「じゃーん。デジカメー」




思い出




そもそも私は
写真など持っていなかった。
興味もなかった。

思い出すのは故郷。
あの最後の日
もちろん写真など一枚も残らなかった。

写真という形に残っていなくても、私の頭の中には痛いほど焼きついている。

だから必要ないし、これからも必要なかった。


はずだった。





「クラピカクラピカクラピカー」


私はレオリオが好きだ。
レオリオも私を好きだと言ってくれる。

だから私は、時間の許す限り彼の傍にいる。


「なんだ、騒がしい。・・・!」



こんな私に人を好きになる資格があるのかは
まだわからない。


「へへー。試し撮り。びっくりした?」


でもこんなに幸せなのは初めで
どうしてもレオリオから離れられなかった。
離れたくないのだ。



「・・・カメラか。ものすごく眩しかったぞ・・・」
「最新型デジカメー」


余暇はレオリオの部屋で過ごすことにしている。
レオリオが「そうしてほしい」と言ってくれた。
私も本当に
嬉しかった。



「おー綺麗にとれてる。やっぱクラピカはかわいいなー」
「ちょっと待て、いきなり撮られたのだから絶対顔がおかしい」
「んなことないって、ほら」

思えば
鏡も意識して見ることはないし
自分がどんな風にレオリオの目に映っているのか
考えたこともなかった。

「――・・・これが私・・・」
これがレオリオの目に映る私。
「・・・初めて見た」

はあ?何言ってんだよ、毎日見てんだろ?自分の顔。
と、レオリオは不思議そうにそう言った。


レオリオいわく、

モノより思い出。でもオレは、想い出をモノに詰め込みたい。

だそうだ。彼らしい発想だと思う。


「じゃ、今度は二人でな」
言われるがまま、ソファに座らされ、レオリオはなにやらカメラをテーブルの上に立たせている。

「よしオッケー」
「・・・なにがオッケーだ。あれでは撮れないではないか」
「セルフタイマーってゆー便利な機能がついてるんですよ、クラピカさん」

レオリオは私の隣にぴったりくっついて座って、片手で肩をぐっと抱かれた。
ドキドキしてしまうのは
不可抗力。


「どこ見るか分かるよな?」
「レンズだろう」
「ちゃんと笑えよ?」
「・・・無理かもしれない」

「そっかー・・・それじゃ仕方ない。それっ!!」
「な、なにを、ちょっ、やめろくすぐったいっっ」

レオリオの得意技
くすぐり攻撃。

油断していた私はモロにくらってしまって、笑わざるをえない・・・というか、涙まで出てきてしまった。



カシャッ



「「え?」」



こんなことをやっているうちにシャッターがおりてしまった。
「あちゃー。・・・あーでも、見ろよ、これはこれでいい写真」

初めて二人で撮った写真は
レオリオも笑顔で
私も、涙ぐみながらも
笑顔、だった。

クラピカの満面の笑みが撮れた、と
レオリオは満足げに笑った。






その日はいろんなところに行った。
晴れの日の公園は気持ちがよくて、レオリオは景色を撮るのに夢中だった。
ワゴンでソフトクリームも買ってもらった。
溶けるのが早くて、手に垂れてきてしまって慌てている様子を撮られたり
ベンチでうとうとしている情けない顔まで撮られたし

それでもレオリオは本当に楽しそうだった。



レオリオは撮った写真をすぐに現像してきて
アルバムを作り始めた。

「私の写真ばかりではないか。・・・しかも変な顔ばっかりだ」
レオリオの隣で、その作業をじっと見ていた。

「10年とか20年たって、思い出を振り返るのもいいかなーと思ってさ」

その時の笑顔をそのまま残せる。
写真は私には必要なかった。
でもレオリオは私の隣で、こうして想い出を形にしてくれている。

なんだかとても
レオリオが愛しい。



2008/06/20
写真ってすごく大切なものだと思います。
その時確かに存在していたこと。色褪せることなく笑顔は残ります。
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