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どうやったらもっとクラピカがうちにきてくれるだろう。
鍵
クラピカがうちにやってくるのはいつも夜。
ちょっと疲れた顔で、それでも少し嬉しそうに口元を緩ませて、オレに会いにきてくれてる。
何曜日に、とか何時に、とか、決まってないけど俺にはなんとなくわかる。
そろそろ来る頃かな。と。
するとチャイムが鳴る。
玄関のドアを開けて、そういうクラピカの顔を見るのがとても好きだった。
クラピカはほんとに素直じゃないから
わざわざ来てくれてありがとうと言ったら
今回の仕事はホテルに戻るよりおまえのアパートの方が近かっただけだ。
だって。
そんなに嬉しそうな顔しといて。
生意気、なんだけど、そこがカワイイ。
そりゃあもうちょっと素直になってほしいときもあるけど、とりあえず今のクラピカでいてほしい。
高鳴る胸を押さえて、クラピカを部屋に迎え入れる。
「相変わらず、だな」
机の上には山積みの辞書。
床には足の踏み場もないほど新聞や雑誌が散らばっている。
「しょ、しょーがねーだろ」
受験生のオレには荷物がとにかくいっぱいで、このアパートは少し狭い。
他人を自室へ招きいれたのだから
「そこ座ってろよ」
「なんか飲むか?」
これが当たり前の流れ。
でもその前にどうしてもクラピカを抱きしめたかった。
クラピカもオレの気持ちがわかっているようで、素直に抱擁に応えてくれる。
少し薄暗い部屋の真ん中で、きつく、優しくクラピカを抱きしめる。
「なんだよおまえ、またやせた?」
「そうか?」
ただでさえ華奢なのに。
「・・・ん?なに?」
胸のあたりがくすぐったい。
クラピカがやたらと首筋に顔を近づけてくる。
「・・・タバコのにおいがする」
オレが吸ったのは昨日の夜。もう丸一日たっているのに、まだ匂いが残っていた。
クラピカがにおいに敏感なのはよく知っていた。
慌ててクラピカから離れようとすると、
「別にいい。気にするな」
・・・なんて。背中に腕を回してもっと強く抱きしめてくれた。
どうやらオレの吸うタバコのにおいは、少なくともキライではないらしい。
「なあなあクラピカ」
「ん?」
オレの腕の中にすっぽりおさまっているクラピカは、可愛らしく首をかしげる。
それがあんまりかわいいもんだから、思わず顔が弛緩してしまう。
「なんだ変な顔をして」
「いや、あのさ・・・もしおまえに会えなかったら、オレ、女たらしでいい加減な遊び人になってたなーって思って」
ふと思ったのだ。クラピカに出逢わなかったらどうなっていたのか。
「・・・それはない。おまえは誰よりも強い意志をもっているじゃないか。
それに、自分のことをそんなふうに言うものではないぞ」
「でも・・・おまえのおかげだよ。だからおまえに会えてよかった」
クラピカはきょとんとしている。
いきなりなんだ、と言いたげに。
「好きになってよかった」
オレがそう言うと、クラピカの顔は真っ赤になって、恥ずかしそうに下を向いてしまった。
それから一緒にお風呂に入って
ちょっと遅めの、二人分の夕食を作って
いろんなことを話した。
普段自分のこと、仕事のことは話したがらないクラピカも、今日はいろんなことを話してくれた。
片づけを手伝ってもらったり
一緒にベランダに出て星を数えたり
クラピカの髪をとかしてやったり
二人でいると、どんなことでも大切で幸せだった。
ベッドに入って、オレは思い出したように枕もとの棚をあさる。
そうだ、今度クラピカが来たら、渡そうと思っていた。
「これ。なくすなよ」
「なんだこれは。家の鍵か?」
小さな鈴が付いた鍵を、クラピカの手のひらにのせる。
「オレの家の合鍵」
「・・・私に?」
どうやったらもっとクラピカがうちにきてくれるか、考えていた。
忙しいクラピカも、気が向いたときにフラっと立ち寄ってくれれば
いいと思った。
「おまえの帰る家。いつでも帰ってこいよ」
こんなかっこいいことを言っても、結局はオレが寂しいから。
オレがクラピカに会いたいだけ。
オレは知ってる。
その日からクラピカが、鍵を肌身離さずに持っていること。
2008/06/19
離れてても一緒にいられるって心強い。
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