隠し味


料理は下手でも得意でもない。ふつうだ。
けど久しぶりすぎた。それがいけなかったのだ。
彼に喜んでもらおう、なんて考えた私がバカだったのだ。

普段は荒垣先輩しか入らないキッチンを貸し切った。誰の手も借りず一人でやる。そんなの当たり前でしょ?
出来上がった料理を彼に運ぶ。その様子を、他の皆は(なぜか)心配そうに見守っていた。
彼が箸に乗せた料理を口に運ぶ。その感想を待った。

「・・・うすい」
「えっ」
「味しないよ」
「・・・」
「食べれるけど」
「・・・」
「あ、荒垣先輩。俺の夕飯作ってくれます?明日はがくれおごりますから」
「お、おぅ・・・」

震える拳。
荒垣先輩の、珍しく焦った顔。
真田先輩と美鶴先輩は二人ならんでこちらを見ようとしない。
風花も順平もアイギスさえも。私の味方をしてくれなかった。
まずくもうまくもない私の料理は、オチもシャレもない突っ込みどころのない小噺のようなものだった。
自前のエプロンをはぎ取って、彼にぶつけた。皿の上の料理は減っていない。

「なによ!湊のバカぁ!」
「えっ、なにが」
「彼女の料理ならまずくてもなんでも美味いって完食しなさいよ!」
「俺はゆかりの料理より、ゆかり自身の方がおいしいと思うけど」
「!!!!」
「それで文句ないでしょ?別に料理なんか俺がするから」

紅潮する顔。
荒垣先輩は、何も言わずにキッチンに消えた。
真田先輩と美鶴先輩は二人並んで部屋へ戻っていった。
順平は腹を抱えて笑いをこらえている。他のみんなはさらにこちらを見ようとしない。

「湊さん、ご愁傷様です」
アイギスの変わらない口調のこの言葉と、頬を叩く甲高い音が同時にラウンジに響き渡った。
「え、なんで殴るの」
「知らない!このスケベ!」
「事実なのになー」
「こっち来んな!」
「ゆかりのビンタももう慣れたなー、癖になりそう」
「変態!バカ!」

私の特徴のない料理は、コロマルのその日の晩御飯になった。




2011/11/12
真田先輩もキタローも私の中では恋人へのセクハラ常習犯なんですが、確信犯かどうかっていう違いがあります。
もちろん先輩は天然、キタローは故意です。共通点は、本気さ(笑)

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