モノで繋がる絆もある。
生きてる証
オレは医大生。
ケイトは音大生。
ケイトはいつもオレを迎えに来てくれる。
いつものベンチに座って、飽きもせず楽譜を眺めていた。
2階の窓からそれを見つけて、気が緩む自分がいる。
もう夜7時。
やっと帰れる。いや、やっと会える。
「おっそいよバカ」
「うるせー」
「おなかへったよ」
同時に聞こえる小さな腹の虫。
オレは苦笑してケイトの手を握った。
放課後のこのわずかな時間、ケイトとデートするのが日課だった。
しかしお互いやっぱり忙しいから、多く会えるわけじゃない。
すれ違いも、多い。
放課後デートは決まって街をぶらぶらするだけ。
金もない、時間もない二人にとって、これが精一杯。
それでもケイトは楽しそうに笑ってくれてる。
不満は無いのか
オレでよかったのか
その笑顔の裏にそんな気持ちがあるのか、知るすべはない。
オレがトイレから戻るとケイトは腰を屈めて何かを熱心に見ていた。
ペアの指輪だった。
高くも安くもない、雑貨屋においてあるごくごく普通の指輪。
後ろから近づいたオレにはそのときのケイトの顔を見ることが出来なかった。
「ほしいの?」
「あ・・・おかえり」
「それ」
「・・・べつに?」
こういうときに素直に「買ってほしい」と器用にいえないケイトをかわいく思う。
思えばケイトがオレになにかをねだったことはなかった。
「どっちがいいの?」
「・・・こっち」
気まずそうに目当ての指輪を指差したケイト。
まったく
かわいい。
「ピアノ弾くのに邪魔じゃない?」
「そんなことないよ」
ケイトの左耳には痛々しい数のピアスが今もある。
”生きた証”らしいので
死ぬまではずさないらしい。
この安っぽく光るペアリングも
ケイトの”生きている証”なのだ。
以前の拍手御礼ネタを再アップ。
2010/04/01
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