ちゃんと私を連れてってくれる、そんなキミなんだよね。




基準点




てくてくてく。

彼の行動を表す擬音語のうちの一つ。
特別歩くのが速いわけじゃない。けどその行動には無駄がない。まるで真田先輩みたいだ。
いつもと同じようにポケットに両手を突っ込んで、(きれいな突っ込み方だと思う)一定のリズムで歩いていく。

私はそれについていく。隣を。たまに(信号の歩き出すタイミングに遅れたときとか)後ろを歩く。
私のリズムが変わっても、彼のリズムは変わらない。
何色にも染まらない。それが有里湊だと、私は思う。
だから、こうしてつきあっていても彼が私色に染まることなんて絶対にないと思う。べつにさみしくはない。
むしろ、そういうのって「重い」って考えちゃうところ、私も彼も似てるかも。彼はどうだかわかんないけどね。
それを考えると、真田先輩とか無頓着な分、本気になったら「重そう」だなあ。それは順平も前に言っていた。
まあ、軽い真田先輩なんて見たくない。ていうか似合わない。

人のことは置いといて。
私と彼の気持ちが軽かろうが重かろうが、それはあんまり関係ないと思う。
こうして一緒にいてくれる事実が大事だと思う。とは思ってみる。けど女の子の気持ちはそんなに物わかり良くないのが、実際なんだよねえ。

「・・・もう!はやい!」

耐え切れずに口に出した。
私がピタッと止まると、彼も止まって私を振り返った。
その顔は、どうして私が止まったのかなんてどうでもいい、って感じで。
まあ、いつものことなんだけどさ・・・。

「置いてかないでよ!」
「え?」
「・・・もう少しゆっくり歩いてよ」

なんだか私がわがままを言ってるような気がして、少し腰が引けた。
当然の主張は彼の前では無意味だった。

「・・・ああ、」

彼は初めて表情を少し変えて、(少しだけ目を見開いた)おもむろに手を差し出した。

「じゃあ、はい。手つなごう」

照れも何も感じない、いつもの調子で。私も自然に彼の手のひらに自分の手を重ねた。
やっぱり少し大きいや。

「・・・」
何事もなかったかのように歩き出す。私も一緒に歩き出す。歩くスピードは同じになった。
なんだか急に照れくさい。思わずうつむいた。と同時に彼の声。

「言わなきゃわかんないよ」

顔を上げると、また少しだけ表情は変わっていた。
まるで、難しいクイズの答えを悩みに悩んで結局あきらめたときのような、微妙な笑顔。

「俺鈍感だし」
「じ、自分で言う!?」
「だから今度はしたいならしたいってちゃんと言ってよ」
「・・・うん」
「ゆかりはかわいいね」
「ちょ、今のバカにしたでしょ!?」
「してないよ」
「うそ!」
「しつこいなあ」


こんなかわいくない私をさらりとかわいいと言ってくれるのは、キミだけかも。




2011/10/28

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