結姉ちゃんの帰りが遅いのは最近では当たり前になった。
なんだか、人が変わってしまったように無口になった。
うるさいほど自分のこと、学校のことをぺらぺらと嬉しそうに話していたのに。

そして今日、ついに10時になっても帰ってこなかった。
僕と母さんは8時前にとっくに夕飯を食べていた。
9時。まだ来ない。姉ちゃんはどんなに遅くても9時までには帰ってきていた。
母さんは父さんに電話した。僕は電話を終えた母さんに目配せをする。すると、
「5分で帰ってくるって」。
そしたら本当に5分で、息を切らせて帰ってきた。道路に新幹線でも走らせたのだろうか。

「結はまだ帰らないのか」
「さすがに心配ね」
「お、おま、心配どころか事件だ!!」

ああだこうだとしている間に10時になった。父さんはご飯も食べずに着替えもせず、落ち着かない様子だった。
それは僕も母さんもだが、父さんは明らかに気の毒なくらいわかりやすい。

ふとつけっぱなしになっていたテレビからニュースが次々と流れてくる。
女子中学生が誘拐された。交通事故に遭った。変質者が出没した。まるで狙い撃ちのように不吉な話題ばかりだ。
僕と母さんは目を見合わせる。そして同時に父さんの方を振り返った。ああ・・・・やっぱり。
顔の前に組んだ手は震えていて、顔からはみるみるうちに血の気が引いている。と同時に勢いよく立ちあがるとそのまま玄関を飛び出した。
母さんがそれを追いかける。

「ちょ、どこ行くの明彦」
「警視庁だ・・・」
「なっ、」
「考えたくはないが、考えたくはないが、と、と、とにかく一刻も早く捜査本部を立ち上げないと」
「ちょ、待っ、私も行くから!」
「ぼ、僕も」

無茶苦茶な運転をする父さんと、それを咎める母さんを後部座席でひやひやしながら見る僕は、
いきなり捜査本部なんて立ち上げられるのか、それだけが疑問だった。

・・・

本庁の真田さんのご令嬢が行方知らずだというとんでもない情報が入ってきた。
一向に進展のない捜査続きの連日、やっとの帰り間際にとんでもないタイミングである。
彼との面識は数えるほどもなかったが、市民が行方不明という事実は変わらない。
どうにも事を大きくしようとする彼を説得して、まずは捜索願の提出をお願いした。
そしたら怒鳴られた。そんな悠長なことをしてる暇があるか!と。気持ちは分からなくはない。
すると彼は通信指令課に飛び込んだ。そして都内の全パトカーに通じる警察無線のマイクに突然、緊急配備指令を出した。俺は開いた口がふさがらない。
「とにかく女子中学生を見つけたら保護しろ!俺の娘だ」
あまりにも広範囲な命令。なんてめちゃくちゃな人だ。
そのあと、彼女は無事に交番で保護されたことを聞いた。やれやれだ。