めちゃくちゃ意識してた。
だってコイツ、めちゃくちゃかわいいから。




片思い





サラサラの細い金髪。すっげーやわらかそう。
抱きしめたらポキっと折れそうな、華奢で細い体。
この体で、よくここまでの試験を耐えてこれたもんだと、感心する。

ガラス細工みたいな綺麗な顔。思わず見とれちまうくらい、綺麗だ。
桜色の小さな唇。キスしてみたい。

あんまり笑ってくれない、固い表情。ガンコな性格。
真っ直ぐな瞳。

笑ったらかわいいんだろうなぁ。




「・・・すまない、レオリオ」
あやまられるのは、コレで2回目。
今まで見せたことのない表情で、クラピカはレオリオを見上げた。


「非礼を詫びよう。すまなかった、レオリオさん」


そんな言葉は、当の昔に聞いた気がする。
実際はほんの2,3日前なのに。


「いいって。たいしたことねーから」
そんなにかしこまって謝られては、逆にこっちが申し訳なくなる。

この4次試験・・・思ったよりも

「うまくいかねーなぁ・・」


・・・・・


他の受験生にプレートを狙われた。
それが試験なのだから、当たり前なのだけれど。

クラピカは後ろの敵に気付けなかった。
何故か、なんて愚問。
理由なんて、ひとつしかない。

前を歩く彼の大きな背中に意識がいっていたから。


とっさにレオリオがかばってくれて、プレートも無事だったのだけれど

「レオリオ、血が・・・」
「・・・あ」


右腕を、約3cm。
鋭いナイフで切られた傷からは、なかなか血が止まらなかった。
早く止血しないと、とあせるクラピカを落ち着けるほうが大変だった。

「大丈夫だっての。なめときゃ治るよ」
正直痛かったけど。
ここは笑うしかない。

そんなレオリオの気持ちとは裏腹に・・・
「ば・・・・っ馬鹿者!!あのナイフに毒でも塗られていたらどうするんだ!」

その可能性だって、0%とは言い切れないのだから・・・
と、クラピカは言う。

半分怒ったような
でも少し不安げな
そんなクラピカの表情。

――初めて見た。



「・・・傷を見せろ」
言われるままに、右腕を差し出す。
いくら大丈夫だっていっても、コイツはきっと「そうか」なんて言って
引き下がってはくれないから。


腕に触れるクラピカの手はずっと小さくて、温かくて。
――そしてそのまま、傷口をクラピカの口元に引き寄せられて、唇を強く押し付けられた。


瞬間、目を疑った。
これはもちろん当たりまえの応急処置。
そんなの医者志望であるレオリオが一番よく知っている。

しかし、どうせコイツのことだから、入っているかどうかも分からない毒をあぶりだすとか、
そういう原始的な荒療治をするのだろうとばかり思っていた。
そんな彼の予想とは180度ズレて。


血でにじんだ肌を這う柔らかい唇と舌先の感触に、思わず背筋が震えた。
「大丈夫か?・・・痛むのか?」
そんなレオリオの仕草に、クラピカは不安そうに顔をあげる。
「・・・いや、平気」

クラピカの唇は本当に柔らかくて。
その感触だけで傷口が塞がりそうな錯覚に陥る。


事実、遠くから見ていても思わず触れたくなるような唇だった。
そんなことを考えている自分を、レオリオは何回も戒めたのだけれど。


強く吸われて、血を吐き出す。
その繰り返し。
血が止まらないでほしいと心の底から思った。
なんて、つくづく馬鹿な話だけど。


「・・・もう大丈夫だろう。血は止まった」
冗談じゃねぇ。止まってねぇよ。


クラピカの唇が腕から離れる。
急に涼しくなった傷周り。
それだけコイツがあったかかったってこと。









「・・・これでよし」
クラピカは――不器用だった。
レオリオの腕に一生懸命巻いた包帯も
・・・少し動かしたら取れそうで。


「ありがとな」
それでもきちんと礼を言う。
あたりまえのこと。


「・・・べつに、いいのだよ」
少し顔を赤くして、ふてくされたようにそっぽを向く。

照れてる・・・のか?


「・・・レオリオ」
「・・・なんだ?」

コイツの方から話しかけられるのは
何故だか緊張する。

「・・・その・・・、ありがとう」
「え?」

だから、お礼を言うのはこっちのほうだろう。
自分は何もしていないのだから。


「・・・助けてくれて」


素直じゃなくて。
意地っ張りで。

オレの知るクラピカはそんなマイナスなイメージしかなくて。
・・・こんなに素直なんじゃねぇか。
・・・・・・・可愛いじゃねぇか。



それだけのことでも
嬉しくて
嬉しくて。


「それにしてもさ、おまえ、不器用なんだな」
調子に乗ってしまう悪い癖。
どうにかしたい。
・・・もう遅いけれど。


「・・・っ!不満なら自分でやれ!」
今さっきとは180度変化した表情。

ヤバイ、怒らせちまった・・・・。

「なぁ、ゴメン。ゴメンな?」
体ごとそっぽを向かれて
でも手を合わせて謝って。


こんな怒った顔も
愛らしく見えてきた。


最初は腕を組んで顔を膨らませていたクラピカも
「・・・もういい。そんなに謝られては私が困るのだよ」


口に手を当てて
小さく笑った。


それが
すっげぇ、可愛くて。


ずっと見ていたい――
そんな思いが頭を駆け巡った。


”もう行こう”と踵を翻すクラピカを追う気も起きなくて

「・・・どうした?早く行くぞ」
不思議そうにこちらを振り返るクラピカの細い腕をあわててつかんで

「・・・クラピカ!オレ・・・」




この片思いが実るまで、あと2秒。




だんだん君に惹かれてく。恋してく。
くるくると変わる表情を、ひとつひとつ知るたびに。

――好きになってく。愛してく。




「030トキメキ」のレオリオバージョンです。
BACK