「うーん・・・まずい」





2倍になった生活費





「なんだ、便秘か」
「アホかちがう」
「どうした」
「・・・通帳残高が」


レオリオはさっきから背中を丸めてうんうんうなっていた。
クラピカが背後から覗き込むと、くたびれた通帳が。


「まー、当たり前っちゃ当たり前なんだよなあ。一人が二人になったんだ。そりゃ生活費も倍になるわな」

いくらクラピカがもともと質素な暮らし(?)をしていたからといって、やはり生きていくためにはお金がかかる。
同居を始めて数か月、貯金は底をついてきた。

「うーん・・・オレもこれ以上バイト増やすわけにはいかねーし・・・」
「わかった。では私がバイトを増やそう」
「えっ」
「なにを驚くことがある。心配するな、成績が下がることなどありえない」
「・・・あっそう。で、どっかアテはあるのかよ」
「うむ。それが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!!!?」








どの土地にも歓楽街というものは存在する。
夜になるとピカピカと楽しそうに光り出すいくつもの店。
オレは個人的に楽しむために来たんじゃない。

クラピカはあろうことか
ホステスのバイトを始めた。
知らない男にぴったり寄り添い、気分よくお酒を飲むあの仕事である。
オレは耳を疑った。

「おま・・・・っ、おまえ、バカにもほどがあるぞなにいってんだ」
「現実的に考えてみろ。それが一番手っ取り早い方法だろう」
「そりゃ・・・そう・・・だけど」
「な」
「おまえにはプライドってもんがねーのかよ」
「ふっ。そんなもの、今の私たちの現状を考えればカスのようなものだ」


オレは心配で仕方がなかった。
浅い付き合いだが、クラピカはそんな仕事はぜったいに嫌いなはずだ。
それを自分からやると言った。
そりゃあマジで金銭的にはやばい。
でもそれだけだ。
オレとしてはクラピカをそんな目にあわせるくらいなら、睡眠時間を削ってでもオレのバイトを増やすつもりだった。


クラピカに見つからないよう適度な変装をして客として店に入る。
・・・いた。
「・・・・」

やはり高校生でも女は女。
化粧をして、ヒールをはいて、上質な服を着ればいくらでも大人びる。
正直に言うと
かなり
きれいだった。


クラピカは奥のテーブルでスーツ集団を相手にしていた。
耳をすませてみる。
「いや、君ほんときれいだね。いつ入ったの?」
「つい先日です」
「ラッキーだなあ、初めてきた店でこーんなきれいな子に会えちゃうなんてー、なあ?」
適度に盛り上がっていた。普通の光景である。
だが少なくともクラピカの顔はひきつっていた。


オレはがまんがならなかった。
別に付き合っているわけでもなく
他人であることは確かなのだが
まるであいつの父親のような
そんな気持ちになってしまった。

クラピカが席を立ったのを見計らって、店にばれないように彼女を外へ連れ出した。


「いったいどういうつもりだレオリオ」
クラピカはひきつっていた顔をさらにこわばらせてオレに詰め寄る。
普段とあまりの雰囲気の違いに
いくら怖い顔をしても、かわいいだけだった。

「やっぱさあ、やめてくれよこんなバイト」
「・・・なぜだ」
「おまえだって、嫌だろ」
「好き嫌いの問題じゃない」
「オレが嫌なんだって!」


クラピカは目を丸くしてオレを見た。
そうだ
なんか嫌なんだよ。
こいつが他の男に接待してるところなんて。


「・・・レオリオ」
「な。もうさ、いくら極貧でもいいからさ」
「・・・わかった」


クラピカは、オレでさえまだ気付いていない気持ちを悟ったのかどうかは知らないが
素直に了解してくれた。

オレはいったいいつからこんな女々しくなっちまったんだろう。





そして後日。
「もーこうなったら徹底した節約だ」
「ああ」
「電気はつけない!ロウソクで過ごすぞ」
「了解」
「トイレも使うな!外でしろ」

直後にオレはひっぱたかれて、結局やりくりはクラピカがしてくれることになった。



金は幸せの基準になる。
オレもそう思う。
けれど、ないならないでどうにでもなることはあるんだと
ふと思った。




ギャグですよ。ええ。ギャグです。細かいことを言わないのがお題に挑戦するルールです!!(言い訳)
2011/4/16