私はあなたと会えて嬉しいわ。
あなたのおかげで笑うことが増えたから。




笑顔




「ああ、・・・ああ、わかった。では、ボスによろしく頼む」

携帯電話の電源を押すその指は
そんなに綺麗でうっとりしてしまうほどなのに

どうしてそんな顔をしているのかしら。


「どうしたんだ?センリツ。早く行こう」

トクン。トクン。トクン。

そうね。
あなたの心音はいつも違う音を奏でていて
まったく掴み所がないのよ。

それでも正直なあなたの心を
私は知ってるわ。




ハンドルを握るその細い腕も横顔も
すべてが儚げ。

いったいどうしてそんな瞳をしているの?
全てを拒絶するような捨てられた猫のような瞳を。

「もうすぐ着く。電話を頼む」
「ええ」


私があなたと出会ってからこれまで
いつもそばであなたを見てきたわ。

一緒に仕事をするようになって
あなたのことを少しだけ知れたような気がしたのに
やっぱりあなたは掴み所がないの。


もう夜はこんなに深くて
それでもホテルはきらびやかに光っている。
今日はここで朝を待つ。


あなたのホッとした表情を
私はまだ見たことがないの。

いつになったら
本当のあなたを見せてくれるのかしら・・・。



クラピカの電話はよく鳴る。
朝昼晩関係なく。
そのたびにあの顔をして
淡々とした声で機械的に喋る。

隣にいる私でさえも
もう着信音を聞くのも嫌になることもあるのに。


もう朝。
クラピカはよく眠れたかしら?
ベージュで統一されたロビーで落ち合って今日の確認。

出発までのわずかな解放された時間。
ふとクラピカの懐から例の着信音。
そばにいた私は思わず耳を塞ぎそうになってしまったわ。



クラピカの綺麗な指が慣れた手つきでボタンを押す。
巻きついている鎖を、私はできればあまり見たくない。

そのとき
ふと周りの空気がやわらかくなるのを感じた。
一番近くで聞こえてくる心音も
なんて、なんて幸せな音なのかしら。

驚いて、ずいぶん上にあるクラピカの顔を見上げてみる。
電話を耳にあてて、彼――いえ、彼女は花のように笑っていた。

「・・・ああ、まだ大丈夫だ。・・・わかっている。何度も言わずともちゃんとわかってる。
おまえのほうこそ・・・。ああ、気をつけろよ。じゃあ・・・切るぞ。いってらっしゃい――レオリオ」


同じ角度から見る、電話を受ける彼女の顔は
これまで見たこともないようなものだった。
そんなに満面の笑みを浮かべたわけでもなく
声を上げて笑ったわけでもなければ
涙を流したわけでもない。


ただ頬を染めて目を細めただけなのに
こんなに空気がやわらかくなる。

最後に呼んだ名前をとてもとても愛しげに――呟いていた。

ああ、なにかしら、なにかしら。
胸の奥でろうそくの明かりがポッと灯ったような
あたたかいこの気持ちは。


「センリツ、時間だ。行こう」

足早に歩き出したクラピカは、もういつものクラピカに戻っていて――
「・・・ええ」


あなたの中にこんなに大きな愛があるなんて知らなかったわ。
今度是非――”レオリオ”さんに、会ってみたい。

きっと彼の心の音も、大きな愛で満ち溢れてる。



2008/09/26
BACK