道筋
ボスの――ネオン・ノストラードのもとへ向かう途中だった。
ヨークシンの入り組んだ裏道は徒歩の方が早い。
無駄なことはいっさいせず、考えず、つかつかとただ歩いていた。
夜でも明るい大きな道路とは違って、こちらは街灯も少なく「治安がいい」とは言えない人相の人間が目立つ。
ふと呼び止められた。
その声が私に向けられていることは、周りに私以外がいなかったことで確認できた。
足を止めると、歩道の端、ビルとビルの間の隙間に隠れるように、小さなテーブルを構えた占い師がいた。
全身黒ずくめで、顔はよく見えないが声の感じからして老婆のようだ。
いつもの私なら、声をかけられたとしても目に留めることすらない。
だが今日は、なぜか立ち止まってしまった。
「どれ、占って差し上げましょう」
老婆の手元に置かれた水晶。
確かに感じた。強いオーラ。・・・念能力者だ。
「私のなにがわかるというんだ?」
歩くのを完全にやめて、向き直った。
「手を見せていただけますかな」
黒ずくめの中から、老婆はしおれた手を出した。
おもしろい。何かあってもとっさに反応できるくらいの力はある。
カウンターをくらわせてやる。
鎖の巻きついた手を老婆に向けて差し出した。
ジャラ、という音はもはや私の体の一部だった。
「どれ」
手と手が触れた瞬間に、すべて見透かされたような、そんな悪寒がした。
「・・・あなたは、極端に相反した運命のもとに生まれたようですね」
「・・・なに?」
「最大の喪失と最愛の人は、切っても切れない関係にある・・・皮肉なものです。
ただ、少なくとも」
「・・・」
「あなたは幸せになりますよ」
一瞬老婆と目がった。
すぐにそらして、手も下げた。
進行方向に向き直り、鼻で笑った。
「私は幸せになんてなれない。とんだ見込み違いだ」
財布から適当に札を取り出し、テーブルの上に放るように置いた。
「では」
もう後ろは振り向かなかった。
私にはやるべきことがある。
個人の幸せなんて、今の私にはどうでもいい。
ただ、心に引っかかる消せない思い。
未練がましい思い。女には戻れないのに。
おせっかいに笑うレオリオの顔が、頭から離れなかった。
2011/09/01
「9月1日、ヨークシンシティで」。
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