり忘れていた。

「そうか・・・もう12月か」
クラピカもまな板を洗いながらそう呟く。
「くりすますにはねー、さんたさんがくるんだよ」



・・・



「レオリオ、本気か」
「ああ、オレはやるぜ」
「しかし・・・どっちに似たんだか、リンもああ見えて勘が鋭いからな。ばれたらどうする。子供の夢を奪う気か」
「大丈夫だって。眠ってるとこ起こすんだから、寝ぼけてわかんねぇよ」


という訳でクリスマス当日。
リンは当たり前のようにサンタさんを信じている。
この日までリンは、レオリオにサンタさんからもらいたいものを嬉しそうに語っていた。

「コレと・・・コレ。ラッピングOK。準備よし。リンは寝たよな?」
「ああ、ぐっすり」
「どうだ、サンタさんっぽいか」
「・・・ちょっと背が高すぎるが」

この日の為のサンタコスプレ。
眠っているリンを起こして、サンタさんがプレゼントをあげるという寸法である。
問題はばれるかばれないか。
しかし先ほどのレオリオの言うとおり、寝ぼけている子供に区別はつかないだろう。
プレゼントをあげたら、すぐに立ち去ればよい。
そう、オトナは思っていた。



深夜1時。
レオリオはそろりそろりと寝ているリンに近づく。
クラピカは後ろから落ち着かない様子で見守っている。

さすがに声を出してしまったらわかるだろう。
という訳で一切喋らないことにした。

――まったく、いつ見てもかわいい寝顔だ。
気持ち良さそうに眠っているリンの肩をトントンと叩く。

「・・・ん」
リンは目をこすりながら、サンタの姿を視界に入れた。
「・・・・」
レオリオはヒゲと帽子の間から垣間見える瞳を細めてにっこり笑う。
そして肩にしょっていたプレゼントを差し出そうとした、そのとき。

「――なにしてるの?パパ」
「「・・・え?」」


予想外のリンの言葉にレオリオも、後ろにいたクラピカも硬直する。
「ななな、なにを言ってるのだよ。パパは・・・」
あわててクラピカが二人の間に割り込む。
すると。
「だってパパより背が高い人なんていないもん。ぼくが絵本で見たサンタさんはもっと太っててこんなに背が高くないよ」

リンはすっかり目が醒めたようで、はきはきとこう言った。
すると目の前のサンタはリンの肩に手を置いて、
「それは違うぞリン。世の中にはなあ、パパよりも大きい、2メートル超えの人もいるんだぞ」

「!お、おいレオリオ・・・」

はっ

しゃべっちゃった!!


「やっぱりパパだ!」

”いつものパパの声”を聞き、リンは確信を持ってサンタに抱きついた。

レオリオは苦笑したまま
クラピカはやれやれ、とあきれたように溜息をついた。




「まったく、だから言ったのだよ。こんなに背が高いサンタなどいるわけない」
「な、なんだよ、おまえだって最後はノリノリだったじゃねーか」
「私はノリノリになった覚えは無い」


あのあとどうにかリンを寝かしつけて、落ち着いた早朝5時。
両親は薄暗いリビングに向かい合って座り、反省会をしていた。


「それはそうとクラピカ」
「なんだ?」

バツが悪そうに肩をすくめていたレオリオがすくっと立ち上がり、足元の袋に手を伸ばす。
「これはなんでしょう?」

レオリオが袋から取り出した、ラッピングされた四角い小さな箱。
「いつもそばにいてくれる女神に、サンタさんからプレゼント」
「・・・レオリオ」

いつもいつもそうなのだ。
こうして驚かせて、そして喜ばせてくれる。
まさか用意してくれているなんて思わなかった。
リンのことで手一杯で
これから先
クリスマスプレゼントなんて一生もらわないと思っていた。
少女の頃だけだと
思っていた。


「・・・でも私はなにも・・・」
「知ってる。じゃあ、今日1日クラピカの膝の上を独占したい。
リンはオレが抱いてるからさ」

ひざまくらだけでもいい。たまには君を独占したい。

2008/12/25 Merry Christmas!

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