コレは僕の――ご主人さまのお話。






恋猫





僕のご主人様は現役医大生。ちなみに男で、独身。
医大生・・・っていうと、聞こえはいいけど、お金だってそんなにないみたいだし、
僕のキャットッフード買うのだって大変そう。

それに、眉目秀麗の王子様・・・って訳でもないんだよね。
有楽町あたりでふらついてそうな人だけど、本当はすごく優しいんだ。
それは、拾われた僕が一番よく知ってる。

そうそう、僕の紹介がまだだったよね。
実はこの名前、あんまり教えたくないんだけど・・・

「タマー、ご飯だぞー」
・・・ほらね。こんな定番な名前。
この人にはセンスっていうもんが無いんだよね。困っちゃうよ。

でも、本当に・・・
ご主人様には感謝してるよ。
猫って、犬みたいにそんなに忠誠心があるわけでもないらしいから、
ご主人様って呼ぶのもなんか変なんだけど・・・
(彼には「ニャー」としか聞こえないんだけど)
”レオリオ”って呼んでいいのは――


「レオリオのバカ!!もう帰る!」


”クラピカ”だけだと思うんだよね。
猫なりに。

”クラピカ”は、ご主人様の優しさを知ってる人。ちょっと悔しい。
だって、ご主人様を独占できないでしょ?
僕の前でいちゃつかれると・・・ちょっと腹立つ。

もしかしたら、僕よりもご主人様のことを知っているのかもしれない。
僕の方がご主人様といる時間はずーっと長いのに。



「・・・ちょっと待てよクラピカ!」

あーあ、またクラピカを怒らせた。今月、何回目?
・・・と言っても、クラピカがうちに来たのは、今月三回だけ。
明後日には、もう月がかわる。

忙しくって・・・毎日会えないんだって。
僕に、クラピカのことを話すとき、ご主人様はとても嬉しそうな顔をするんだけど、
時々すごく寂しそう。

僕はそんなご主人様が可哀想で、いつもより甘えてあげるんだ。
唯一救いなのは、ご主人様が眠るときに、
「クラピカ〜」なんて言いながら僕をベッドまで引きずりこまないこと。

前にそれをされたことがあるけど・・・
誰かの変わりに抱きしめられるのは耐えられないよ。
猫なりに。

だから、僕の変わりに”クラピカ”がご主人様と一緒に寝てくれないと・・・
いろいろ困るんだよね。それにあのベッド猫にとっては寝心地よくないし。

それに、もしかしたらご主人様、寂しさのあまり死んじゃうかもしれないだろう?
そんなことになったら本当に大変だから、早くクラピカがご主人様と一緒に、
ここに住んでくれたらいいのにな・・・。






あ、ご主人様が帰ってきた!
今日は日曜日だけど、朝からご主人様はどこかへ出かけていたから、
僕はおなかペコペコだよ。
いつもどおりに、玄関先で「ニャー」とお出迎え。
”ただいま”って言ってるつもり。
きっとご主人様はわかってくれてると思うけどね。

・・・あれ?どうしたのそんなに慌てて。
何より・・・すごく嬉しそう。
不気味なほどにやけちゃって・・・。

あ、それより早くゴハン・・・


って、うわっ苦しいよご主人様っっ
気付いたら、僕はご主人様の腕の中。
「ニャー?」
どうしたの?と・・・猫ながらに必死に聞いてみるけど
・・・やっぱ通じないかな。

「レオリオ、そんなに強く抱きしめたら、タマが窒息してしまうぞ?」

ご主人様の後ろから聞こえたのは、”クラピカ”の声。

ああ、そっか、彼女が来たからそんなに嬉しそうなんだ?
でも・・・僕を窒息させないでほしいな。

「タマも今日から、大事な私の家族なのだからな」
クラピカは嬉しそうに笑って、僕を抱き上げた。


どうやら、ご主人様が寂しくて死んじゃうことは、なくなったみたいです。

――だって、これからはクラピカがずっと一緒にいてくれるんだって。
ご主人様が言ってたよ。


やるじゃんご主人様。
家族がひとり、増えました。



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