the best of love


「あれ、ゆかりー、コレって」

女子高生なら誰しも持っているプリクラの束の中に、一つだけ毛色の違うものがあった。
それを見つけて、馨は思わず手を止めて顔を上げた。
「え?あっ!ちょ、やだ!混じってた」
ゆかりは顔を赤くしてそれをパッと取り上げる。
「有里くんじゃない」
「・・・」
「隠さなくたっていいのに」
「だ、だって」
同性の自分にはなかなか見せてくれない照れ方だった。
そういう顔をさせられる有里くんがうらやましい。親友だからこそそんなことをふと思う。
それはゆかりも同じなのかもしれない。

「いいなあ、そういうの。しかもきれいに撮れてるし。ゆかりも有里くんも写真うつりいいよね」
「わ、私は撮り慣れてるっていうか」
「確かに!ゆかりプリクラ好きだもんね」
「でも彼は初めてなのに何気キメ顔できるんだよね。元がいいんだよねやっぱ」
ゆかりも馨も、彼が夜中にひとりでプリクラを撮りまくっているなんて信じがたい事実を、知るはずもなく・・・。
なんだか話は予期せぬ方向へ。

「やだー、ゆかりがのろけてる」
「な、なによー!馨だって撮ればいいじゃん、真田先輩と」
「・・・う」
「ああ、無理かー、真田先輩だもんね」
「な、なによそれ」
「あたし想像できないもん。真田先輩がプリクラ撮ってるとこなんて・・・ぷっ」
「わ、笑うことないじゃん!」
「ごめ・・・でも馨だって口元緩んでるよ」
「べ、べつに私は、か、彼氏とのプリクラなんて・・・いらないもん」
「あ、拗ねた」
「プリクラなんか撮れなくたって、先輩の方がかっこいいもん!」

この言葉に、両者の戦いのゴングが鳴った・・・ような気がした。
いつもは仲が良すぎるくらい仲良しの二人。
二人きりのラウンジ、のんびりした雰囲気が一変する。

「ちょ、それじゃ湊が写メ詐欺もといプリ詐欺してるみたいじゃん!」
「有里くんはたしかにきれいな顔してるけど、先輩の方が上だもん」
「か、馨!あんたそんな意地っ張りだった?」
「ゆかりこそ、事実をちゃんと受け止めなよ!」

「な、なにを持ってして湊が劣るっていうのよ!」
「モテ方」
「はあ!?」
「学力も運動神経も比べがたいけど、有里くんにはファンクラブなんてないじゃない」
「そんなもんなくたって湊はカリスマなの!」
「出た。主人公ステータス濫用」
「あんたが言う!?」

「ならその主人公二人にも劣らない真田先輩ってすごいんじゃない?それに背だって先輩の方が高いもん」
「湊だってあたしと並べばちょうどいいし!要はバランスよバランス」
「なら私もバランスとれてるもん。ちょうどよく」
「・・・そういや馨、背高いしね・・・」
「引き分けみたいね。ほら、次は?」
「つ、次?・・・マメさ!」
「!!」
「湊はああ見えてマメなんだよ。誕生日も記念日もサプライズしてくれたもん」
「な・・・」
「恋愛偏差値は湊の方が上みたいね」
「言い返せない・・・!今の装備ペルソナ、真理の雷継承した疾風吸収のミカエルなのに・・・!」
「ちょ、あんた仲間のあたしを殺す気!?」

「こうなったら最終手段!○○○の大きさで勝負よ!」
「!!、こ、この馬鹿ッ!なんてこと言うのよ、あんた女子高生だよ恥ずかしくないの!?」
「先輩のためなら私のプライドなんてゴミも当然」
「さっきの発言でゴミ以下決定だよ?!」
「ゆかり、ひどい!」
「ひどいのはあんただよ!」

