野生化


「――クラピカ」

ふと、我に帰る。
レオリオが私の顔をのぞきこんでいた。
ベッドの下に散乱した衣服。
くしゃくしゃになったシーツにくるまった裸のままの二人。

「なんだよ、ぼーっとして」
「いや・・・」

「そっかー、意識が飛ぶほどよかったかー。嬉しいなあ」
「!!」

レオリオはそういうと笑って私を抱き寄せた。
もちろん、抵抗する。

「なにをいう!!」
「違うの?」

「・・・・そっ、それは・・・違わないが・・・」
「やっぱりv」
「だ、だからそれはそれだ!考え事をしてたのだ」
「なに考えてたの」
「・・・」
「オレのこと?」
「そうだ」


即座にそう答えた私を見てレオリオは眼を丸くする。
「ちがう」といって赤くなる私を想像したのだろうが
つい素直に言ってしまった。

・・・不覚だ。
この後しつこく詮索されて先ほど考えていたことを言わざるを得ないだろう。

しかし。

「クラピカ」
「ん?」
「愛してるよ」

私の”考え事”の内容を聞くことは無く
かわりにレオリオの口から出たのはこの言葉だった。
そして再び抱きしめられる。


レオリオは私を興奮させるのがどうしてこんなに上手いのか。
彼といると脈拍数が上昇する一方である。


「・・・レオリオ」
「んー?」
「聞かないのか」
「なにを?」
「私が考えていたことを」
「いいや。それよりさクラピカ」

レオリオは続きを言わず私の首筋に顔を埋める。
シーツが擦れるかすかな音や
触れ合う肌の感触。
これらを感じたとき、私の思考能力はストップする。
そしてなにも考えられなくなる。
頭の中にあるのは得体の知れない抑えられない感情だけ。

このどうしようもない感情が
私の表情や態度に表れているなんて認めがたい。
考えたくも無い。
恥かしくて死にそうだ。
しかしレオリオは言う。
そういうかわいくて色気のあるおまえを見てると自制心がきかなくなる、と。

次第に視界が緋色に染まっていく。
目を閉じて、私に覆いかぶさっているレオリオの大きな体をぎゅっと抱きしめた。


抱きしめられる腕があること
ありがたいと思う。
ふと目があう。そして自然に口付ける。


レオリオと付き合い始めて
もう数年になる。
すなわちこういう行為をし始めて数年になる。
最初はなにがなんだかわからなくて、彼にされるがままだった。
しかしこうして何回も経験を重ねるとわかってくる。
幾通りもの愛情表現があること
それを伝え合うことを。

自分からキスをすればレオリオはとても喜んだ。
こうしてほしい、といえばレオリオは私を満たしてくれた。


「・・・ん」
レオリオとキスしていると徐々に力が抜けていく。
まるで口移しでそういう類の薬を飲まされているような、そんな感じである。

夢中になっていた。
そのとき。



ピリリリリー、ピリリリリー




テーブルの上においてあったケータイ電話が鳴り出した。
「・・・オレだ」
レオリオは名残惜しそうに唇を離した。
ふと気付く。――体が熱い。溶けそうだ。

「・・・電話か?」
「あー、この着メロはキルアだな」
「・・・レオリオ、出な――」

体を起こしかけたその瞬間、再び唇を塞がれた。
先ほどとは違う、強引な激しいキスだった。
嫌ではなかった。
むしろそのまま――めちゃくちゃにしてほしかった。

しかしケータイはずっと鳴り続けている。
「レオリオ、電話・・・っ」
「んー・・・?」

必死に呼びかけた。
だが逆効果だった。いや、確信犯かもしれない。
熱い口付けはやわらかな胸に移され、長い指は太ももを撫で回している。

いつもと同じように触れられているのに
なぜか今日はやたらと反応してしまう。
ただ電話が鳴っているだけなのに。
指先が触れただけで
蜜が溢れてくる。
それが彼を増長させることを
きっと私は知っていた。


ふと、着信音が止まった。
と同時に今度は部屋のチャイムがなった。


ピンポーン



「・・・げっ」
「だ、誰か来たぞ」
「なんなんだよ次から次へと・・・こっちはお取り込み中だぞ」
レオリオは息を弾ませながら体を起こした。
思わずドキッとしてしまう。


