(※HHRネタです)
だからよ、言ってるじゃん。
医大の受験に英語はねえよ。
一人遊び
今年20歳になるレオリオは医大受験に向けて勉強していた。
寝食も忘れて勉強していた。
国立医大にはそう簡単には受からない。
死に物狂いで勉強真っ最中だった。
築30年になるアパートの2階で一人暮らし。
自分を慕ってくれるカワイイ女の子たちとも遊べず自室にこもる日々。
「えー筋肉注射とは。筋肉内に薬液を注入することである」
カツ。
カツ。
ボロアパートの壁は薄く、話し声はもちろん誰かが階段を上ってくる音さえはっきり聞こえる。
ふと、ヒールの音が響く。隣の住人が帰ってきたのだろうと、レオリオはさほど気にせず続ける。
「他の経路からの注入では薬物の効果は少なく・・・安全性に問題があるときに行われる・・・うーん」
トン。トン。
・・・ん?ドアをノックする音。まあいいどうせセールスだろう。
集金は昨日来たし。
気にせず更に続ける。
「次に筋肉内麻酔とは、溶液製麻酔薬を筋肉内に注入する麻酔である」
トン。トントントントン。
ノックはどんどん激しくなる。
「筋肉組織はー、血液が豊富で血中への吸収はよく、
比較的速やかに麻酔を注入することができるので、静脈注射が困難な場合に適応される・・・と。」
トントンドンドンドドドドドドンドンドンドン!
もう耐えられない。
ふざけんじゃねえ!
「あーーーーーっ!!うるせえな一体誰だよ!!」
今まで部屋にこもりっぱなしのストレスを一気に吐き出すかのように、
大きい声で怒鳴り、勢いよくドアを開ける。
と・・・そこには。
想像していた細長いいかにも口達者そうなセールスマンではなく
かといって友人でもなく
金髪で淡い碧眼、細身でスーツを着込んだ美女だった。
20cm以上も上にあるレオリオの顔をじっと覗き込む。
すると突然彼女は口を開く。
「ハンター家庭教師協会から派遣されてきましたバイリンガルの――」
「ななななに?ギャル?」
「違う!バイリンガルだ」
「・・・バイリンガル」
「いかにも。家庭教師のクラピカだ。以後ヨロシク」
こんなに
こんなに美人でかわいいのに
なに言ってんだ。
「熱あんじゃねえのかあんた。悪いけど間に合ってるから帰って」
今は女より勉強
いつも言い聞かせている。
こんな美人、めったにお目にかかれないが。
冷たくあしらってドアを閉じかける。
しかし彼女は。
「ちょちょちょ、ちょっと待ちたまえ!雇ってくれてもいいじゃないかきっとあなたの役に立つ!」
やたらと必死な大きな瞳。
とりあえずこう聞いた。
「家庭教師ってなに教えてくれるんだよ」
やらしいコトを教えてくれる家庭教師なら大歓迎なのだが。
それこそ喜んで招き入れて、毎週のように通ってもらおう。
――って、おいおいしっかりしろ自分。
「よくぞ聞いてくれた。ずばり英語だ!」
「医大の受験に英語は関係ねえよ」
「よしそれではさっそく始めるぞ」
「人の話を聞けよ!」
「シャラップ!!」
「いてぇっ」
なんだかぴったり息が合っている。
初対面なのになんだか不思議である。
ふと思った。
玄関先でこんな騒いでいたらオレはこのアパートのやっかい者になってしまう。
「・・・わかった、とりあえず入って」
「わかればよし」
なんだかすごく憎たらしい話し方だが
嫌悪感はなかった。
「なんだここは・・・異次元空間にいるようだ」
「悪かったな・・・汚くて」
床には新聞、雑誌、そして辞書のカバー。
机の上には消しゴムのカス、折れた鉛筆、くしゃくしゃにしたノートの切れ端。
これが普通の男の部屋だろ?
なあ。
「で、君はどこがわからないのだ」
「・・・だから英語は医大の受験に・・・」
「やはり基礎からやり直した方がいいようだ。
そんな君にはこれがピッタリだ」
と、手渡されたのは中学生の英語の教科書。
-I like teniss.
-Really?Me too!