「リーダーとその恋人を甘く見てると痛い目見るんだから!ぜーったい先輩の方が立派だもん!」
「もうヤケよ!湊の方がいいに決まってんでしょ!あ、あ、相性だっていいんだから!」
「体の相性なら負けないよ。シンデレラのガラスの靴並みにピッタリフィットで隙間なし!」
「リアルに言うのやめてくれる!?」
「ゆかりってばウブなんだから」
「あんたがおかしいのよ!どこで変なスイッチ入っちゃったの・・・てかどうやって勝負つけんのよコレ」
「脱がす!」
「はあ!?」
「目視がいちばんでしょ」

同時に玄関が開いた。
なんと、よりによって真田と有里が一緒に帰宅してきた。このタイミングで「二人」が帰ってきたのは偶然なのか、それとも。
「ただいまー。あれ、ゆかり。帰ってたんだ」
「う、うん・・・、・・・・湊!逃げて!馨に刈り取る者が乗り移ってる!」
「え?」
慌てふためくゆかりは必死に湊の背中を押す。
馨は状況がわかっていない自分の恋人にいそいそとしがみついた。
「先輩、おかえりなさい」
「あ、ああ」
「お願いがあるの」
計算されつくした上目づかいだった。ドキッ、と胸が大きく高鳴るのを感じた。声にも動揺が走る。
「な、なんだ?」
ちなみに魅力ステータス「美しき悪魔」が最大出力で発動中。まんまと色目にやられた真田を責めることは誰もできない。

「えっとね」
「だめーー!!真田先輩、逃げてー!」
危機一髪。そういう状況になるのはタルタロスだけで十分だというのに・・・。ゆかりはなんとか二人の間に割り込んだ。
それが誤解を呼ぶとはゆかりの計算外。男二人は驚いてゆかりを見る。
「え、ゆかり・・・心変わり?」
「えっ!?」
「俺より真田先輩が好きなの?」
「ち、ちがう!」
「俺はゆかりだけなのに」
「ちょ、誤解ー!」
「ゆかりのこと、わかってたつもりだったんだけど」
「ちょっと待ってよ、キミそんな弱気な性格じゃないでしょー!」
くるりと背中を向けて寮を出る有里を、ゆかりは必死に追いかけて行った。
なにもかも、馨の思い通りになったようなそうでもないような。リーダーの本気は何よりも恐ろしかった。

「なんだ、岳羽も有里も急にどうしたんだ?」
「さあ?」
二人きりになったラウンジ。馨はそっと真田を抱きしめる。さっきよりも、じわじわときつく。
「ゆかりも大好きだけど、先輩も大好き」
「なんだよ急に」
「ゆかりとあとで仲直りしよっと」
「・・・よくわからんがそうしとけ」
「次はなにで勝負しよっかなあ。正直、大きさも形も時間の長さも、
私がいちばんだと思ってるんだから比べる必要なんてないんですけどね」
「なんの話だ」
「エッチの話です」
「!!!????」

自分がいちばん好きなら、それでいいという結論。

・・・

数日後。
どういう流れか、この間の続きを始めることなった。
一応馨の中での結論は出たはずなのだが。いざとなるとつい意地を張ってしまう。
それは一番気を許せる親友が相手だからなのかもしれない。
暴走はしない、と約束をさせられて、いざ2回戦。今回は穏やかに始まった・・・はずだった。

「たく、大変だったんだから、湊を説得するの・・・」
「ごめんって。でも愛を再確認できたでしょ?」
「ま、まあ・・・」
「ならよかった」
「てか高校生のくせに愛とか真顔で言わないでよ・・・恥ずかしい」
「なんで?真田先輩はちゃんと愛してるって言ってくれるもん」
「なっ、」
「する前もした後もちゃんと言ってくれるもん」
「ちょ、なんでまたソッチ系の話に持ってくの!?」
「愛とエッチは切り離せないんだよ」
「知ってるっての!けどだからもう、なんていうか、節操もってよ!」
「ゆかり、ひどい!私が変態みたいな言い方」
「そこまで言ってないし!」

