眠りにつく直前いつも思う。
大切な人なんて最初からいなければいい。
そうすれば失う悲しみとも無縁でいられる。






かえる







「ねえクラピカ、きみは大人になったら、どうするんだ?」
「私は・・・母上のような知的な女性になりたいのだよ。
それとそうだな、いるはずもないだろうが父上のような殿方がいたら、結婚してもいい」
「ふーん?ぼくは、とにかくつよくなりたいな。この村を守れるくらい」
「あ、あたしはね!あたしは、お母さんみたいにお料理でみんなを幸せにしたいの!」




懐かしい。
懐かしいというよりうつろな記憶。
気持ちのいい風。大切な家族に友達。

当たり前だった幸せに浸っていた瞬間、いつも目が覚めるのだ。
最近、昔の夢ばかり見る。
思い出すのはつらかった。


つまりは生きていくのがつらかった。
夢を見るたび自分の弱さを実感する。


嫌な汗をかいていた。
気持ちのいい春だというのに、肌は梅雨の湿気をまとったような不快感を感じていた。
起き上がるのもつらい。
隣にはレオリオがいつものように眠っていた。いつものように、本を片手に。
私が眠ってから、隣でいつも本を読んでいることを、私は知っていた。



いろいろな思いが頭の中で交錯する。
そんなときはいつも決まって俯き、額に手を当てる。




「・・・なんつー顔してんだよ」
いつの間にかレオリオは起きていた。起きぬけの声はかすれていた。

「どんな顔だ」
「この世が終わりそうな顔」
「・・・そうか」


不思議だ。
レオリオが隣にいてくれるだけで、心がやすらぐ。
直に感じる体温。やわらかい空気。彼はかけがえのない人だった。


”きみは大人になったら、どうするんだ?”
大人になった今の私は、どうすればいいんだ?
大切な人なんて最初からいらない。また失うのが怖い。
でも一人でなんて、生きていけない。









この日は私の誕生日だった。
あの後、ベッドから出る前に、そろそろ一緒になろうか、と言われた。
言葉は出なかった。代わりに何時間も、そのまま触れ合っていた。
目を合わせた。そしてやっと私の口から出た言葉に、レオリオは笑ってくれた。



「天気がいいとなんでこう、意味も無くワクワクするんだろうなあ」
部屋に食料は無く、買出しに出かけた道の途中レオリオがふとつぶやいた。
ワクワクする。確かに。



幸せな今を生きることに一生懸命になりたい。



2010/04/04 Happy birthday Curarpikt.




生き方を変える。一緒に帰る。今年は「かえる」誕生日です。

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