ONLY YOU



それは本当に偶然だった。
クラピカと歩いているとき、友人の一人と会ったのだ。
彼は俺と同じく(言っててむなしい)無類の女好きで、よくこの女優があーでもないこーでもないと、くだらない話で盛り上がる。

ソイツは俺に彼女がいることは知っていたし、見てみたいとも言っていた。
それは方言の一つであることはわかっていたから、俺も適当に「そのうちな」と返した。

それがこうして不可抗力として実現したわけである。
隣のクラピカにそっと目配せをして、彼といつも通りの挨拶をかわそうとした。
しかし。なんだ、その顔は。

「れ、レオリオ・・・おま、」
「なーんだよ、せっかく会ったってのに」
「おま・・・その子は、彼女か?」

信じられない、という面持ちで、彼はクラピカを指差した。

「ああ、まあな。どーだ、美人だろ?」
得意げにクラピカの肩を抱いて紹介する。
するといきなり彼に腕をつかまれて、クラピカを後ろ目に耳打ちされた。

「おいっっ、聞いてないぞ!」
「なにがだよ、言っただろ?彼女いるって」
「そーじゃねえ!は、はは反則だろ!」
「は?」
「レベル高すぎるだろ・・・!!」

何を言われるかと思ったら。
俺は目を丸くした。

「おまえ、マジか?!マジであんな美人か彼女なのか?!」
「あ、ああ」
「信じられねえ・・・!ど、どどどうやって落としたんだよ。教えろ!」
「あー、まあそれには長い道のりがだな・・・」

一人取り残されたクラピカは、いぶかしげにこちらを見つめている。
自分が話題にされているとも知らずに。
そして俺はあることに気付いたのだ。


・・・


クラピカが美人でかわいいことは百にも千にも一万にも承知のことだったが、
一緒にいることが当たり前すぎて、客観的に見ることができなくなっていた。
「クラピカは今日もかわいいなあ。きれいだなあ。うんうん」
こういう自覚はあるものの、周りの男がどう思うかなんて、考えたこともなかった。

家に帰り、部屋着に着替えるクラピカを見つめながらふと思う。
こんないい女、故郷では見つからなかった。俺の国では、日に焼けた健康的な小麦色の肌で、豊満なスタイルの女が美しいとされていて、俺もそう思っていた。
そういう女の方が色気があるし、実際かわいい子もたくさんいた。
けれどクラピカは次元が違う。
人種が違うから、とかいう問題でもない。

街を歩けば絶対に人目を引くのだ。
特別着飾っているわけでもないのに、だ。

俺も最初はその視線を感じて、いつも鼻が高かった。
けれどあまりに一緒にいすぎて、それが当然になりつつあった。俺の彼女、今日もかわいいだろ?そういう感じだ。

ほんの一瞬だけ、こんな美人と俺が釣り合うのか?などとバカなことを考えてしまった。今更だ。
けれど着替え終わったクラピカと目があって、そんなくだらない思考は一気にはじけ飛んだ。

「なんだ、レオリオ。さっきから人のことをじろじろ見て」

クラピカは呆れたようにそう言って、俺の隣に腰をおろす。
その距離は近い。まるで飼い犬が主人に寄り添うように、クラピカは俺の腕に顔を寄せた。

今となっては当然になったスキンシップ。
俺もいつも通り軽く肩を抱いて談笑すればいいものの、どうしてもクラピカから目を離せない。

「だからなんだ、私の顔に何かついてるか?」

そうやって形のいい眉をしかめる仕草さえ、芸術的だと思ってしまう。
なにをどうしたらそんなにかわいい角度になるんだ。
美人の条件は「左右対称」だと聞いたことがあるが、クラピカは完璧すぎる。
人間だれしも顔に癖がある。右の眉が短いとか、左目だけがつりあがってるとか。
きっと俺も、自分ではわからないがあると思う。
けれどクラピカにはそれがない。ないんだよ!信じられるか?!
ああ・・・コイツの親の顔が見てみたい。いったいどんな両親だったんだ。
それともクルタ族はみんなこんなにレベルが高かったのか?

そんなクラピカが、俺のそばにいる。
キスをしたり抱きしめたりすれば、好意的な反応が返ってくる。

俺を見上げるクラピカの頬を軽くつねってみる。
やわらかい。かわいい。あー、だめだ俺、もうだめだ。クラピカおまえ、マジ天使。
そのまま感激していると、クラピカも俺の頬をつねってきた。
たまらずそのまま抱きしめる。もう声が出ない。クラピカは息を漏らして、それでも腕の中からは嬉しそうな抗議の声が聞こえた。
抱きしめるとより実感する、細い体。その曲線美は見ても触れても楽しめる。
さらさらと細い髪はいい香りがする。髪は女の命だもんなァ。

ああ・・・幸せだ。
なんだかいろいろ考えてしまったが、クラピカは外見は完璧でも、中身はそうでもない。
だがそれがいい。少しくらいじゃじゃ馬な方が、楽しいんだ。
頭がいい。知識もある。けれど天然なところがあるからどこか抜けて見える。それがかわいい。
いつまでたっても男に慣れない。限界まで気丈なところを保つから、それが逆にエロい。
あ、やっぱ完璧だわ。文句のひとつもねーわ。減らず口憎まれ口をたたくとか、すぐ理詰めにするとか、そういう短所はどうでもいい。

・・・どんだけコイツに惚れてんだ、俺・・・。
や、しかしだ。これだけ言っといてなんだが、俺はクラピカの完璧な外見だけが好きなわけじゃない。
全部だ、全部。全部。自分でも笑ってしまう。
周りの男に自慢できたり、一緒に歩くたびに見せびらかしたくなるのは、やっぱり独占欲から来るものだと思う。
けれどクラピカはモノじゃない。そんな優越感はオマケみてーなもんだ。
本当のクラピカを知っているのは、俺だけでいいのだから。

一緒にいて腹が立つことなんて腐るほどある。
しかしそれ以上に幸せなんだ。
こうして触れ合っていることが。

「・・・レオリオ、今日は上の空だな」

しばらくして、クラピカが顔を上げた。
クラピカは俺を、どう思っているのか。
俺がクラピカをこんなに好きでたまらないのと同じように、いろんなことを考えているんだろうか。
持ち前の頭の良さで、俺よりもいくらも早い処理速度で、男としての俺を値踏みしたりしてるんだろうか。

頭の中がクラピカでいっぱいになる。
もともと考え込むのは好きじゃないから、すぐに我慢がきかなくなる。
そういう時はこれに限る。

「クラピカ」
「ん」
「やるか」

返事を待たずに、そのままベッドにダイブした。




うわあああクラピカァ!好きだ!・・・ていうお話です。
ほんとクラピカちゃん天使。けど天使な笑顔はレオリオにしか見せませんッ!
2014/03/27

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