more than love
「湊ってさあ、ゆかりッチのどのへんが好きなわけ?」
図らずもこのタイミング。部屋を出て、階段を降りているときだった。
1階のラウンジから順平の声が聞こえてくる。あわてて踊り場に身を隠した。たぶん、隠れてないんだろうけど。
なになになに、何の話してんのよこんな夜更けに。
堂々と降りて行っていつものように「なにくだらないこと言ってんのよ」と文句を言えばいいものの、できなかった。
いや、しなかった。要は聞きたかった。彼が私のどこを好きなのか。
「顔」
彼がどう答えるか、ドキドキする間もなくズバッと即答。思わず耳を疑った。いや、別に嬉しくないわけじゃない。
ただ、意外だった。しかしその続きは、「意外」というレベルを超えていた。
「あ・・・そ、そう。まあかわいいよな」
「あとは声も好き」
「ああ、まあな」
「あのつり目も好き」
「・・・チャームポイントだよな」
「短いスカートも好きだし」
「そりゃ俺も」
「寒そうな冬服でがんばってんのも好き」
「・・・へえ」
「おばけが苦手なのもかわいいし」
「・・・」
「わがままなのに素直な性格も好きだし」
「・・・・・・・」
「短気でよく俺を殴るのも、まあかろうじて好きかな」
「・・・・・・・・・・」
「あとは」
「えと、つまりゆかりッチならなんでもいいわけ?」
「それは違う」
「へ」
「いつまでも”有里”呼びなのが嫌い」
「・・・」
「それだけ」
それだけ。そう言って、彼はソファに静かに背を預けた。いつも通り、ポケットに手を入れて。
遠くからだけど、その表情は変わらないように見えた。
「・・・真田サンは・・・馨ッチのどのあたりが」
よく見ると、奥のソファには真田先輩も座っていた。どうやら男3人で恋愛話をしていたようだ。
流れとして一応聞いているようだが、思わぬ惚気攻撃(私が言うのもなんだけど)に順平は疲弊していた。
「有里には負けていられないな。ということで俺は馨の全部が好きだ!」
先輩は自信満々に言い切った。なぜ立ち上がったのかはよくわからない。
順平の顔を見るのがちょっとつらくなってきた。リーダーの方はやはり表情を変えずそんな先輩を見上げている。
「勝ったな。馨はちゃんと俺を名前で呼んでくれる」
「でも二人の時でしょ?」
「・・・まあ」
「ならギリギリアウトですよ」
「なんだと!?」
「勝つなら完璧に、でしょ?」
「・・・くっ」
「それにゆかりの方がぜんぜんかわいいし」
「なっ」
「胸だってゆかりの方がありますよ」
「形なら馨の勝ちだ!」
「ゆかりだって美乳ですよ」
「小ぶりのほうがきれいに見えるんだ。だいたい見たこともないくせに偉そうに言うな」
「修学旅行でちゃんと確認済みですよ。総合的にゆかりの勝ちです」
「お、おま・・・」
「見えちゃったんです、しょうがないでしょ。しかも事故ですよ、じーこ」
「その目をつぶしてやる!」
「今、俺の装備ペルソナ、スカディなんですけど」
「なにっ!?」
「まあ死にたいならかかってきてください。氷結ブースタのニブルヘイムを差し上げます」
「順平!応戦しろ、アギダインだ!」
「ちなみに火炎吸収ですから」
「火炎ガードキルだ!!」
「そんな暇ないと思いますけど」
「く・・・っ負けた、だと・・・!?」
「まあ負けを素直に認めるのも勇気ですよ」
「まだだ!色気なら馨の勝ちだ」
「・・・そんなの比べようが」
「ふん。負けるのが怖いのか」
「!!」
「美しき悪魔に勝てるわけないしな」
「汚いですよ!主人公ステータスを武器にするなんて」
「なんとでも言え!魅力MAXなのは馨の努力だ。ちょっと色目を使えば落ちない男なんてこの世にいない!」
「あ、それ、俺は例外ですから。ゆかり一筋なんで」
「!!」
「美しき悪魔の色目もカリスマオーラの前では無力ですね」
「おまえこそ卑怯じゃないか有里!」
「言いがかりです。それにゆかりと付き合うには俺の魅力MAXじゃないと不可能なんです。
それに比べてそっちはどうです?たかが”校内のアイドル”どまりでちちくりあってんじゃないですか!」
「・・・!!!」
「そこから判断されるのはゆかりの方がレベルが高いってことですよ」
「・・・こ、ここまでか・・・」
有里くんが――ううん、ここではあえて”湊”が、あんなに生き生きしてるのを初めて見た。
あそこまで必死でアホな真田先輩も、初めて見た・・・。
ねえ、馨・・・。
私たち、彼氏選び間違えたかも・・・。
2011/11/01
これも愛の形です!!(キッパリ!)