増えていく不要物





「おいクラピカあ」


返事はない。
こっちも向かない。
・・・ふてくされている。


「おーい」
「・・・」
「あのさあ」
「・・・」


「これ・・・どうにかなんねぇ?」
もうさんざんだ。
こんな生活は。


「このままじゃオレ達ここに住めなくなるぜ」
その通りだった。
あと3ヵ月後にはきっと足の踏み場もなくなる。
毛布にくるまってそっぽを向いていたクラピカが、飛び起きると同時にレオリオを怒鳴りつけた。


「おまえこそ人のことを言えまい!おまえの本は専門書ばかりなんだから1冊が分厚い故にかさばるのだよ!」
「おめーこそ毎日のように本ばっかり持って帰ってきやがって、捨て猫を拾ってくるほうがまだマシだ!だいたいオレはコレがないと勉強できねーの!」


(不本意とはいえ)一緒に暮らし始めて1ヶ月あまり。
6畳一間に二人が住むのは、そもそも無理だった。
最初はなんとかなった。
だが、次第に本ばかりが増えていった。
クラピカの本が。


「本を読むのは私の唯一の楽しみなのだよ。それを奪う権利などおまえにない」
「ったくそのわがまま加減どうにかしろよ!おまえ友達いねーだろ?」
「うるさい!自分ばかり正当化するな。それにこれはなんだ」
「・・・!!」

よくもまあと思うところに隠されていた、クラピカいわく「不潔な本」。
「これも勉強に必要なのか。見たところ辞書類と同じくらいの量ではないか」
「ばっばか開くな」
「こんなもの処分するのだよ」

まったく男は何を考えているのか。
なんだかイライラする。
見るにもたえないそれらの本を抱え込みゴミ箱に直行する。
あろうことか台所の生ゴミボックスへ。
レオリオは必死にそれを阻止する。
とっくみあいとなるとクラピカに勝ち目はない。
それをよく知っていたが、こうせずにはいられなかった。


「まったくなんてことしやがる」
「ふん」
「つーか、なんでいちいち買って来るんだよ?図書館いけばタダで読み放題じゃねーか、高校生」
「・・・」
「金もかかるし」
「私の勝手だ」


新品の、あの独特のにおいがするピカピカの本が昔から好きだった。
ついつい部屋に溜め込んでしまうのには、それもある。

しかし、最近は、この部屋で本を読むのがすきなのだ。
新しい本に少しワクワクしながら、この部屋で、レオリオが帰ってくるのを待つのが
楽しみになっていた。


必ず帰ってきてくれる彼がいるから、こんなにも穏やかな気持ちで読書にいそしめるのだと思う。

その大切な気持ちがつまった本を、捨てるわけにはいかない。


「あーあ、もう、どーすっかなあ」
本に埋もれたこの生活からどう抜け出すのか。

しかし数ヶ月もすれば問題は解決する事を、二人はまだ知らない。
恋をして本を読む暇が少なくなってしまうなんて、きっと想像もしていない。


2009/12/03
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