「おーーいレオリオー、オレだけどー」
外から聞こえてきたのはなんとキルアの声。
かすかにゴンの声まで聞こえてくる。

「なっ!?なんであいつらが・・・」
「会う予定だったのか?」
「いや、それどころか最近連絡もとってねぇよ」



「おっさーんいないのー?」


「・・・とりあえずレオリオ、服を着て・・・、
・・・?!なっ、ちょっと・・・」
「なに?」
「あっ・・・」
「なんだよ?」
「こんなときに・・・なにを考えている・・・!」
「さっきの続きだよ」
「状況を考えろ!」
「お互いもうバッチリだと思いますが」
「ふざけ・・・、ん・・・っ」
「体は正直だなー、・・・ほら」
「やっ、やめろバカ!・・・っ!!」



「おーいいるんだろー?開けてよーゴンもいるんだけどー」



「この・・・非常識者・・・!!」
「・・・どうしよっか」
「どうするもこうするもない!・・・はやく・・・抜け!」
「それはちょっと無理かも」
「この変態!」
「大声出すとバレるぜ?」
「・・・」
「いい子いい子」
「・・・・!!ちょっ、やだ、動くなっ・・・あぁっ!」




「レオリオー寝てんのー?おーい」




「・・・おまえがそんな・・・かわいい声だすから・・・」
「・・・〜っ!」





「・・・ねぇキルア?」
「あ?」
「さっきからさー・・・クラピカの声するんだけど」
「はあ?なんでだよ?」
「だからさ、レオリオの部屋にクラピカもいるんじゃない?」
「だったらなんで出ないんだよー電話にもさー」
「あと・・・ギシギシってなにかが軋む音が聞こえるんだよねーさっきから。
なんだろうね?ほら、よーく聞いてみてよ」
「んー、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?!!!!?」
「ね?するでしょ?」






ガチャ・・・っ




「あっレオリオー。もう、何回も呼んだんだよ」
「・・・わ、わりぃ・・・昼寝してて・・・」
「・・・大丈夫?息が荒いけど・・・汗もすごいよ」
「あ?ああ、風邪気味で・・・」
「じゃあなんでそんな格好してるの?パンツ一丁で」
「ちょっと・・・トレーニングをな、ほら、ハンターたるもの常に体を鍛えないと・・・」
「そっかーそうだよね、お医者さんだって大変だもんね。
あれ?でもさっきは寝てたって・・・」
「いっ!?あれだよ、最近流行ってるんだぜ寝ながらトレーニング」
「えっそうなの?!知らなかったー
ねぇキルア?」

「・・・ゴン」
「ん?どうしたのキルア」
「・・・それくらいにしてやれよ」
「え?なにを?」
「オレ・・・いますごいショック受けてるから・・・」
「あっそうだよね、レオリオ風邪気味なんだもんね、ごめんね」
「大人って・・・・・・、大人って・・・」
「え?なにどうしたのキルア大丈夫?」


「と、ところでおまえたち何の用だ?」
「そうそうあのねー、この間遊びに来たときにキルアがチョコロボくんの期間限定ボックスを忘れちゃったんだってー。まだある?」
「ああ、あるぜ」
「お菓子だもん、賞味期限とかはとりあえずだいじょぶだよね、じゃあお邪魔しまーす」

「ああああっちょっと待った!」
「えっ?」
「いや散らかってるし・・・」
「なにいってんのレオリオ、いつものことじゃーん」
「あっ」
「あれ?クラピカの靴だ。来てるの?」
「あっ・・・・ああ・・・」


「あれ?どこにいるの?」
「クラピカも仕事の疲れからか風邪気味で、オレのベッドで休んでる。
なっクラピカー。ほれ、ゴンが来たぞー。顔見せてやれ」

「・・・久しぶりだなゴン」
「クラピカー!久しぶり!・・・・・大丈夫?なんか・・・疲れてるみたい」
「あ、ああ大丈夫だ、ちょっと動きすぎた」
「もう無理ばっかりするんだから」


ゴンは久しぶりの友人たちとの再会に喜び
キルアは自分の知らない世界に遭遇し大きなショックを受け
帰っていった。


当然その後私はレオリオをボコボコにして距離を置いた。
しかしなぜか深夜になるとあのベッドで同じように愛し合っていた。



2009/01/30
レオリオの部屋は完全防音で音はぜったいに外には漏れないはずなのに
ゴンには丸聞こえでした。
そんなゴン=野生化
っていうお題でした。(むりやりすぎ・・・許してください。

BACK