君の一番になりたい


「美鶴先輩!」
「みつるせんぱーい!」
「あっ、先輩!一緒にかえりましょー!」

馨は美鶴のことが好きだ。すごく好きだ。
「俺と美鶴、どっちの方が好きなんだ」と口が滑りそうになったことが何度もある。
別にやきもちなんか妬いていない。と、言い張りたいがそろそろ無理だ。
馨が誰からも好かれるのは今に始まったことじゃないが、美鶴への接し方は少し違う。
ボディタッチが多い。俺にはそうでもないのに。
馨は美鶴を見つけると、嬉しそうに名前を呼んで犬のように走っていって、ぎゅっとしがみつく。
美鶴は美鶴で微笑みながらそんな馨を受け止める。
はたから見たらほほえましい光景かもしれないが、これが毎日続くのだ。俺の立場はどうなる。

放課後、職員室に行った時のことだ。
階段を下りてくると、馨と美鶴が職員室前の廊下で話していた。
本当なら華麗に階段を飛び下りて二人の間に入って馨を美鶴の前から連れ去りたい。
しかしそんなことをしてみろ、翌日には「処刑」が待っているだろう。
いくら馨のためでも、美鶴の処刑を甘んじて受けるというのは・・・悩みどころだ。
ただでさえトラウマ状態だというのに。とりあえず二人を見守ることにした。
「あっ、そうだ!ワックに新しいバーガーが出たんですよー、一緒に行きません?」
「なに?新作だと・・・?いいだろう、受けて立とうじゃないか。作法は会得したからな、怖いものなど何もない」
「さすが美鶴先輩です!」
「君のおかげだよ」
「やだ、照れますー」
こうして二人の会話を聞いていると、なんだかげんなりしてくる。美鶴はどの男よりも手ごわい気がしてきた・・・。

「・・ん?ああ、タイが曲がっているぞ。仕方のない子だな」

美鶴はそう言うと、馨との距離を一歩縮めて襟元に手を伸ばした。
・・・ち、近い!おい美鶴、近すぎる、もっと離れろ!その距離は俺の特権だと何度言えばわかるんだ・・・。

「うん、・・・これでいい」

美鶴の手によって馨の胸元のリボンはまっすぐ整った。
馨は嬉しそうに笑った。・・・悔しい。
「ありがとうございます!」
「君は不思議だな。頼もしかったり世話を焼かせたり」
「えへへ」
「だから私は明彦が憎たらしくも思う」
美鶴の予想外の言葉に思わず声が漏れそうになる。しかしこらえて我慢強く身を隠し続ける。
「きっと君がすべてを見せられるのは、明彦だけなんだろう」
美鶴は遠い目をしている。おいおい、どうして急にそんな空気になるんだ。

「君が決めたことだしな。明彦は悪いやつじゃないし」
「はい」
「もし君を泣かせるようなことがあれば処刑するまでだ」
その言葉と同時に美鶴がこちらを見たような気がしたのは気のせいか。
どっちでもいいが、冗談に聞こえない。
「とにかくだ。私はもう、何があっても前しか見ない。君と過ごしたおかげだな。・・・馨」
美鶴はふっと微笑むと、馨の頬に手を添えた。それがあんまり自然なものだから、馨は何も言わない。
さっきから美鶴は俺だけの特権を侵害し続けている・・・。

「美鶴先輩、やっと名前で呼んでくれました」
「どうも慣れなくてな。槇村、と呼ぶのが当たり前すぎて」
「あとちょっとしかないですけど、ちゃんと馨って呼んでくださいね」
「ああ。わかった。ところで今日は時間があるんだ。もしよかったらワックとやらに連れて行ってくれ」
「はい!順平が超美味しいって言ってましたよー!」
「それは楽しみだ。・・・行こうか、馨」

馨は美鶴と腕を組みながら、楽しそうに玄関ホールへ歩いて行った。
タイミングよく、逆方向から順平が歩いてきた。俺に気が付くとひらひらと手を振った。

「あ、真田サンじゃないっすかー、珍しいっすね、学校で会うの」
「なあ順平」
「なんすか」
「俺はどうしたら美鶴に勝てると思う」
「・・・は?」

2011/11/12
私の中の美鶴先輩は男よりもカッコイイ。それに付随してどうしても真田先輩がヘタレになってしまう・・・。 こうなったのもすべてはゲーム中の「タイが曲がって〜」発言が始まりでした。 P3Pで萌えたセリフベスト10に入ってます。