本音と建前
もはやタルタロスなんてものが存在している以上、その中に何があってもおかしくない。
それにしても、媚薬の類は反則じゃないか。
タルタロス探索中にピンチに陥ることは、頻度は少ないがもちろんあり得る。
それが今日だった。いろいろ運が悪かったのだ。そう言わざるを得ない。厳密にはピンチの一歩手前か。ほんとのピンチになる前にその状況を打開しなければいけない。それがリーダーの役目でしょう。
「〜真田先輩!あれ!」
「どれだ!」
「さっき拾ったミステリーフード!」
「あ、ああ」
ゆかりの回復魔法を使ってもよかったんだけど、あるものは消費する。それも大事なことだと思う。先輩から受け取ったものを口にして、戦闘を再開した。それがなぜか見たこともない色の液体だったのは、気にしなかった。いつものアイテムじゃなかった。それを確認しなかったのがいけなかったのだ。
・・・
「おつかれーっす。あー、ねみぃ」
「馨、またあしたね」
「あ、うん・・・」
影時間のあけた深夜。寮に帰宅した面々は、いつも通りに階段を上って部屋に戻っていく。
私はみんなの背中を見送って、一人きりになったラウンジのソファに体を預けた。
・・・なんだかだるい。めまいもする。おかしいなあ、これくらいでへばるなんて。それになんだか、体が熱い。
「馨」
背後から聞こえたのは真田先輩の声だった。そういえば、寮の玄関の戸締りは先輩の役目だった。
どうしたんだ、と言いながら先輩はいつものように私の隣に座った。その目はいつもより少し鋭かった。
様子がおかしいの、やっぱりわかるんだな。
「・・・なんか、だるくて」
大丈夫です、とは言えなかった。心配かけたくなくて口癖のようになっていたけど、今いう言葉じゃないと思った。
どうしたんだろう、私らしくない。隣にかすかに感じる体温がやけに恋しくなって、そのまま先輩の腕にしがみついた。
いつもなら、安心する。けど今日は違った。逆に気持ちが昂る。あれ、なんで?
「熱は・・・ないな」
先輩は慣れた手つきで空いている片手の手袋を外すと、腕にしがみついたままの私の額にそっと触れた。
確かに熱はない。こういうちょっとした触れ合いだっていつものことだった。
なのに、おかしい。触られた箇所が一気に熱くなる。同時に体中の血が湧き上がるような感覚を覚えた。体の奥が熱くなる。
この高揚には覚えがあった。まだ2,3回しかしていないけど、セックスの時の感覚だ。ちょ、ちょ、ちょっと待って。おかしいでしょ。
なんで、どうして?どうしてこんなときにこんな場所で。しかも「そういう意味で」触られたわけじゃないのに。もしかして私変態だった?
「・・・馨?」
先輩は眉をしかめて私の顔を覗き込んだ。あからさまにおかしい私を本気で心配してくれている。
それなのに、そのまま抱き合いたくてしょうがなかった。
「具合悪いのか?」
「・・・そ、ういうわけじゃ・・・ないです」
「・・・変なものでも食べたのか?」
その言葉に、つい1時間前の記憶がよみがえる。
誰にも言わなかったけど、あの戦闘の後――いつもと違う回復アイテムを口にした後から、違和感を覚えていた。そして今に至る。
そういえば、いつかベルベッドルームでテオが言っていた。タルタロスの中にあるものを口にしても、死に至ることはまずありません。
ですから安心して探索してください。しかし少々やっかいな副作用が出ることも稀にありますから、そちらは自己責任でお願いします。
副作用の内容、ですか?そうですね、私でよければいつでもお相手して差し上げますよ。貴女に教えられることがありますから・・・。
点と点が線になった。・・・やられた。媚薬だったなんて。そりゃ死ぬよりはいい。けど女子高生にこんな仕打ちはあまりにもひどい。
ていうかテオもテオだ。なにがお相手して差し上げます、よ!冗談に聞こえないのが怖い。
いくら憤っても無駄だった。その分体が熱くなるだけだ。頭がくらくらしてきた。何よりも、こんな醜態を先輩の前でだけはさらしたくなかった。
せっかく、せっかく大事にしてきたのに。大事にしてもらったのに。こんな私を、先輩は嫌いになるに違いない。
けど、そんな不安は理性とともにどこかに飛んで行ってしまった。頭と体のバランスがとれなくなって、すがるように先輩の胸に頬を寄せた。
急に近づいた距離。それが嬉しかった。この距離じゃないと感じられない彼のにおいが私を満たす。もちろんそんな私の気持ちを、先輩は知る由もなく。
