なあレオリオ
オレ決めたよ
弁護士になる。

・・・ああ気は確かさ。
見ろよ、こんなに本を買ったよ。
本気で本を読むなんて、生まれて初めてだよ。

なんでかって?
おまえも知ってるだろ。
オレは曲がったことが大嫌いなんだよ。

なにかあったらオレのとこに来いよ。
オレが守ってやる。特別に割安でな。

・・・おっと、その前に早いとここの体を治さないとな・・・。



この一週間後に彼は死んだ。





遺品





(・・・夢か)
机に向かったまま寝てしまったようだ。もう外は明るい。
この夢を見るのは久しぶりだった。


(・・・あれ、クラピカ・・・)
後ろのベッドにクラピカはいなかった。時計を見るとすでに午前10時。
目をこすりながらリビングに顔を出した。

「レオリオ起きたのか」
いつもと変わらないクラピカの姿。既に家事を終えソファでコーヒーを飲みながら読書をしていた。

ほっとした。こうしてそばにいられることがありがたい。
あんな夢を見た後だから。不安も大きかった。

「まったく、根を詰めすぎるなとあれほど言ったのに」
こうして咎められるのさえ嬉しい。もう大切なものは失いたくない。


「そうだ・・・これ、おまえのものだろう?」
クラピカの横に腰を下ろすと、思い出したようにこう言った。

「テーブルに置きっぱなしだったぞ」
昨夜はリビングで勉強していた。たまには場所を変えて気分をリフレッシュしたかった。
そしてそのまま寝室へ行き、本を読みながらうとうととしてしまった。

「・・・大事なものなんだろう」

クラピカは静かに微笑んでそれを渡した。
傷だらけでぼろぼろの、万年筆。


オレは常にこれを使っていた。
死んだあいつの遺品だった。

クラピカには話していない。
だがとっくにさとっていたようだった。


「・・・あいつさあ、弁護士になるって言い出して
父親からもらったこの万年筆でひたすら勉強してたよ」

力なくソファに埋もれて、顔だけをクラピカに向けた。
「勉強なんかオレと同じくらいできなくて、テストの順位は下から数えた方が早かった」

そして窓の向こうの広い空に視線を移す。
「あいつが死んだとき、この万年筆を握ったまま倒れてた。
オレはあいつが、この万年筆みたいにぼろぼろになっていくのを・・・気付いてやれなかったんだ」

そして気付いたときには遅かった。
その現実を忘れない為に
この遺品を肌身離さず持つようにした。

「あいつオレが医者になったなんて・・・夢にも思ってないだろうなあ」
ただそのきっかけを――生き方をくれたのは彼だった。

「なあクラピカ」
「・・・ああ」
「おまえがこれから先・・・どんなに傷つくことがあっても、オレが必ず治してみせる。――今度こそ」

今度こそ。その言葉を自分に言い聞かせるように呟いた。

自分はそのために、医者になったのだ。
傷を治す為に。


「今日・・・出かけるか」
「・・・どこに?」
「これ・・・あいつに返しに行こうと思って」


この万年筆を持ち続けていたのは
罪の意識からではない。
後悔でもない。
彼の遺志を継ぐため。
理不尽な力から誰かを守りたい
それが彼の口癖だった。
そんな奇麗事のような言葉を照れもせずに口に出す彼を
友として尊敬していた。

「あいつのことはオレが一番・・・知ってるからさ」

信じていたのだ。彼を。
そしてきっとこれからも見守ってくれることを
信じて。


「オレのかわいい恋人も自慢したいしな」

今度こそ守り抜いてみせる。
どんな傷も治してみせる。
――見ててくれよ、そこから。


2009/02/05
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