そんなオレに気を遣う君は、隙だらけだから。
お勉強
「なんかさー・・・最近のおまえ、静かだよな」
万年筆を長い指でくるくると回しながら、レオリオはふとそんなことを言ってみる。
いつもよりも、小声で控えめに。
まるで欲しいものを母にねだる幼子のように。
夜食として持ってきたサンドウィッチと淹れたての熱いコーヒーをトレーに乗せて運んできたクラピカは、そんな彼の言葉にひらりと受け答える。
「私は普段そんなにうるさいか」
つまらなそうな口調で、トレーをレオリオの机に音を立てて置く。
びみょうに
機嫌悪いなあ。
クラピカのご機嫌はちょっとしたことですぐに損ねられる。
ご機嫌ナナメ具合を、最近では細かく読み取れるようになった。
「違う違う。そーじゃなくって、オレにあんまり甘えてくんないからさー・・・
ちょっと寂しいかなーなんて・・・」
コーヒーをわざとらしく音を立ててすすった。
「・・・」
確かにレオリオの言うとおり、ここ最近、
二人は会話はおろかキスも交わしていない。
理由は簡単で、レオリオの医大受験が近いのだ。
自室にこもりっきりの日が多くて、本当にちょっと顔をあわせるくらいだった。
もともとレオリオは一回集中すると、他の事には気が回らなくなってしまう。
そんな彼を、クラピカはこうやって静かに見守ってきた。
ささやかなすれ違いも、気のせいだと思い込んで。
「・・・クラピカ、こっち来いよ」
久しぶりに聞く優しい声には、何処か照れが混じっていた。
胸がいっぱいになる。
一緒に住んでいるはずなのに、なんだかとても久しぶりに会った気分になる。
クラピカは少し照れ臭そうに微笑んで、ゆっくりとレオリオに歩み寄る。
同時に、レオリオの腕がクラピカの華奢な体を抱き寄せた。
久しぶりの温もりと、肌が擦れ合う感触――ふわりと香る香水の匂い。
やっぱり好きだ。
冷静さを取り戻した頭で、心を落ち着かせ、そっと彼を抱きしめ返す・・・間も無く、
あっという間に隣のベッドへ押し倒されてしまった。
こんなときの彼の早業は、とても真似できないと、クラピカはつくづく思う。
だが今は、そんな悠長なことを言っている余裕も無く。
大きな手にしっかりと両手首を押さえられて、身動きも取れない。
もしも彼が痛みを感じるほどに強く押さえつけてきたら、きっと抵抗した。
でも、こんなに優しく扱われては
もう、どうにも出来ない。
レオリオは、知っているのだ。
クラピカの弱点。行動。性格。
どうすればクラピカが大人しくなるか
そんなことまで
彼は知っている。
しかしさすがに何の予告もなく突然こんなことをされたら、無意識にもがいてしまう。
そんなささやかな抵抗も、レオリオにとっては嬉しいだけ。
「おまえ、オレの前だとすげー無防備。他のヤツらが見たら信じられないだろうな」
「や・・っやだ!それにおまえ、勉強・・・」
「んー・・・このまま休憩入りまーす」
「・・・・ばかっ」
こんなことで医者になれるのかと、頭の片隅で心配してみたけれど
そんなちっぽけな理性は、レオリオの前ではすぐに吹き飛んだ。
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