隙をついて、というのは変だけど、たまらなくなってそのままキスをした。
先輩が目を見開いて驚いているのが、肌にあたるまつ毛の感触でわかった。けどそんなことは関係なかった。
腕を伸ばして先輩の首にかいがいしくしがみつく。唇の角度を変えて舌を絡ませようとすると、ぎこちなくそれにこたえてくれた。
それが嬉しくて、体の奥がうずいた。
生温い感触が気持ちいい。次第に呼吸がせわしくなる。すると、そっと顔を離された。自然に、違和感なく。
先輩の首に回した腕も、それとなくほどかれた。
「・・・どうしたんだ」
先輩は動揺した声を出した。そういう先輩こそどうしたんですか。そう聞き返したくなるくらい、困った顔。けどその顔に嫌悪感は見当たらない。
どうしていいのかわからない。そんな感じだった。質問には答えなかった。代わりに静かに腰を上げて、
何も言わずにソファに座る先輩の上にまたがった。もちろん止められる。けど私を止めるその腕に力は入っていなかった。
そのまま体重を預けると、長いソファに彼を押し倒す形になった。この光景は、初めてだった。
「お、おい!」
「・・・だめですか?」
「そ、そうじゃない!」
「よかった」
再び唇を重ねようとすると、とっさに止められる。
「落ち着け!」
「無理です・・・」
阻まれた手をかわして、今度は首筋に頬を寄せた。
密着した先輩の体が、ビクッと反応した。
「わ、わかった!わかったから・・・」
先輩は焦ったように、しかし疲れ切ったようにそう言って、私の肩をつかんで体を起こした。
・・・俺の部屋、来てもいいから。珍しく歯切れの悪い言葉に、私は小さく頷いた。
・・・
見慣れた、とは言い難いけど入るのに抵抗がなくなった彼の部屋。まず先輩が入って、私が後に続いた。ドアを閉めて、後ろ手に鍵を閉めた。
カチッ、という音が先輩に聞こえたかどうかはわからない。
「・・・で、どうしたんだ、いきなり・・・」
先ほどの動揺がまだ残っているような声だった。先輩は眉をしかめながら私を振り向いた。
ドアを背にして、私は当然のように制服のボタンに手をかけていた。すでに上着と大きなリボンは床に落ちている。
「、ば、バカ!なにやってんだ!!」
ボタンをすべて外し終える前に、両手首をつかまれてその手を止められてしまった。
仕方ない。そのまま先輩の手をそっと取って、はだけたブラウスの中にそっと忍ばせた。
下着をずらすようにして、直接その手を自分の胸に押し当てると、指先の冷たい感触がリアルだった。柔らかいふくらみが軽く圧迫される。
「なっ、・・・・・」
「ねえ先輩」
先輩は顔を真っ赤にして硬直している。「いつも」は自分から触ってくるくせに。
私はそれを肯定の意味で拒否して、促して受け入れる。それを言うと意地悪になるかな。
「やっぱり大きい方が好き?」
それは素朴な疑問だった。悩み、というわけでもない。ただ、聞きたくても聞けないことだった。
正直、美鶴先輩にはかなわない。・・・ゆかりにもかなわない。かろうじて風花といいとこ勝負、というのが私自身の見解だった。
大きくも小さくもない、何の特徴もない自分の胸を、好きでも嫌いでもなかった。でも、先輩には好きでいてほしい。
そのまま目の前の真っ赤な顔の彼を見上げて返事を待った。微妙な沈黙。先輩は我に返ったように慌てて手を離した。下着はズレたままだ。
好きな人の前で、それも自分からこんな恰好をすることは、恥ずかしくもあるし同時にすごく興奮した。
「・・・そういうのは、関係ないだろう」
代わりにやさしく抱きしめられる。いつもと同じように。そう、いつもはこれで満足だった。幸せだった。大事にされてるって思うから。
でも今は、やっぱりこれ以上を望んでしまう。
先輩の後ろはベッドだった。そう、厳密には2回、ここでセックスをした。ちなみに先輩の部屋を訪れたのはその5倍くらいだから、頻度としてはすごく少ない。
1回目を済ませれば会うたびにしたくなる、なんていうのを聞いたことがあるけれど、私たちは違った。
相性が悪かったとか、淡泊だとか、そういうのじゃない。むしろ幸せだったし、後悔なんてしなかった。ただ、好きすぎると踏み込めない。
体のつながりは大切だと思うけど、それよりも大切なことが私たちの間にはたくさんあった。それだけなのだ。
それとも、先輩はずっと我慢してくれてるのかもしれない。それが彼なりの誠意なのかもしれない。だとしても、女の私にそれを知るすべなんてない。