「ほら、これを訳してみろ」
「おいこら、バカにしてんのか。今時こんなレベル小学生でもわかるぞ」
「ふむ。かなり重症のようだ。アルファベットの順番からやり直したほうがよさそうだ」
「・・・」
「ところで腹がへった。なにかないのか?」
「草でも食ってろ」
「・・・」
「あいたたた!!」
細い指に頬をぎゅううう・・・っとつねられる。
「まったく君は口の聞き方も知らんのか。英語以前に人生をやり直すべきじゃないか」
オレは女に手をあげない。
あげたくない。
そんな小さい男にはなりたくない。
だがしかし悲しいくらい短気なのだ。
なんだ
なんなんだこの女は。
いきなり現れて勉強の邪魔をして
挙句の果てにオレの生き方にまでケチをつける。
プチン。
もう限界である。
「だぁ――っっ!!てめぇいい加減に・・・」
襟元を掴んで勢いよく詰め寄る。
しかしこの女、軽すぎる。バランスを崩して彼女に倒れこむ。
それと同時に、玄関のドアがバタン、と開く。
「レオリオさーん、管理人のミトですぅー。煮物作りすぎちゃったんだけど、よかったら・・・」
このアパートの管理人であるミトさん(30歳・独身)にはよくお世話になっている。
こうしていつも「作りすぎちゃったの」と言っておかずを持ってきてくれる。
10歳も年上だがなかなかの美人だし人なつっこいし、なによりオレを好いてくれている。
自分を好いてくれる女は大切にすることにしている。
そんなミトさんに
この光景を見られた。
きっと彼女には
見知らぬ女をオレが無理矢理押し倒しているようにしか見えないのだろう。
事実そうだった。
「・・・」
「あ・・・っあの・・・ミトさん、その・・・」
「きゃああああああ――!!!不潔っ!!!」
彼女はヒステリックな声で叫び、開けたばかりのドアを壊れんばかりの勢いでバタンと閉める。
ばたばたと自室へ戻っていく彼女の足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「鍵くらいかけておけ」
お・・・っおまえが来たからだろうが!!
もう
ツッコむ気もおきない。
「頼むから・・・もう帰ってくれよ・・・」
体を起こし、彼女から離れる。
情けない顔で懇願するしかなかった。
このままじゃ勉強どころか生活環境まで壊される。
「OK。それでは5分の授業料とテキスト代で2万5千ジェニーいただきます」
クラピカは乱れた襟元をピシッと直しながら体を起こし、こう言った。
「2万5000ジェニー?アホかおまえそりゃ詐欺だ」
5分で2万超えなど有り得ない。
ふざけるのもいい加減にしてほしい。
すると彼女は突然顔を覆い、先ほどとはまるで違った態度でオレに擦り寄る。
「お願い、払ってください!うちにかえると3人の子供がおなかをすかせて・・・」
「あ、あんたいくつだよ一体!」
「払ってください」
「・・・わかった、わかったよもう・・・
ったく、値切る気も起きねえよ・・・。
ほら」
テーブルの上の財布を取り、中から札を取り出す。
「ありがとうございます」
クラピカはそそくさと金をしまい、立ち上がった。
「それではまた来週」
「もう来んな!!」
なんだかんだで2時間のロス。
「・・・・はあ・・・」
オレの幸先明るくない。
一週間後・・・
ピンポーン
「・・・誰だ?」
あれから一週間がたっていた。
もう二度とあの女には会わないだろうと思っていた。
その矢先。
ガチャ・・・
「・・・うそ」
あのときと同じ
黒いスーツを着て
20cmも下から
大きな瞳で見つめてくる。
彼女がいた。
「どうも。今週もヨロシク」
「・・・はは」
もう
笑うしかない。
「君の英語のセンスが皆無だということは先週わかった。
多分これ以上やっても無駄だろう。ということで今週は物理の授業だ。
あ、勘違いしないでくれたまえ、私の専門は英語だけではない。
全教科に精通しているエリート家庭教師だからな」
たのむ、聞いてくれ。
オレは医大受験をするんだよ。
一人遊びはいい加減にしてくれ。
しかしオレはまだ知らない。
彼女とのつきあいが、これからも続いていくことを。
2008/10/16
元ネタはHUNTER×HUNTER Revengeに収録されている「ユッキーノ・クラピカーナの試験に出ない英語講座」。
あれはもう十分にレオクラの域に入っています。そこからこんな妄想をしちゃったわけです。
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