結婚して
1年。

家に帰れば相手がいてくれる。
そんな生活が当たり前になってきた。




一人ぼっち




「1ヶ月も・・・か?」
「ああ・・・ちょっと遠いからな」

レオリオと結婚してから
以前のような仕事は控えている。
肉体と精神を酷使するような仕事は。


家事をこなして、レオリオを迎えるのが私の仕事になっていた。
幸せだった。


そんな時だった。
レオリオが仕事で1ヶ月帰らないという。
突然だった。


「そうか・・・気をつけるのだよ」
「おまえもな。ちゃんと電話するからさ」

あっという間に当日になってしまった。
いつものように玄関までレオリオを見送る。
いつもと違うのは
レオリオが今日は帰ってこないということ。

「じゃあ・・・行ってくるわ」
今日は着こなしているスーツ姿がやけに眩しかった。
いつもより大きなスーツケース。なんだか気が重くなる。

でもわがままを言うわけにはいかない。
いくらさみしくても
我慢しなくてはならない。
そんなことわかっている。
けど
だけど・・・

「おいおい、なんつー顔してんだよ」
私はすぐ顔に出てしまう。
レオリオの前でだけ。
他人に対してはいつもポーカーフェイス。
レオリオにだけは嘘をつけない。

・・・私の悪い癖。


「いい子でお留守番してろよ」
いつもどおりの
行ってきますのキス。

いつもどおりだった。
このキスの余韻を
ずっと残せたらいいのに・・・――






・・・・・





レオリオのいない1ヶ月は恐ろしく長かった。
さみしすぎて
気が狂いそうだった。

一人は慣れていた。
レオリオと出逢う前はずっと一人だった。
しかし出逢ってしまった。温もりが忘れられなくなった。
だからこんなに寂しい。

電話も私からは決してかけなかった。
・・・迷惑をかけたくなかったから。

何より声を聞くと
どうしても会いたくなってしまうから。




「もしもし、クラピカ?・・・うん、大丈夫。やっと明日帰れるよ。
うん・・・うん。わかった。おやすみ」

久しぶりに聞くレオリオの声は
いつもと変わらなかった。
なんだか悔しかった。
寂しいのは
私だけなのだろうか。



・・・・・



待ちわびていたこの日がやってきた。
付き合っていた頃は、会えないなんて当たり前だった。
会えるほうが貴重だった。
でも結婚してから1年間毎日一緒にいて
安心しきってしまっていたから
この1ヶ月は
今までで一番長かった。

もうすぐ着く、というレオリオの電話があった。
次第に胸が高鳴る。
なんだか
緊張してきてしまう。

そして部屋中に響くチャイムの音。
必死に平静を装ってドアを開ける。

飛び込んできた甘い香り。
大好きな香り。
それだけで涙が出そうだった。

1ヶ月ぶりに見るレオリオは
ちっとも変わっていなかった。

「おかえりレオリオ」
しかしそんな素振りは見せなかった。見せたくなかった。
努めて冷静に。そんな態度を続けた。

大きな荷物を受け取って
レオリオをいつもどおりに出迎えた。


「ほら、早く着替えなくては」
私はレオリオを寝室へ誘導した。
いつもしているように。

薄暗い寝室のクローゼットを開けながら、それとなく会話をしようとする。

「1ヶ月はやっぱり長かったな。それで、どうだった?どんな・・・・――」

それまでレオリオは一言も喋らなかった。
後ろからいきなり抱きしめられて
溢れていた思いが一気にあふれ出す。


「なんだよ・・・そんな平気そうな顔して・・・オレなんか、毎日さみしくて死にそうだったのによ・・・」
耳元でこう囁かれた。
体中に電流が流れたような刺激を感じた。

私の体はすっぽりレオリオに抱きすくめられてしまった。
片時も忘れた事はなかった。
抱きしめられたときのレオリオの香り。
温かさ。愛しさ。

この1ヶ月、忘れはしなかったがどうしても実感できなかった。
それがたまらなく私を寂しくさせた。

でも

こうして抱きしめてくれている。

それだけで胸がいっぱいで
もうなにも
言えなかった。


「・・・ただいま、クラピカ」
大好きな声が全身に響く。
同時に更に強く抱きしめられた。

「レオリオ、おかえり」
もうこれしか
言えなかった。



「・・・オレ、よく1ヶ月も耐えたよな」
レオリオは苦笑交じりにこう言った。

「おまえだけじゃない。・・・私もだ」

自然と視線が絡み合う。
切なそうなレオリオの瞳に、私は引き込まれていった。


先に口付けたのはレオリオだった。
私も答えるようにレオリオの背中に腕を回す。

全てを溶かしてしまいそうな、
甘い甘いキスだった。


それだけでどうにかなってしまいそうな
そんなキス。


壁際に追い詰められて
手をとられて
もう逃げられない。


このままめちゃくちゃに抱いて欲しいと言ったら
レオリオはどんな顔をするだろう。

熱い口付けは次第に首筋へと移っていった。
私はそれを期待していた。
でも口から出るのは矛盾した言葉。

「・・・レオリオ、ちょっと・・・まだ・・・」
「何で?・・・今すぐ抱かせてくれよ・・・
1か月分、時間かけて・・・愛してやるから・・・」

懇願するようなレオリオの瞳。
心臓が破裂するんじゃないかというくらいに
ドキドキする。


「・・・じゃあ、・・・ベッドに運んで」

溢れそうな思い。
彼はきっと残さず汲み取ってくれる。



2008/09/19
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