レオリオはものすごく悩んでいた。
クラピカは男なのか?
それとも・・・女なのか?
コスチューム
ハンター試験もそろそろ佳境である。
途中からキルアも仲間に入り、4人で行動することが多くなった。
試験中の束の間の休息。
だが気は抜けない。
これはハンター試験なのだから。
クラピカはそれを重々承知している。
だから委員会から今日は「試験は行わない」と言われても、ずっと周りに目を配りながら、口を閉ざしている。
宿泊地のホテルへ向かう道の途中。
レオリオはすたすたと歩くクラピカの隣を歩く。
「おいおい、なにそんな怖い顔してんだ?」
「別に怖い顔などしていない。常に緊張感を保っているんだ」
「だってよお、今日は1日フリーだって言われたじゃねえか」
「いきなり試験がはじまることだってある」
やっぱりクラピカはそのまますたすたと歩く。
前だけを見て。
後ろからゴンとキルアが笑いながら走ってくる。
こうしていると、年相応の少年たちなのだが。
「ほら見ろよあいつらを。遊ぶときはしっかり遊んでるぜ」
「あの二人はいつもああだろう」
クラピカと話していると
よく会話が途切れてしまう。
正確には、クラピカの鋭い一言で話題が完結されてしまうのだ。
お世辞にも人付き合いがいいとは言えないクラピカの話し方に最初はレオリオも苦労したが、今では自分のペースでクラピカと会話を続けることができる。
「あ、そーだ。前から気になってたんだけどさあ」
「なんだ」
「それ、クルタの民族衣装か?」
「ああ、そうだが」
やっぱり前しか見ていない。レオリオの方には目も向けない。
「それってさあ、男用とか女用とか、あるわけか?」
これを聞いたのには理由があった。
クラピカの性別が知りたかったのだ。
ゴンに聞いても
「うーん、オレ、男とか女とか、ぜんぜん気にしないなあ」
キルアに聞いても
「興味ないし」
・・・わからないという。
医者志望であるレオリオさえも
まったく分からなかった。
背は・・・男でも女でもありえる高さだ。
肝心の顔だが・・・
女だったらめちゃくちゃな美人だし、
男だったら、とんでもない美少年だ。
どっちでもいける顔だ。
一番の判断材料は体格だ。
しかしクラピカは見るからに暑そうな服を着ている。
だから体の線がまったく分からない。
脱いだらマッチョかもしれないし、はたまたもしかしたら胸があるのかもしれない。
つまりまったく予想不可能。
声も、女でも充分通用する声だし、男であっても、まだ声変わりをしていないだけかもしれない。
一番てっとりばやいのは本人に聞くことだ。
だが、「おまえって男?女?」と唐突に聞くのもどうかと思う。
クラピカじゃなかったら、多分躊躇なくカンタンに聞けた。
相手がクラピカだからためらうのだ。
なぜかは、よくわからないが。
考えた末、この方法で聞きだそうとした。
「それってさあ、男用とか女用とか、あるわけか?」
自然な方法だ。
しかしクラピカの答えはこうだった。
「いや、男女兼用だよ。しかし他にもいろいろ種類があってな。
例えば女性にはスカートもある。ただ私はこのタイプが一番動きやすくて好きなのだよ」
「そ・・・そっか・・・はは」
やられた・・・
男女兼用なんて・・・
「なになにー、二人でなんの話してるのー?」
後ろで走り回っていたゴンが、急にこちらに入ってくる。
「ちょっと、クラピカの服のことでな」
「ふうんー、でもクラピカのその服、便利だよねーいろいろ入るし」
そこへキルアも入ってくる。
「おいゴン、スケボー返せよー」
「あ、そうだ、オレのこの服はね、ミトさんが作ってくれたんだよ!
オレよく動くから、丈夫に作ってくれて、おかげでぜんぜんほつれたりしないんだよー」
ゴンは嬉しそうに自らの服を語る。
「へえー、オレは・・・ウチにあったやつ適当に拾ってきただけだな」
しかしキルアのクールなイメージと服装はよくマッチしている。
適当、なのにセンスがある。
「レオリオはいつもスーツだよねえ」
「おう!オレは特にネクタイはこだわって・・・・っておい!聞けおまえら!」
自分たちのことをひときしり話したあと、ゴンとキルアは二人を追い越して再び笑いながら走り出した。
「・・・ったくガキどもめ」
溜息をつきながら、レオリオはネクタイに手をかける。
「いいと思うぞ?」
「え?」
「おまえは背が高いからな。スーツがよく似合うよ」
レオリオをまっすぐ見て、クラピカは微笑んだ。
「ほら、早く行くぞ。日が暮れる」
その微笑みは
幻だったのか。
クラピカはまた怖い顔に戻って、すたすたと歩き始めた。
試しに頬をつねってみる。
・・・いてぇ。
どうやらあのかわいい微笑みは
幻ではないらしい。
2008/07/24
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