伴侶
俺がクラピカを好きだと自覚したのは、そんなに遅くはなかった。
好き、イコール、やりたい。きれいごと抜きで言えばそういうことだ。
なのに、まさか、こんな・・・色気のかけらもない少年みたいな女を好きになるなんて。
俺の理想の女のタイプとは正反対。
俺はほんとにコイツを抱きたいと思ってるのか?
長すぎる禁欲生活のせいで(ハンター試験にナイスバディの美女はいなかった)、
ちょっとかわいい子なら誰でもいいと思ってしまっているのではないか?
何度もそう思った。
それでも時折見せる笑顔に心奪われたのは事実だし、ナイスバディとはお世辞にも言い難いが、
とびきりの美人だし、まだ17歳、女らしくなるのはこれからだ。
そう思い、俺は自分の気持ちを受け入れて、彼女にも伝えようと思った。
ただ、そのタイミングを見誤ったら気持ちが通じ合うことなんてないと感じた。
俺にもクラピカにも、やるべきことがあるから。
好きだから一緒にいましょう、ではなかなかうまくいかないのが現実。
俺もクラピカも、平凡な人生とは程遠かった。今の時点では。
それでも俺はクラピカが好きだった。
最初の出会いからあっという間だったような、何年もたっているような。
そんな時間の感覚の中で、クラピカは復讐を遂げて、目的を果たした。
きっと彼女はそのまま死ぬつもりだったのだろう。
本当のところはわからないけれど、少なくとも俺はいつもそう感じていた。
意志の強さを感じさせる瞳の奥には、いつも孤独と絶望が混じっていたから。
そんなことは俺がさせない。
おこがましいかもしれない。
けれど、惚れた女一人守れなくて、どうして人の命を救えるんだ?
何よりクラピカに死なれたら俺が困る。さみしいじゃないか。
誰が怠惰な俺の生活を叱ってくれる?時には酒に酔って愚痴を言い合いたいじゃないか。
相手なんて何人もいる。けれど、そんな俺の話をクソ真面目に聞いて、
痛いくらい的をついた小言を言ってくれるのなんて、クラピカしかいないじゃないか。
ゴンとキルアだって悲しむ。そうだ、おまえは一人じゃないんだよ。
こんなにいい奴らに思われてるのに、どうしておまえは自分の価値を軽く見るんだ?
「やっぱり私は、あの時一緒に死ぬべきだったのかな」
俺のもとに帰ってきたとき、クラピカはそう言った。俺の顔を見ずに。
じゃあなんで、おまえは今ここにいるんだよ。これからも生きたいからだろ?
だから俺は叱ってやった。
空港が近い、冷たい風が吹くだだっ広い公園の端っこで。
向かい合い、クラピカはただ立ち尽くして、俺はしっかり地に足をつけて、
時がたつのを感じずに何分も何分も叱ってやった。
クラピカはずっと下を向いていた。
ひとしきり言いたいことを言って、大きく息をついて、最後にこう言った。
おまえは生きてていいんだよ。俺様が許可してやる。
クラピカがやっと顔を上げた。俺の顔を見る。俺はいつも通りの笑顔を心掛けた。
けど、やっぱり少し、目頭は熱かったように思う。
そんな俺の複雑な表情に、クラピカはあきらめたように笑った。つられたのだろう。
よかった。俺が陽気で明るいナイスガイで。
すっかり薄暗く、最初から誰もいなかった空港の近くの公園で、ふたり抱きしめあった。
なつかしい、この身長差。相変わらずいい香りがする。なによりあたたかい。
クラピカには生きててもらわないと困る。惚れた女を幸せにしたいから。男なら、そう思うだろ?
なにより、クラピカがいないと、俺自身が幸せになれない。離れる時間が増えるたびに、そう実感していた。
結局は、俺の自分勝手な、わがままなんだ。
これからもそれに、つきあってくれよ。
どうせなら一緒に幸せになろう。
2017/11/28
「伴侶」なんて言葉はそうそう日常で使いません。ずっと一緒にいてほしいふたりですね。
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