新婚旅行っていうと、やっぱり遠い異国の地とか
ロマンティックな船旅とか。

そこら辺が定番か?

オレたちも、豪華客船で世界一周とまではいかないけれど・・・
海?
山?
―――どこでもいい。
笑顔で会話が出来ればそれでいい。


「・・・ここは?7泊8日空の旅。」
「ちょっと遠すぎないか?」
「じゃあここ」
「・・・・・・・・・・・・・・・食べ放題?」
「気に入らない?」
「夢がない」


たくさんのパンフレットをベッドに広げてああでもない、こうでもない。
それがとても幸せな時間だと、しみじみと感じていた。






蜜月





散々だった。

行きの飛行機には乗り遅れる。空港に荷物は届いていないし。それも二人とも。
歩き回った挙句、結局道に迷う。
初めての土地だから仕方ない、といえばそれでお終いだ。
やっとの思いでついたホテルは、幽霊屋敷と見紛うほど・・・


―――散々だった。


「ま・・まぁ・・こういうのも趣きがあっていいじゃねえか。
それに客はオレたちだけだってよ!貸切ってことだろ?
すげーじゃねーか、ホテル丸々貸切なんてよー」

結局ホテルに着いたのは、日が暮れてから。
恐ろしく不親切な地図のおかげだろう。
その日の予定は、ウォーキングでパアになった。

まぁ、こんなはずじゃなかったのは、言うまでもない。



・・・・



値段にこだわりはしなかった。
ほんとうに必要なとき以外、ライセンスは使う気がなかった。

ただ、2人きりの初めての旅行―それも新婚旅行―なのだから、静かな地で、ゆっくりしたい。
この条件を全て満たすはずだった、完璧な旅行計画。
二人とも、どれほどこの旅行を楽しみにしていたことか。


一体、何がいけなかったのだろうか。
「まだ明日もあるじゃねぇか。今日はゆっくり休んでさ、
とりあえず明日のことをちゃんと話し合おうぜ。な?」

今にも崩れ落ちてきそうなホテルの前で、二人はただ立ち尽くす。
さっきからどうもやり切れない表情をしているクラピカに、レオリオは必死に話しかけている。

「・・・ふふ」
「ん?」
「やっぱりおまえと一緒にいるとほんとうに楽しいのだよ」

その笑顔に不満は見当たらなかった。




・・・




2日目の、港町の観光中のことだった。


「もういい。一人でいく」
「けっ。勝手にしろ」
クラピカは細い眉をつり上げて冷たくそう言うと、レオリオに背を向けて歩き出した。

まさかこんなところまできてケンカとは。
お互いの未熟さにほとほと呆れる。
一応、今回の旅行は2泊3日を予定してある。
まぁ、今回の「予定」なんてアテにならないのは百も承知だけれど。
とにもかくにも、明日には帰るのだ。






「・・・・・・・レオリオのバカ・・・」
ここはどこだろう。
さっきから同じ言葉を繰り返し言いながら、クラピカは当ても無く、ただ歩いていた。
情けない。ケンカして、はぐれるなんて。

ふと顔をあげれば、楽しそうに通り過ぎていく家族や恋人たち。
そんな中を一人で歩くのは流石のクラピカでも、気後れしてしまう。
そう思い不意に立ち止まると、それを待っていたかのように彼女に近寄ってくる、
地元住人らしい男が3人。

「おねーちゃん、かーわいいv」
「一人?」
「オレらと一緒にさ、ね、いいでしょ?」

ああ・・・まただ。昨日と今日で、何度目だろう。

「どいてくれないか」
「つれないなぁ〜いいじゃん暇でしょ?」

にたにた笑いながら男の一人がクラピカの腕を掴む。
生まれや育ちをどうこう言う気は全くないが、彼らに品性は感じられなかった。
力ずくでないとわからないのか、男というものは。
クラピカは溜息をついて拳に力を入れる。それを遮ったのは、長身の黒い影。


「――オレの妻になにか?」



・・・





「私一人でも充分だったのに・・・・」
ナンパ男を見事撃退したレオリオは周囲の喚声を掻き分けて、
これでもかというくらいクラピカの手を強く握り締め、そそくさとその場を立ち去った。
確かにあの程度の素人男など10人束になってかかってきてもクラピカにはかなわない。
そんなこと、レオリオも承知している。
けれどやはり、自分の女にちょっかいを出されて気分のいいものではない。

「せっかく心配してきてやったんだぞ」
「・・・ああ、すまない」

それでもやはり嬉しかった。きてくれたことが。
仕方がない、素直に謝ることにした。
・・・成長した。


本当に申し訳なさそうにうつむいているクラピカを思い切り抱きしめて、優しく髪を撫ぜる。
「もう勝手にどっかいくなよ」
言い忘れたが、ここは海岸。公衆の面前である。


「・・・・わかった。ちゃんと・・・こうやって捕まえておいてくれ」
レオリオの大きな背中に腕を回して、広い胸に顔を埋めてクラピカは微笑んだ。

夏の暑さにも負けず劣らずの二人を取り巻く視線に、
本人たちはお互いが離れるまで気が付かなかった。



・・・



そしてその夜。
「クラピカー、一緒に風呂入ろー」


バチン


すかさずくらった平手打ち。
・・・痛い。
「こっ、こっ、この非常識者め!!」
「いってー、何すんだよ?」

ホテルのとある一室に、ガードするように構えるクラピカと、
頬にくっきり真っ赤な手形が残ったレオリオの悲痛な叫びが響き渡る。


「ちぇー。わかったよー、一人で入っちゃうからな」
そう言ってとぼとぼ歩くレオリオの背中はいつもと違い小さかった。
それを見ているとなんだか複雑になる。


「・・・待った」
結局こうなるのだ。
・・・まあ、たまにはいいか。




・・・




翌朝先に目を覚ましたのはクラピカだった。
カーテンの隙間から差し込む日差しが眩しくて、思わず目を細める。


「・・・・クラピカ〜・・」
囁くような微かな声にピクンと反応して隣を振り向く。
そこには、彼女の手をしっかりと握り締めて、
間抜けなほど幸せそうな顔で眠っているレオリオの姿があった。

夢の中でまで自分を想ってくれていることが、とてもとても嬉しくて
小さな手で、力いっぱい彼の手を握り返すと、まだ慣れない指輪がお互いの肌に食い込む。
新婚旅行なのに今更になって、「夫婦」を実感する。


「これからも・・・・よろしくな、レオリオ」
微笑んで、夢の中の彼にそっと口付けた。




――散々だった。

行きの飛行機には乗り遅れる。空港に荷物は届いていないし。
それも二人とも。歩き回った挙句、結局道に迷う。
初めての土地だから仕方ない、といえばそれでお終いだ。
やっとの思いでついたホテルは、幽霊屋敷と見紛うほど。
でも、今となっては、みんなみんな楽しい思い出。

ケンカしたことも
抱きしめてくれたぬくもりも
バカなことで笑いあった時間も

2人だけの、忘れられない思い出。



如月萌さんからの7800hitリクエストで、「新婚旅行に行くレオクラ」です。
リクエストありがとうございましたv
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