どうしても今の気持ちを伝えたかったから。





手紙






手紙なんて、ここ数年書いてなくて。

レオリオはうーんと唸りながら、
さっきから全く筆が進まない自分に苛立ちを覚える。
今や、手紙はメールが当たり前の時代。

実際レオリオも――クラピカも、
お互いのやり取りはメールがほとんどだった。
電話だと――
どうしても会いたくなってしまうから。



(今何してんのかな・・・・)
机の上の写真の中の愛しい笑顔を見つめながら、
レオリオは小さく溜息をついた。

ちゃんと、食べているのだろうか。
ちゃんと、こんな風に笑えているのだろうか?

想えば想うほど――


(逢いてぇな・・・・・)








「手紙でも書いてみれば?」
きっかけは、友人の些細な一言だった。
「メールばっかりなんだろ?たまには古風に愛の言葉を――どうよ?」

そして、今に至る。
いざ書こうと思っても、書きたいことがありすぎて――うまくまとまらない。
レオリオ自身、こういうまどろっこしい方法は、あまり好まないのだが。

「あーもう!」
レオリオは短い髪をくしゃくしゃにかいて、紙の上の右手を滑らせる。

滅多に自宅――といっても賃貸マンションだが――
に帰らないというクラピカが、これを読んでくれるかは分からない。
もしかしたら、郵便屋の不慮の事故で、
この手紙は一生お蔵入りになってしまうことだってある。

翌日レオリオは、一通の手紙をポストに入れて、
祈るように両手を合わせた。



・・・・・



帰ったのは午後7時。
この部屋に戻るのは3日ぶり。
(・・・・疲れた・・・)
襲い掛かる睡魔と闘いながら、クラピカはポケットから部屋の鍵を探り当てる。

その動きは彼女らしくなく、実に億劫で。
部屋には誰もいない。もちろん「おかえり」なんて言ってくれる愛しい姿は無い。
クラピカは自嘲気味に笑って、鍵をドアノブに差し込む。
――ふと、部屋の前の郵便受けに目が留まった。

(手紙・・・?)
このご時世にめずらしい。おもむろに封筒を手にとって、差出人の名前を見る。


「――・・・・・!」
それは紛れも無く、彼の名前で
彼の字だった。

間違いない。
差し込んだはずの鍵が落ちたのにも気付かずに、クラピカは震える指で封を切る。
こうやって――手紙を出されるなんて、初めてだった。

(・・・レオリオ・・・)
心の中で彼の名前を呼び続けながら
深呼吸をして、中身を取り出す。
入っていたのは、一枚きりの綺麗に折り目がついた便箋。

等間隔の癖のある字で、たった一言。




今から抱きしめに行く




「・・・クラピカ」
背後から聞こえたのは、忘れるはずも無い、優しい声。
高鳴る鼓動を落ち着かせて、
泣きたくなるのを必死にこらえて――
振り返る。



彼の顔を確かめる前に、強く抱きしめられていた。
それこそ窒息してしまうんじゃないかと思うほどに
広い胸に頬を押し付けられて、細い金髪に顎を埋められる。

久しぶりの、あたたかい感触。
それだけで、涙が出てきた。

「レオリオ・・・」
いっぱいに広がる甘い香水の懐かしい香りに、クラピカはしきりに腕を回す。

「手紙、届いたか?」
「・・・ああ」

「ちゃんと、抱きしめにきたぜ」
「ああ・・・・」


ありがとう――

クラピカは涙声で呟いて、涙で濡れた手紙を強く握り締めた。



レオリオの行動力に感服。こういうことが平気でできちゃう男、レオリオ。
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