いつかのゆかりと同じく、ラウンジへと続く階段の踊り場には、例のごとくあの二人がいた。真田と有里である。
馨の問題発言に、出るに出れなくなってしまった。部屋へ引き返すのも何か違う。とにかくここで息をひそめるしかない。
このタイミングでのこの巡り合わせ、特別な二つのワイルド能力の相乗効果かもしれない。

「・・・真田先輩」
「・・・何も言うな有里」
「馨の話ほんとですか。てか顔真っ赤ですよ」
「い、言うな!」
「愛をストレートに言葉にできるって男らし」
「言うなと言ってるだろ!」
「むぐ」
「・・・馨のヤツ、なにを言い出すと思ったら・・・」
「いいんじゃないですか、あれくらいオープンな方が。先輩がムッツリな分バランスが」
「有里!」
「痛い」

ゆかりは拳を握りしめた。ゴメン、湊、でもあたしここで負けるわけにはいかない・・・!
「バカにしないでよ!・・・み、み、湊だって、口数は少ないけど、ちゃんとあたしを大事にしてくれるもん!!」
「へえ?」
「初めてのときだって、あたしが泣いちゃって、そしたらそのままずっとなにもしないでそばにいてくれんだから!」

「・・・・」
「あ、有里、おまえなかなかやるな」
「・・・さすがにちょっと恥ずかしいんですけど」
「安心しろ、岳羽の方が茹蛸のごとく煮えたぎってるぞ」
「まあ、事実なんでしょうがないです」

馨の余裕の表情が崩れたのはこの時だった。額には汗がにじんでいる。馨は震える声でこう言った。
「ま、まさかクロスオーバーで主人公ステータスを追加してくるなんて」
「え?」
「寛容さ、根気、伝達力まで身に着けるなんて、反則じゃない・・・」
「さっきのってそんなにレベル高かったの?」
「だめ、思いつく反撃がない・・・!」
馨は力なく床に膝をついた。それを見ていた真田が反射的に彼女を最大限の小声で応援する。
「な、おい!馨!そんなことで負けるな!」
「真田先輩、さすが勝利への執着が違いますね」
「くそ、俺はあいつのそばにいてやることさえかなわないのか・・・無力だ!」
「階段下りればすぐですけど」

「ちょ、馨、しっかりしてよ・・・あんたらしくないよ」
「いいの、もう、私が負けたの。しょせん真田先輩は主人公の有里くんにはかなわないの。越えられない壁なんだよね」
「や、そこまで言う必要は・・・」

「・・・」
「まったくですね」
「なんだかみじめな気がするんだが、なあ有里」
「俺はなんだかいたたまれないですよ、先輩」

「もういいじゃん、前みたいにみんなで仲良くしようよ。あんたたちの惚気もちゃんと聞いてあげるからさ」
「のろけてなんかないもん」
「馨はそうかもしれないけど、真田先輩がひどいのよ」
「そう?」
「そうなの」

「な、岳羽のヤツ黙って聞いてれば好き勝手なことを」
「事実ですよ」
「おまえまで!」
「ひどいもんです」
「そ、そんなにか・・・!?」
「もはや公害ですね」
「しかし必要以上にべたべたしてるつもりは」
「ないでしょうね。しかしそれ以上です」
「なに!?」
「今更直せというのは無理でしょうから、あきらめます。ホラ、二人とも外行きましたよ。俺達もうみうし行きましょう」
「あきらめたってなんだ!おい、こんな状態で食事がのどを通るわけが」
「男ならあきらめが肝心です。むしろ才能だと思いますよ、真田先輩の」
「さ、才能?」
「自信もってください。俺には無理ですし(いろんな意味で)」
「そ、そうか」
「じゃ、今日は先輩のおごりってことで」
「なぜそうなる!」
「よし、大盛り3杯にはがくれのはしごも行けそうだな」


結局は何も変わらないというお話。

2011/11/06
彼女自慢があるならその逆があってもいいだろう、というすてきなリクエストをいただきました。 それがどうしてこんなことに(汗)