ココアにハイミルクを
冬の夜が好きか嫌いかという話ではない。
こういう状態が重要なのだ。
一緒に帰れる数少ない放課後、互いに部活を終えて帰るときには真っ暗になっていた。
周りの生徒はまばらで、巌戸台駅を降りて寮に向かうまでの道は正直心もとない。裏通りで、街灯が少ないのだ。
車が通らない限り、まさに一寸先は闇という感じだ。加えて寒い。朝と夜は急激に冷え込む。
プシュ、と缶を開ける音が暗闇に響いた。馨がそれを口に運ぶのと同時に、甘い匂いが俺のもとにも届く。
「なんだ、ココア買ったのか」
駅前の自販機で何やら買っていたのはわかったが、暗い道でそれを確認することはできなかった。
特徴ある香りだけでココアだと判断できた。
「はい!ちゃんとあったかいやつです」
それはなんとなくわかった。冷たい空気に運ばれてきたにおいはあたたかそうで、甘そうだ。
馨は今年初めてのマフラーに顔をうずめて、冷え切った手を缶で温めながら美味しそうにココアを飲んでいた。
もう少し明るかったら、ちゃんと見れたのに。毎日のように隣にいてくれるが、同じ日なんて二度とない。
「先輩、飲みます?」
「・・・じゃあ、もらっとく」
一瞬考えた末に缶を受け取る。皮手袋越しだったが、あたたかさは充分伝わった。
甘ったるい液体をひとくち含むと、心なしか落ち着いた。普段は美味しいとは思わないものなんだが。
「寒い時のココアって、いいですよね」
それを察したかのように、馨は嬉しそうに笑っていた。
なんだか腑に落ちない気がして、缶の中身を一気に傾けて口に運ぶ。
「すまん、終わった」
空っぽになって熱を持たなくなった缶を逆さにした。もちろん何も出てこない。
それを見た馨の顔と言ったら。暗がりでよく見えないのは相変わらずだが、かわいそうなくらい残念な顔をしたに違いない。
「・・・」
「おまえがくれたものを残しちゃいけないと思ってな」
「全部じゃないです・・・」
いじけたような、弱々しい声が聞こえた。
思わず、つい、いや計算か。隣の馨の肩を抱き寄せた。
「全部、くれないのか?」
半分は確信犯、半分は本気だった。からかうつもりも困らせるつもりもない。
「俺はおまえの全部が欲しい」
馨は人前で必要以上にくっつくのを嫌っていた。よくいる周りの見えない高校生カップルのように。
俺だって別にそうしたいわけじゃない。・・・むしろ困る。だから助かる。
ただ、一緒にいるとなんとなくそういうのがわかる。
けど、今くらいならいいだろう。何事も経験だ。
周りには誰もいない。街灯もない。こうして寄り添う方が、いろいろ安全だ。
歩く速度を緩めて、自然に立ち止まった。馨にもそれを促す。
そしてわざとらしく、馨のつめたくなった耳元に口を寄せて静かにつぶやいた。
「ダメか?」
近くに感じていた彼女の肌の冷たさは一気に熱を持って急上昇する。
それがかわいいと思ってしまうのは、いけないことだろうか。
「・・・・・・・ココア以外なら・・・全部、あげますから」
からかうつもりも困らせるつもりも、それが聞きたかったわけでもない。
いや、全部カッコつけの建前かもしれない。要は、俺が馨を好きすぎるんだ。
2011/10/28
うわああああ冷たい冬でも熱い男・それが真田先輩なんですね。そうなんですね。
私の過度の妄想ではなく実際こういうイベントがありそうなところがいちばん怖い!(爆笑)
おそれいったぜ!暗闇でセクハラとはなんて恐ろしい男だ・・・!(このセリフを何度ここでつぶやいたことか)
砂糖よりも甘いシリーズ改め恐ろしい男シリーズにした方がしっくり来る気がするな!
季節ネタです。最近朝夜が寒すぎるので。女主ちゃんの髪型で大きめマフラーだとすごい萌えます。