18歳の健全な男子の性欲なんて、女には理解できない。ただ、こういう特異な状態の今なら少しだけわかるかもしれない。これを我慢するなんて・・・体に悪い。
先輩になら、いくらでもさせてあげるのに。
密着した彼の体を、少しだけ後ろに押した。後ろのベッドに倒れこむことを促すように。
意外にも彼は素直に応じてくれた。下手に抵抗して予期せぬ怪我をしないように、との配慮だと思う。
二人分の重みを受けたベッドは、今日1日分のほこりをすべて吐き出した。
改めて言うが、この光景は初めてだ。私が先輩の上に乗るなんて、せいぜい寝ぼけたときくらいだと思う。それすらまだ経験していないし。
そういう初めての試みが、さらに私を昂らせた。きっと、今の自分の顔を見たら恥ずかしくて死んでしまうと思う。それを考える余裕すら、この時はなかった。
ちょうど腰の上あたりにまたがって、そのまま上半身を重ね合わせる。顔は上げたまま、じっと彼の目を見つめた。
求愛行動。これがいちばんしっくりくると思う。
一瞬先輩の目線が下のほうにずれたのを、見逃さなかった。ああ、たしかにこの角度は男からしたら反則かもしれない。
ブラウスの前は開いたまま。前かがみになった胸の谷間は強調されている。私のこれと言って特徴のない胸も、こうすれば少なからず武器になるわけだ。
スカートで心もとなくむき出しになっていた太ももの内側に、違和感のある感触を覚えた。服越しでもわかる。
熱くてかたい。反射的に私も腰のあたりが熱くなって、じわじわと蜜があふれて濡れてくる。これからされることを想像すると、もう止められないと思った。
目で訴えると、先輩はばつが悪そうに目をそらした。俺のせいじゃない。まるでそう言いたげだ。
むしろその反応は嬉しかった。だから、それなりの気持ちを表そうと思っただけなのに。
手を伸ばして腰のベルトに手をかけると、先輩は驚いたように体を起こした。もちろん私は先輩にまたがったまま。
どう考えても男性側にしてみればさっきよりも刺激が強い角度になった。
スカートは見事にめくれて、下手に動けないまま広がった脚と丸見えの下着。さすがに少し恥ずかしかったけど、今の私には好都合だった。
そういえばこういう体位もあるよね。座って向かい合って、って。したことないけど。私の薄っぺらい知識だとこれが限界。
目のやり場に困っているくせに、しっかりと視界に留めているところが年相応の男子といったところだろうか。
そんな先輩のきっちり締まった首元のタイに手をかけると、その手をつかまれた。やめろ、という意思表示だ。
「だめですか?」
「・・・そうじゃない」
「嫌ですか?」
「嫌なわけないだろ・・・」
やさしく抱きしめられた。肌が露わになっていた肩口に顔をうずめられた。深いため息が思ったよりも熱くて、思わず背筋が震えた。
「ただ、どうしていいもんか・・・」
わからない。
珍しく弱り切ったその声は、ぽつりとそう呟いた。静かな部屋の中に大きな鼓動の音が響く。
これはどっちの?はやくて力強くて、それでいて優しい。・・・先輩のだ。胸の奥が熱くなる。どうしてかはわからない。けど、どうしようもなく好きで、大好きで、愛おしい。それだけが確かだった。
せんぱい。小さく呼んで、顔を上げさせた。そのまま唇を近づける。鼻の先がわずかに触れた。
「だったら、先輩の好きなようにしてください・・・お願い、だから」
そのまま口づけようとしたけれど、先手を取られた。手首を取られて、口をふさがれて、さっきまでとは逆方向に、今度は私が押し倒された。
深くて激しい口づけに、体はどんどん過敏に反応する。唾液に濡れた舌が絡まって、あふれるのを抑えきれないように口元からしずくが流れ落ちる。
「ッ、・・・んっ・・・」
待ってたから、ずっと。私が一方的にするんじゃ意味がない。
自分じゃない薬の効果に侵されていても、それだけは譲れなかった。同じように求めてほしかった。だからずっと待っていた。
不本意にも焦らされた分、こうして体を合わせるとどんどん体の熱が高まってくる。
余韻の残った唇をそっと離すと、お互いの呼吸が少し荒い。それに構わず、先輩は切なげに目を細めてこう言った。
「まったくおまえは・・・どこまで俺を惚れさせれば、気が済むんだ・・・」
その瞳と声色は、私のことを求めていた。奥深くまで欲しいと。それを肌で感じて、さらに体の奥がうずいた。もう、・・・我慢、できないかもしれない。
私のその気持ちに応えるように、先輩は私の首筋にキスをした。その場所が溶けてしまいそうだ。
