特に変わりない朝だった。
この男の存在と、あられもない自分の姿をのぞいては。




デ・ジャ・ヴ




何が何だか分からなかった。
目が覚めて、まず最初に変だと感じたのは天井。
・・・確か昨日は・・・
昨日・・・・・・・・・・

思い出せない。



体を起こすと、何も着ていない自分の姿に驚いた。
反射的に、かけてあった白いシーツで胸を隠した。

この寒いのに、どうして私は・・・

(・・・ん?)
左にふと感じた温かい肌の感触。
まさか。
まさか。
・・・誰かいるのか?



「・・・・!!!」
見ず知らずの、裸の男が寝ていた。


(な・・・っなぜ私はこんな男と・・・!?それになんで二人とも裸・・・っっ)
有り得ない。
これは夢だ。

だいいちここはどこだ。
狭い部屋の窓際に、このダブルベッド。
そして大きな本棚。
床を埋め尽くす辞書やノート。
脱ぎ散らかした衣服。

私はこんなところに住んでいない。
いや、それすらも分からない。
――全て、覚えていないのだから。




「・・・ん」
目を覚ましたらしい男が目をこすりながら体をだるそうに起こした。
どうすることも出来ない私。
まさか殴って逃げるわけにもいかない。


「・・・あれ?誰?」

そんなの、こっちが聞きたい。




・・・・・




この男の記憶だけがない。
私自身のことは覚えている。
クルタ族のことも。旅団のことも――。

「なぁなぁ、ゴンとキルアって知ってるか?」
「・・・いや」
「なんかオレのケータイにメールが着てんだけど。」
文面からして、今日ここに二人が来るらしく。――丁度いい。


「まぁ、少なくともさ、オレたち仲良かったみたいだぜ」
彼は体を伸ばしてベッド際の写真たてを手に取った。
そこには、青空をバックに彼と私が並んでいた。

「な?仲良さそうだろ?」
「・・・これは・・・抱きつくおまえを嫌がっているようにしか見えないぞ」
「恥かしがりやさんじゃねーの?おまえ」
「・・・し、失敬なっ」


こうして笑顔でからかわれるのは
何故だろう
嫌じゃなかった。

――全く彼の記憶がないというわけではないと思う。
いわるゆ既視感。
誰かなんて、わからないのに。




「・・・にしてもおまえ、近くで見ると結構カワイイのな」
いきなり顔を覗き込まれて、反射的に後ろに退いた。
「・・・軽い男はきらいだ」
「でもさ、こうして裸で一緒に寝てたんだから、それなりの・・・」
「言うな―――!!!」


そう、そこだ。
最大の謎。
今も一つのシーツに裸のまま、二人包まったまま。

近い。
離れられない・・・!
なんで私がこんな男と・・・っっ



「おい、平気か?」
はっと気が付くと、心配そうな瞳で見つめられて。
誰のせいだと思ってるんだ。

「平気じゃないっ!寒いのだよ。シーツをよこせ!」
「あ、それとったら・・・」
「・・・・・・・・・・!!!!!!」

見てはいけない、見たこともないものを見てしまった気がする。
というか・・・下着くらいはいておけ馬鹿者!!
もう嫁に行けない・・・なんて、世間一般では言うのだろうか。

一人で慌ててしくじって
私は何をしているんだろう。




・・・・・




「ほんとに?覚えてないの?」
「覚えてないっつーか・・・知らないっつーか・・・」
「信じらんねー・・・」
「・・・そのまえに私はこの男との関係が知りたい」
「うん、みんなトモダ・・・」
「違う違う、二人はもうすぐ結婚すんだろ!」
「えっ、そうなの!?キルア!」


信じられない。
・・・信じられない。
だって
私は――・・・

「冗談じゃない!私はこんなところで遊んでいるほど暇ではないんだ!
私はハンター試験を受けに・・・!」

「――冗談なんかじゃないよ。これ見なよ。アンタのライセンス。
・・・アンタ全部終わらせただろ?緋の眼だって旅団だって・・・
だからこうしておっさんと一緒にいるんだろ?」


否定はする。
だけど納得はした。
銀髪の少年の言葉を、信じた。



「まぁいいや。ぐだぐだ言ってたってしょうがねぇだろ?
知らないんだったら最初から知っていけばいいだろ。
オレはレオリオ。よろしくな」

「・・・・・クラピカだ。・・・よろしく、レオリオ」
まだきつねにつままれたような顔で、ぎこちなく答えた。


「オレたち恋人同士だったらしいからさ。
・・・これから二人で好きになってってみねぇ?」
――全部、最初から。

「・・・ああ、分かった」
「じゃあとりあえず恋人への第1歩な。キスしようvv」
「・・・・・・やっぱりおまえなんか嫌いだ!!!」


だれかが私の中の彼の記憶を消したとしても、この既視感だけは消せない。理屈じゃない。
きっと私は彼を愛しているから。



2005/02/27
デジャヴ=既視感。初めて見るはずなのに以前見たことがあるような感覚にとらわれること。
そういえば記憶喪失ネタは誰でも一回はやっておきたいものですね(多分)。
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