今年の夏は猛暑。
故に熱中症患者続出。
そして人々がとる行動は

涼を求めて海水浴
といったところだろうか。

昨年までは、悪友たちと半分ナンパに行っていた。
だが、今年からはそんなバカなことはもうしない。

なにせオレには、クラピカがいるのだから。





束縛





「イーヤーだー!!私はぜっっっったいに着ない!」
「んなこと言うなよ〜」
「お、お客様・・・;」

という訳で、オレたちも日帰りホテルつきの海水浴にやってきたのだが――・・・
クラピカは、ご機嫌ナナメだった。


海に行くのだから、水着になるのは当たり前
それがオレの考え。大抵はそうだと思う。


ビーチに着くなり、オレたちが向かったのはホテル内のレンタルショップ。
「レオリオ、何を借りに行くんだ?」
「何って・・・水着。」
「いらっしゃいませー」

黒く日に焼けた、健康的な女性店員の声が響く、冷房ガンガンの店内に入るなり、
クラピカの機嫌は大きくナナメにずれた。


「だいいち、人前で肌をさらけ出すなどと、そんな・・・っ」
「破廉恥とか言い出すなよ?なんでやなんだよ。ビーチに行けばみんな同じだぞ」
「そ、そうですね、彼女さんにはこちらなどどうでしょうか?」

そう言って女性店員が差し出したのは、何の飾り気もない、真っ白なビキニ。
オレは思わず息を呑んだ。思えば、二人っきりで海へ来るのも初めてだ。
クラピカの水着姿なんて・・・一度も見たことはない。いや、今を逃したら一生見れない気さえする。

オレはこの女性店員に心から感謝した。彼女がこの店のスタッフで本当によかった。
何百という数の水着の中から、いちばんクラピカに似合いそうなモノを、一瞬のうちに選んでくれたのだから。
何より、彼女のなんとも自信ありげな表情。彼女ならやってくれる。

そんなしょうもないことを思っているうちに、クラピカは(ほぼ強引に)試着室へと連行された。
オレは居ても立ってもいられなくて、吸うつもりもない煙草をふかして、何度も試着室の方へ目をやった。
オレは変態か?


そして数分後。
「ありがとうございましたー!」
満足げに微笑む女性店員に見送られて、オレたちは店を後にした。

歩いていても、意識はどうしても左側にいってしまう。
「――・・・っ、じろじろ見るな!」
クラピカはそんなオレの視線に気付くと、いつも以上に顔を赤らめて、いつも以上に激しく怒鳴る。
照れ隠しがみえみえで、つい笑みがこぼれる。
「もうっ笑うな!」

だって、しょうがねぇだろ。
いつもは絶対に見せない、長く伸びた細い四肢。
抱きしめたら折れてしまいそうなほど華奢な体に細い腰。
完璧なプロポーション・・・とまでいかないのは、やはり小さな胸が原因。
でもオレには、それさえも可愛く思えてしかたなかった。

滑らかな白い肌に負けず劣らずの真っ白な水着が、金色に光る髪によく似合っていた。
「なんだよほら、まだ怒ってんのかよ?すっげー、かわいいって」
先いくクラピカを追い越して、じっとその顔を覗き込む。するとクラピカは、反射的に顔を背けた。

真っ赤な顔でうつむくその姿は、まるで幼い少女のようで。
「もしかしてさー、オレのカッコ見んの、恥かしい?」

海に行くのだから、水着になって当然――それがオレの考え。
だからオレは、新調したばかりの定番の水着に、シャツを一枚羽織っただけだった。

「こんなんトランクスと変わんねーって。ちょっと長くなったくらいで・・・
競泳用じゃないだけマシだろー?(笑) それにおまえ、毎日見てる――」
言い終わる前に、足を踏まれた。

「その・・・・そうではなくて・・・・それもあるのだけど・・
こういうのは、初めて着るのだよ・・・///」

恥かしそうに肩をすくませて、小さな胸を腕で覆い隠そうとするクラピカは、とてつもなく可愛かった。


ここまではよかった。
全てが順調だった。
はず・・・なのだが・・・・・・・・・




・・・




さっきからどうも――
視線が痛い。クラピカは気付いていないのだろうけど。
他でもない、彼女に注がれている「男」の視線。

そう、オレは――
一番大事なことを忘れていた。






だらしなく鼻の下を伸ばして、ちらちらと遠巻きに視線を絡ませてくるヤツから、
強引に腕を引っ張ろうとするヤツまで、ナンパ男は多種多様だった。
――隣にオレがいるにも関わらず、だ。


耐えられなかった。オレの立場なんざどうでもいい。
クラピカを不特定多数の男の前にさらすのが
我慢できなかった。

クラピカをこんなカッコにしたのはオレだけど
それを誰にも見られたくないと思うのもオレ。


つくづくバカだと自分でも思う。でも、もう我慢できなかった。
今ここで出来る対処法といえば、オレの腕の中に閉じ込めることくらい。

そしてオレは、砂浜のど真ん中で、慌ててクラピカを強く抱きしめた。

「きゃあっ///」

確かに聞こえた、高い声。
「え・・・・おまえ・・///」
いつもとは、あまりに違いすぎるシチュエーションに・・・違う反応。

「い、いきなり、何するんだ・・・っ」
「あ、あんまかわいい声だすなバカ!」

オレたちを照りつける真夏の太陽はギンギンに暑かったけれど
抱きしめたクラピカの肌から伝わってくる体温の方が、熱かった。


・・・


「・・・レオリオ、もう帰るのか?」
オレはクラピカの手をひいて、ホテルを目指していた。
クラピカの肩にはオレのシャツ。
一番簡単な方法を、今の今まで気が付かなかった。
サイズが大きすぎて、余計に意味深なカッコになるのは無視してほしい。

「おう。いつまでもこんなとこにおまえを置いてられっか」
最初に言った言葉と、180度矛盾している今のオレの言葉を聞いて、
クラピカは呆れたように、でも少し楽しそうに笑った。

「・・・だって、まだ海も入っていないぞ。来た意味が無いじゃないか。
それに、もしものときは――」



”おまえが私を守ってくれ”



クラピカは思いっきり背伸びをして、オレに耳打ちをして、恥かしそうに微笑んだ。
こういうときは、男の――オレの方が、自意識過剰なのだと、クラピカは言う。
確かにそうかもしれない。そうなのだが、やはりイヤなものはイヤで。


好きな人を独占したいと思うのは
いけないことだろうか?



クラピカが水着を着たくなかった理由。
それは、オレ以外の人間に、肌を見せたくなかったから。
そんな事実を知ったのは、海水浴の翌日だった。



ちくしょう、それを先に言えってんだ。



空越あきさんからの10100hitリクエスト、「海水浴にいくレオクラ」です。
クラピカの水着姿なんて、想像しただけで鼻血が(ぶぶぅ
でも、ビキニなんて絶対着なそう(^^;ワンピースでも抵抗ありそうなのに・・・。リクエストありがとうございました!

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