熱くて濡れた舌が肌をつたうと、その刺激の強さに思わず悲鳴のような声が漏れる。たったこれだけでこんなに感じてしまうのに、
この先を考えたらいったいどうなる?しかし先輩は考える暇さえ与えてくれなかった。いつもより少し強引だった。それはキスの仕方とか、
服の脱がせ方とか、触れる強さとかに表れていた。それが嬉しい。
やさしさと激しさを兼ねそろえた、卑怯ともいえる愛撫が、汗ばんだ太ももの内側にやってくるのに、そう時間はかからなかった。
「!、や・・・ぁ・・・ッ」
もう無理だ。これ以上は。おかしくなってしまう。きっと最後までしたら壊れてしまう。
わざと中心を触ってくれない。充分すぎるほど蜜があふれているのに。
それをやめさせたくて、首を横に振った。手首は掴まれてびくともしない。無意識に目に涙をためながら、ふるふると首を振った。
「も・・・お願い、やだ・・・ッ」
本当はやめてほしくなんかない。けれどやめてほしい。どうしようもなくて、助けを求める。
彼は形のいい瞳をまっすぐこちらに向けて、少し意地悪く笑った。
「・・・もう遅い」
同時に、一番触れてほしいところに長い指がそっと触れた。無意識に背中がのけぞる。
「だめ、・・・ッ、ふ、あぁ・・・っ」
くちゅくちゅと淫らな音を立てて奥深く飲みこんでいく。その刺激だけで、何度も果ててしまった。息が苦しい。目もかすんできた。
でも、体だけは敏感に反応する。快感に支配されていた。
「・・・は、ぁ・・・っ」
声にならない声は、必死に彼を呼び続ける。
それでもやめてくれないのは、やさしさなのか意地悪なのか。
「せんぱ・・・」
「ん・・・?」
「・・・も、だめ・・・おねがい・・・」
「・・・、俺も」
それが聞こえるのと同時に、すでに痺れきっていた内部に、一気に奥まで差し込まれた。
・・・
翌朝には、薬の効果――忌まわしい副作用は消えていた。ただ、恥ずかしすぎる記憶は消えていてはくれなかった。
消したい、ていうか消えたい。今すぐ消えたい。ああ、でも私が消えたら先輩に会えなくなるし、それはそれで嫌だ。
けどあんな迫り方した事実は消し去りたい。布団にくるまって悶々としていると、隣の先輩が起きた気配がした。心臓が飛び跳ねる。
・・・だめだ、顔、あわせられない・・・。そんな私の葛藤はむなしく、布団をはぎ取られて抱き寄せられた。裸のままなのに。おはよう、という大好きな声が耳に響く。
「どうしたんだ」
「・・・」
「昨日のおまえはあんなにかわいかったのに」
「!!!」
「惚れ直した、というのもおかしいかもしれな」
「やややややめてください!!」
冷静になって思い出してみる。・・・ちゃんと寝た気がしない。
1回じゃ終わらなかった。2回目は私が上になった。それがいつもと違う感覚だったことを、残念ながらはっきり覚えている。
腰のあたりがまだジンジンする。それどころか・・・・、・・・・、く、口で・・・・。それはさすがに夢だと思いたい。
しかしさらに残念なことに、口の中は今まで味わったことのない種類の苦みが広がっていた。
・・・わ、わ、私はなんてことを・・・!?もう、先輩のもとにすらお嫁にいけないかもしれない・・・!!
しばらく思考はストップした。なぜかこれからの身の振り方まで考えていた。それくらいの衝撃だった。
おそるおそる、先輩の顔を見上げる。胸に抱きしめられたまま、動きがなかったからだ。
予想外の、規則正しい寝息とあどけない寝顔。再び寝入ってしまっていた。
起こさないように顔を上げて時計を見ると、7時を過ぎていた。いつもならそろそろ着替える時間だが、今日は休日だ。
心底よかったと思う。さすがに探索後の・・・あの運動量は、いくら先輩でもきつかったらしい。
そういう私も体中が痛い。しばらく起き上がれなそう。・・・別の意味でも。
先輩が二度寝なんて、私の知る限りでは初めてじゃないか?
・・・貴重な寝顔だなあ。そんなのんきなことを思っていないと、再び頭がパンクしそうだった。
でも。ふと頭の片隅に思う。昨日の私は私じゃないけど確かに私だった。自分から求めたのも、素直に甘えられたのも、
普段は言えない本音だったのかもしれない。そう思うと少しだけ、また先輩との距離が縮まった気がした。
2011/10/31(11/12加筆修正)
女主ちゃんはすごいえろいと思う。健康的なえろさ。かわいさとえろさを同じくらい持ってる彼女は反則だ!
しかしそこが大好きだ!ちなみに今回の一番の問題点はテオの発言です。